72・73話 さらに女神vs幼馴染
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二人は真剣に盤上に目を落としていた。
玲衣さんvs夏帆のチェス対決は、やや夏帆に有利に推移しているようだった。
青い瞳を曇らせ、玲衣さんは困ったように眉を上げた。
玲衣さんは学年でもトップクラスの成績だし、夏帆もかなりの優等生だ。
二人とも頭が良いわけだけれど、夏帆は臨機応変な対応が得意だし、勝負事には強いほうかもしれない。
夏帆は大きな瞳を楽しそうに輝かせ、そしてくすっと笑った。
「せっかく晴人がいるんだし、デートの権利を賭けるだけじゃつまらないよね」
「どういうこと?」
玲衣さんが首をかしげる。
夏帆はいきなり俺に身を寄せ、腕をとって組んだ。
俺は驚いた。
急にどうしたんだろう?
あっ、と玲衣さんも声を上げて、不満そうに夏帆を睨む。
けれど、夏帆はまったく気にしていない様子だった。
「勝った方はデートの権利だけじゃなくて、この場で晴人に好きなことをしてもらうっていうのはどう?」
「好きなこと?」
「勝ったほうが選ぶの。肩を揉んでもらうとか、ハグしてもらうとか、キスしてもらうとか……もっとエッチなことをしてもらうとか」
もっとエッチ、という部分をささやくように夏帆は発音し、そして唇に人差し指を当てた。
玲衣さんが少し赤面し、「もっとエッチなこと……」とつぶやいた。
夏帆が付け加える。
「負けたほうは、罰ゲームとして、勝ったほうが晴人とすることをじっと見てないといけないの」
「ええと、俺の意思はどうなるの?」
「もちろん、晴人には拒否権があるよ。でも晴人はあたしたちにキスされたりハグされたりするのが嫌?」
「嫌なわけないけど……」
「なら、決まりだよね」
「わたしは賛成するなんて言ってない!」
慌てた様子で、玲衣さんが言う。
チェスで劣勢の玲衣さんからしてみたら、何も得することのない提案だ。
けれど、夏帆はにやりと笑った。
「水琴さん、あたしに勝てる自信がないの?」
「そ、そんなことないもの!」
「でも、あたしのほうがかなり有利だよね」
「ここから絶対に逆転するから」
「なら、あたしの提案に反対する理由はないよね? だって、玲衣さんは絶対に勝つんだもの」
うっ、と玲衣さんは言葉に詰まった。
結局、玲衣さんは夏帆の挑発に乗り、提案に同意してしまった。
夏帆はふふふと頬を緩め、「晴人になにしてもらおっかなー」と楽しそうに独り言をつぶやいていた。
「マッサージしてもらうとかいいかも! 晴人ってうまいんだよね」
「そうなの?」
と玲衣さんが興味を持ったように聞き返す。
「うん。今回は裸でマッサージしてもらうとかいいかも!」
「……っ! そんなの絶対にさせないんだから!」
玲衣さんと夏帆の戦いはますます白熱してきた。
ところが、夏帆が油断したせいか、玲衣さんが死にものぐるいで反撃したせいか、形勢は急変し、しだいに玲衣さんが勝つ勢いに変わっていった。
そして、そのままあっけなく勝負は玲衣さんの勝利に終わった。
呆然とする夏帆に対し、玲衣さんはぱあーっと顔を輝かせていた。
「これで晴人くんとデートできる! それに……」
玲衣さんは夏帆を見て、くすっと笑った。
「晴人くんになにしてもらおっかなー」
「それ、あたしのセリフだったのに!」
夏帆がむくれて言う。
ともかく、玲衣さんが勝利を収めた。
そしてこの場で俺が玲衣さんに何かをする、ということになるらしい。
「キスしてもらうのもいいけど……」
悩むように玲衣さんは言い、そして、唇に人差し指を当てて、ふふっと俺に笑いかけた。
銀色の髪がふわりと揺れる。
「じゃあ、晴人くんにマッサージしてもらおうかな」
「それもあたしのアイデアなのに!」
夏帆が地団駄を踏み、悔しそうに唇を噛む。
とはいえ、提案したのは夏帆だから、半分は自業自得なんだけれど……。
玲衣さんはなにか迷っている様子だったが、突然「よし!」とつぶやくと、おもむろに服を脱ごうとした。
「な、なにをしているの、玲衣さん?」
「……服を脱いでいるの」
玲衣さんは口調こそ平然としていたけれど、白い耳たぶまで真っ赤にして、恥ずかしそうに目を伏せた。
「え、えっと、あんまり見ないでほしいな。晴人くん」
俺は慌てて目をそらし、後ろを向いた。
衣擦れの音がする。
おそらく脱いだスカートが床に落ちたのだ。
「えーと、どうして服を脱ぐの?」
「だって、マッサージしてもらうのって……裸になったほうが良さそうだし」
「そういうものでもないと思うけど……」
「あたしも玲衣さんが裸になるなんて絶対反対だから!」
俺の言葉に、夏帆が勢い込んで言葉をかぶせる。
「佐々木さんも、裸になってマッサージしてもらうって言ってたでしょ?」
「そ、それは……。あっ、あたしはいいの!」
夏帆が言い返せなくなり、無茶苦茶なことを口走り始めた。
なんだか二人が言い争っていると収拾がつかなくなりそうだったので、俺は口をはさんだ。
「……裸はさすがにやめておこう」
でも、俺の言葉を二人は聞いていなくて、下着姿の玲衣さんと夏帆が取っ組み合いをはじめた。
俺はそっと部屋を抜け出そうとし、障子戸を開けようとした。
けれど、その前に勝手に扉が開いた。
開いた戸の向こうにいたのは、ブレザーの制服の少女だった。
少女は部屋のなかを見回して、目を点にしていた。
「……なにをやっているんですか、あなたたちは」
呆れたような声で言ったその少女は、玲衣さんの妹の琴音だった。
玲衣さんと夏帆は、琴音を見て、それから互いに顔を見合わせ、そのままフリーズしていた。






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