37話 女神様とキス?
その日の授業が終わると、水琴さんは俺の席に来て、顔を赤くしながら「デートするんだよね?」と言った。
水琴さんと隣町の水族館に行く約束だった。
周囲のクラスメートたちは、俺たちに注目していたが、朝ほどではない。
こうやって恋人のフリを続けていれば、だんだんそれが当たり前になっていって、誰も気にしなくなるに違いない。
ただ、夏帆だけは朝よりも強い視線で俺たちのことを見つめていた。
俺が視線を返すと、夏帆は気まずそうに視線をそらした。
夏帆に事情を説明したほうがいいだろうか?
でも、それも水琴さんの了解を得てからだ。
俺たちは学校を出て、バスに乗ってJRの駅に行き、ホームに立った。
反対側のホームのさらに向こうに、山並みと夕日が見える。
6両編成の列車がホームに到着した。
銀色の車体にオレンジ色のラインが入っている。
俺が先にドアに入ると、車内はガラガラで誰もいなかった。
ロングシートの椅子の一番端に腰掛けると、水琴さんはぴたっと俺のすぐ隣りに座った。
互いの足とかお尻とかがかなり密着していて、柔らかい感触が伝わってくる。
俺は顔を赤くして水琴さんを見ると、水琴さんも頬を染めて見返した。
「晴人くん、どうしたの?」
「いや……誰もいないし、もっと離れてもいいかなと思って」
「わたし、晴人くんのすぐとなりにいたいの。ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「なら、いいよね?」
一番端の席にいるのが俺だから、逃げようにも逃げられない。
俺は観念した。
まあ、ほかに車内に誰もいないのが救いかもしれない。
水琴さんが弾んだ声で言う。
「わたしたちの貸し切りだ!」
「たしかに、そういう状態になってるなあ」
「これなら、どれだけイチャついても何も言われないよね」
水琴さんが綺麗に微笑み、俺の目をのぞき込んだ。
銀色の髪がふわりと揺れる。
俺はくすっと笑った。
「誰もいないところで、恋人のフリをしても意味がないよ」
「意味がないわけじゃないよ」
「どういうこと?」
「練習になるでしょ? 学校で見せつける本番の前の。それにいつでも恋人って意識しておいたほうが、とっさのときもバレにくくなると思うから」
「そういうものかなあ」
「そういうものだと思う。それじゃ、何する?」
「水琴さんが決めるんじゃないの?」
「晴人くんに決めてほしいな」
そう言うと、水琴さんは甘えるように、俺の肩に軽く頬を寄せた。
もう十分恋人っぽいことをしてると思うんだけど。
これ以上、何があるんだろう?
下の名前で呼ぶのは水琴さんが実行中。ハグはした。
俺は困って、そういえば、その前に話しておかないといけないことがあったなと気づいた。
「えっとね、夏帆のことなんだけど」
「佐々木さん?」
「水琴さんと恋人のフリをしてること、夏帆にだけは言っておこうかな、と思って」
「それは嫌だな」
「どうして?」
「だって、佐々木さんだけ特別扱いする必要ないもの。他の人と同じようにわたしたちのことを彼氏彼女だって思ってもらえばいいと思う」
「でも……」
「やっぱり、晴人くんは佐々木さんのことが好きなんだ?」
「それは……たぶん、そうだと思う」
ふうん、と水琴さんはつぶやくと少し傷ついた顔をした。
そして、頬を膨らませて、俺を睨む。
「わたしたち、恋人のフリをしているんだよね?」
「確認してもらわなくても、そうだけど?」
「普通、彼女といちゃついてるときに、他の女の子の話をする?」
「あー……たしかに、しないと思う」
「そうでしょう? 晴人くん、意地悪だよ」
「ご、ごめん」
「代わりに、すごーく恋人っぽいことをしてくれないと、許してあげないんだから!」
そう言うと、水琴さんは逃さないぞといった感じで俺の手をつかんだ。
困った。
どうしよう?
すごく恋人っぽいことってなんだろう?
「ええと、ハグする?」
「それは今日のお昼にやったもの」
「頭を撫でるとか」
「それも魅力的だけど……でも、ハグより恋人っぽさが落ちてない?」
「うーん」
俺は頭を回転させた。
なにかあるだろうか。
「キス……はダメだよなあ」
俺はぽつりとつぶやいた。
今日の朝もそれは一瞬考えたけど、論外だ。
さすがに恋人同士のフリでやる話ではないと思う。
「き、キス?」
水琴さんがみるみる顔を赤くした。
やっぱりダメそうだなあ、と俺は思う。
「キスは水琴さんも嫌だろうから、やめておくよ」
「い、嫌じゃない」
「え?」
「晴人くんがそうしたいなら、わたし、ぜんぜん平気。ううん、嬉しい。みんなの前で見せつければ、きっと誰も疑わなくなるし、れ、練習しておこう?」
水琴さんは熱のこもった声でそう言うと、期待するように俺を見つめた。
その青い瞳はかすかに潤んでいて、頬も上気させている。
どうやら本当にしてもいいということらしい。
「いや、でも、さすがにそれは……」
「してくれないと許してあげない。晴人くんは、わたしの望むようにしてくれるんだよね? わたし、晴人くんにキスしてほしい」
「そうだけど……でも……」
俺はためらい、水琴さんのみずみずしい柔らかい唇を見つめた。
水琴さんの提案が魅力的でないといえば嘘になる。
こんな可愛い子に望まれて、キスをできるなんて、もう一生ないかもしれない。
俺は覚悟を決めた。
水琴さんがいいと言っているんだから、と思い、俺は水琴さんの肩を抱いた。
水琴さんが目を見開き、ちょっとこれ以上はないんじゃないかと思うぐらい顔を真っ赤にした。
「ほ、ホントにするの?」
「水琴さんがそうしてほしいと言ったから」
「う、うん」
水琴さんは目をつぶり、俺に身を委ねた。
あとは、俺からキスをするだけだ。
俺は水琴さんの顔に、そっと近づいた。
ちょんと、俺の口が水琴さんに触れる。
「あれ?」
水琴さんが不思議そうにつぶやく。
俺はそのまま水琴さんから離れた。
水琴さんは目を開けて、自分の頬をさすった。
俺は微笑した。
「さすがに唇にキスしたりするのはどうかと思ったから」
「だから、ほっぺたにキスしたの?」
「そういうこと」
まあ、さすがに本当に付き合っているわけでもないのに、唇同士で気軽にキスしたりはできない。
水琴さんがうーっと俺を不満そうに睨み、しばらくしてから、くすくすっと笑った。
「期待して損しちゃった」
「期待してたの?」
「そんなこと聞く?」
「いや、今の質問は取り返すよ」
「答えてあげる。ほっぺたにキスでも嬉しいけど、唇にキスしてくれたらもっと嬉しいと思う。わたし、晴人くんがそうしてくれることを期待してるんだよ?」
「ええと、水琴さんは男嫌いだから、そういうこと嫌いだと思ってたけど」
「晴人くんだから、いいんだよ。わたし、他の人とそんなことしたことないし。晴人くんは女の子とキスしたことある?」
俺は首を横に振った。
もちろん夏帆ともそんなことをしたことはない。
「それなら、わたしと晴人くんが唇同士でキスするときは、お互いファーストキスってことだよね」
「そうすることがあれば、ね」
「わたしは……あるといいと思ってるの。晴人くんもそう思うようになってくれたら、嬉しいな。そうなったときに、今度はちゃんとキスしてほしい」
水琴さんはすごく楽しそうに微笑んだ。
水琴さんの言葉を聞いて、俺も気づいた。
今日の朝からの水琴さんの言葉や行動を考えると、ある結論に達する。
夏帆が俺を好きだとずっと誤解していたから、どうも俺は自分の感覚に自信が持てないのだけれど。
たぶん水琴さんは単に恋人同士のフリがしたいのではなくて。
俺のことが本当に好きなのかもしれない。
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