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64話 ペンギンの……

 クラゲをたっぷり見た後、俺たちは水族館の別のフロアへ進んだ。


 玲衣さんは三万五千匹のイワシを見たいと言っていたけれど、たしかに綺麗だった。


 マグロのような大きな魚に混じって、大量のイワシたちが群れで泳ぐ様子は銀色のカーテンという比喩がぴったりくる。


 玲衣さんが「綺麗」と弾んだ声で嬉しそうにつぶやいていた。

 それ以外にもアシカだとか、深海魚だとかを見て回った後、しばらく歩くと人がたくさん集まっている場所があった。


 俺と玲衣さんは顔を見合わせ、ひょいっと人の肩越しにどんな生き物がいるか覗いた。

 そこにいたのは、ペンギンだった。


 親と一緒に来ている子どもたちが「可愛い!」と言って、指を指している。

 割と小柄な感じのペンギンで白い腹部には、黒い帯模様が一本入っている。


 玲衣さんがつぶやく。


「あれはフンボルトペンギン」


「詳しいね」


「そう? 普通だと思うけど」


 玲衣さんは肩をすくめた。

 俺はあまり動物には関心がなくて、ペンギンの種類なんてぜんぜんわからない。

 

 でも、玲衣さんは単なるデートスポットという以上に、水族館が好きなようだった。

 玲衣さんが関心があるなら、俺も魚やペンギンのことを知ろうとしても良いかもしれない。


 と思っていると、ガラスの向こうのペンギンの一羽が陸に上がり、別のペンギンの上に乗っかった。

 どう見ても不安定な態勢でゆらゆら揺れながらも、必死になってペンギンはバランスをとろうとしている。

 

 しばらくして、俺もペンギンたちが何をしているかわかった。

 玲衣さんを見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいていた。


 けれど、やがて頬を染めたまま、玲衣さんはいたずらっぽく青い瞳を輝かせた。


「晴人くん。あれ、何しているかわかる?」


「それは……」


「わからないんだ?」


「いや、わかるけどさ……」


「あれはペンギンが交尾しているの」


 言われなくてもわかってはいたけれど。

 でも、玲衣さんがみずみずしい唇を開いて、「交尾」と発音するのが妙になまめかしくて、俺は思わずどきりとした。

 玲衣さんがくすっと笑う。


「晴人くん、恥ずかしがってるんだ」


「べつに恥ずかしがってなんかいないよ」


「なら、わたしとそういうことをするのを想像しても、恥ずかしくならない?」


 俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。

 これでは恥ずかしがってないとは言い張れない。


 ただ、恥ずかしいのは玲衣さんも同じだったようで、ますます顔を赤くして、耳たぶまで朱色に染まっていた。


 俺は目をそらした。


「そういう冗談を言うのは良くないよ」


「冗談なんかじゃないもの。わたし、晴人くんにならそういうことされても……いいから。晴人くんは、嫌?」


「嫌なんかじゃないけど……」


 というか、玲衣さんと一緒にお風呂に入ったときはかなり危なかった。

 裸で密着していたあのときは、あとちょっとで俺は理性を失って、玲衣さんとそういうことになっていたかもしれなかった。


 玲衣さんが目を細めて、柔らかく微笑んだ。


「知ってる? ペンギンは一夫一婦制の生活を送るの。一度つがいになったら、ずっと一緒にいるんだって。そういうのって、いいと思わない?」


 俺はガラスの向こうのペンギンを見た。

 一生懸命な二羽のペンギンが互いに身を寄せ合って交尾をしていた。


 もう一度、玲衣さんに目を戻すと、「ね?」と玲衣さんは俺を上目遣いに見つめた。

 俺がうなずくと、玲衣さんは嬉しそうに頬を緩め、俺の手を握った。

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