31話 より良い居場所へ
水琴さんの宣言によって、状況は一変した。
ユキはさっきまで水琴さんを追い詰めようとしていたけれど、今度は焦り顔になっていた。
「水琴さんは私の話を聞いていなかったの? アキくんのことを考えずに、夏帆にアキくんを渡さないなんて、自分勝手なこと、どうして言えるの?」
「自分勝手でもいいんだって、秋原くんが言ってくれたからだよ」
「私はそんなの認めない! アキくんは夏帆と一緒にいるのが一番ふさわしいんだから!」
「それが桜井さんの本当の望み? 桜井さんの代わりに、佐々木さんが幼馴染として秋原くんと恋愛してくれるってこと?」
「そんなこと……言ってない。ううん、それが私の望みなのかも」
ユキの瞳が揺れていた。
水琴さんが優しく言う。
「きっとそれは桜井さんの本当の望みではないと思う。桜井さんも自分勝手になればいいんだよ。秋原くんのことを好きなのは、佐々木さんじゃない。秋原くんのことを好きなのはあなた自身なんでしょう?」
「私は、秋原くんのことじゃなくて、秋原くんと夏帆の関係が……」
ユキの言葉はそこで止まった。
「あなたの望みを叶えられるのはあなただけなんだから」
そう言うと、水琴さんは俺を振り向いた。
「秋原くん。練習しよう」
「練習? なんの?」
「わたしたち、恋人同士のフリをするんでしょう?」
「ああ、うん。水琴さんがそうしたいなら」
「だったら、試しにわたしに好きって言ってみて」
「へ?」
「恋人なんだから、言えるよね?」
そう言うと、水琴さんは顔を赤くして、まっすぐに俺を見つめた。
なんで急に水琴さんはそんなことを言いだしたんだろう?
ユキがいるこの状況で、だ。
弱った。
それはちょっと恥ずかしいんだけれど。
「えっと、好きだよ」
「……気持ちがこもってない気がする」
「俺は水琴さんのことが大好きだよ」
もういっぺん言ってみた。
二回目もぎこちない演技だったと思うけど、水琴さんはちょっと嬉しそうに目を細めた。
一方のユキは、といえば、ショックを受けた顔をしていた。
ユキに対して、水琴さんが静かに言う。
「もし桜井さんが秋原くんのことを好きじゃないなら、どうしてそんな傷ついた顔をするの?」
「……っ。そ、それは……」
ユキは苦しそうに胸を抱いた。
そして、ユキは目を伏せて、つぶやいた。
「私が変だってことぐらい、私だってわかってるよ。それでも、私は……アキくんと夏帆に一緒にいてほしいのに」
たぶん、ユキは自分自身でも自分の言っていることを、自分の気持をよくわかっていないんじゃないだろうか。
そんな気がした。
ユキはくるりと部屋の扉へと向けて身を翻した。
「授業に出なくちゃ」
そして、ユキは部屋から姿を消した。
水琴さんはほっとため息をつくと、その場に座り込んだ。
俺は慌てて水琴さんの青い瞳をのぞき込んだ。
「だ、大丈夫? 水琴さん」
「ちょっと……疲れちゃった」
「ごめん」
「どうして秋原くんが謝るの? わたし、嬉しかったんだよ? 秋原くんが、わたしの望むようにしていいって言ってくれて」
そう言うと、水琴さんが俺の手をつかんだ。
水琴さんの白い指先が俺の指に絡められる。
「み、水琴さん。えっと、そろそろ授業に行かないと……」
「秋原くん、わたしのわがまま、聞いてくれるって言ったよね」
「そうだけど?」
「わたし、このままこうしていたい。一時間目の授業、サボっちゃわない?」
「え?」
「わたしたちが戻ってこなければ、クラスのみんなも、わたしたちの仲をもっと誤解してくれると思うの」
「誤解されると困るんじゃない?」
「わたしたち、彼氏彼女のフリをするんでしょう? だったら、授業をサボってデートして、イチャついていたぐらいに、みんなには思ってもらったほうがいいと思う」
「デートをするなら、こういう薄暗い部屋じゃなくて、もっと雰囲気のあるところを選ぶってみんなには言っちゃったんだけどなあ」
俺はぼやいた。
水琴さんと二人でどこにいたの?と聞かれて暗くて狭い生物準備室なんて答えようものなら、それこそいかがわしいことをしていたと勘違いされかねない。
水琴さんがくすっと笑った。
銀色の髪がふわりと揺れる。
「だったら、秋原くんが雰囲気のあるところを選んでよ。今から、そこに行けばいいんじゃない?」
「学校のなかで、っていうと難しいな。でも考えてみる」
「うん。きっと秋原くんなら、ここよりももっと居心地の良いところへ、わたしを連れて行ってくれると思うから」
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「水琴さん可愛い!」
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