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45・46話 佐々木さんよりも

 玲衣さんは俺と一緒に風呂に入ると言うけれど、それがどういうことかわかっているんだろうか?

 俺も玲衣さんも下着も含めて何一つ身に着けないということなんだけれど。


「だって、一緒にお風呂ってすごく恋人っぽいもの。わたし、やってみたくて」


「いやいや、でも、それはさすがにまずいよ」


「晴人くん、さっきなんでもするって言ってくれたよね?」


 それはそうだけど。

 俺は困って、「とりあえず風呂にお湯を張ってくる」と言った。


 玲衣さんが嬉しそうに「やった!」とつぶやく。

 一緒に入るって認めたわけじゃないんだけれど。


 俺が風呂場に行って浴槽に向けて水道の蛇口をひねる。

 温度の調整も済んで、浴槽に栓をしたとき、玲衣さんの短い悲鳴がした。


 ひやりと背中に冷たいものが走る。

 なにかまずいことが起こったんだろうか?


 俺が慌てて食卓のあたりに戻ると、玲衣さんは屈んで「どうしよう?」とつぶやいていた。

 びしょ濡れのセーラー服が脱ぎ捨てられ、フローリングの床にかなりの水が広がっていた。

 さっき玲衣さんは夏帆と同じことをするんだと言って、勢いよく服を脱いだけれど、床が濡れることとかはまったく考えていなかったらしい。


 拭くから大丈夫だよ、と言い掛けて、俺は固まった。

 しゃがみこんだ玲衣さんを上から見ると、ちょうど胸の谷間が綺麗に見えて、しかも下着がずれかけていた。


 不思議そうに玲衣さんは俺を見上げ、それから自分の胸のあたりを見て、顔を真っ赤にした。


「は、恥ずかしいから見ないでほしいな」


「ごめん。だけど、これで恥ずかしがってたら、一緒にお風呂なんてとても無理だと思うけど」


「そ、それは……」


 玲衣さんが言葉に詰まる。 

 意外と抜けていて、そういうところも玲衣さんは可愛いなと思う。


 いまは玲衣さんのそういう姿さえ見られれば十分で、いきなり裸でお風呂なんかに挑戦する必要はないと思う。

 俺がそう言うと、玲衣さんは首を強く横に振った。


「わたし、恥ずかしくなんてない!」


「本当に?」


「恥ずかしいけど……」


「無理する必要はないと思うよ。焦らなくても……」


「わたし、焦る必要があるの」


「なんで?」


「だって、晴人くんのファーストキスは佐々木さんに奪われちゃったもの。だから、はじめて一緒に入るのは、わたしがするんだから!」


「あー……」


 俺が微妙そうな顔をしたのに気づき、玲衣さんが大ショックという表情をした。

 玲衣さんの想像したとおり、夏帆と一緒にお風呂なら入ったことがある。


 まあ、幼馴染で、家族ぐるみの付き合いがあったので。


「それって、晴人くんたちが何年生のとき?」


「最後に入ったのは小学五年生だったかな」


「小学五年生……! それって、犯罪!」


「いやいや、犯罪ということはないと思うけど」


「だって、小学五年生なら、もうお互い男の子と女の子だって意識するでしょう?」


「それなら、俺たちは高校一年生で一緒にお風呂に入ろうとしているわけだけど、それはいいの?」


「だって、わたしと晴人くんは恋人同士だもの。だから、ぜんぜん問題ないんだから!」


「そうかなあ」


「ともかく! 佐々木さんとお風呂に入ったことがあるなら、わたしだって晴人くんと一緒に入らないと負けちゃう……!」


 そんなことをあれこれと言い合っていたら、いつの間にかそれなりに時間が経っていて、浴槽に湯が十分に入っていた。

 何でもすると言ってしまった以上、玲衣さんの頼みを俺はきくけれど、一つだけ条件を出した。


 バスタオルをつけて、完全な裸でない状態にしてほしい。

 ちょっと玲衣さんは不満そうにしたけれど、しぶしぶそれを受け入れた。


 俺たちは一緒になって風呂場の前の脱衣場まで来た。

 そして、玲衣さんは真っ白なバスタオルを身体に巻きつけると、粛々と服を脱ぎはじめた。

 スカートと下着一式が床に落ちる。


 俺は赤面した。

 くすっと玲衣さんは笑った。


「わたしたち、これから毎日こんなふうに、二人でのんびり過ごせるんだよね?」


 玲衣さんはとても楽しそうで、それは俺にとっても喜ばしいことなんだけれど、一方の俺の心はぜんぜんのんびりしていない。

 やっぱり玲衣さんにバスタオルをつけてもらっても、俺は平静心を保てない恐れが大だ。


 それに玲衣さん、「毎日」っていったけど、まさか「一緒にお風呂」も毎日とか言い出さないだろうか?


 俺がいろいろ考えていると、玲衣さんが俺に近づき、耳元でささやいた。


「晴人くん、女の子と一緒にお風呂に入るのって興味ないの? 男の子ってこういうの好きだと思ってた。お互いの身体を洗ったりとか、狭い湯船で一緒に身を寄せ合ったりとか」


「そりゃ興味はあるけど……困る」


 ふふっ、と玲衣さんは笑った。


「晴人くんを困らせられるなんて、ちょっと嬉しいかも。佐々木さんよりも、わたしのほうがいっぱい晴人くんを困らせてあげるんだから。だって……」


 そこで玲衣さんは言葉を切って、俺を見つめた。

 そして、頬を染めて、嬉しそうに弾んだ声で言う。


「わたしは晴人くんと一緒に住んでいるんだもの」

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