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142話 メリークリスマス、玲衣さん

まずは、買ってきたものを冷蔵庫にしまう。ケーキは最後に食べるし、飲み物も冷やしておこう。ついでに寒い部屋に暖房も入れる。


 準備ができると、俺と玲衣さんは向かい合って食卓についた。


 とりあえず、最初は乾杯。シャンパン風のぶどうジュースも買ってきた。

 玲衣さんが俺のグラスに、瓶からジュースを注いでくれる。


「ありがと」


 今度は俺が玲衣さんのグラスにジュースを注ぐ。


 ジュースは見た目もきれいで透き通った黄金色だ。まるで本物のシャンパンのように、泡が立つところが面白い。


 玲衣さんがぽんと手を打つ。


「やってみたかったことがあるの」


 玲衣さんはそう言うと、小さな白い円形のものを取り出した。それは……キャンドルだった。

 正確にはキャンドルライトの形をした電池式の照明のようだ。玲衣さんはそのキャンドルをいくつも食卓に並べる。


 そして、窓をカーテンで閉めて、部屋の蛍光灯の明かりを落とした。

 すると、キャンドルライトのみが、食卓をほのかに照らした。


「すごい……」

 

 俺は驚いた。ただの普段のアパートがお洒落で幻想的な空間になっている

 玲衣さんは、俺の反応を見て、得意げな笑みを浮かべる。


「気に入ってもらえて良かった。やっぱり、雰囲気が大事だよね。ね、乾杯しよう?」


「そ、そうだね」


 俺と玲衣さんはグラスをこつんと合わせ、そしてグラスに口をつける。ノンアルコールとはいえ……かなり渋めのぶどうジュースだ。


 本物のお酒の味を再現しているからなんだろうか? いや、酒を飲んだことはないけど、なんか違和感があるな……。


 でも、玲衣さんは気にせず一気に飲み干してしまった。


「美味しいね」


「う、うん……」


「ね、晴人くん。もう少しほしいな」


 俺は玲衣さんのグラスに、ぶどうジュースを注ぐ。

 玲衣さんは「ありがとう」と言うと、ふたたび口をつけた。

 

 それからグラスを置いて、キャンドルライトが照らす狭い部屋をぐるりと見回し、そして、満足そうな表情を浮かべる。


「本当に……二人きりのクリスマスだね」


「メリークリスマス、玲衣さん」


 玲衣さんは幸せそうに微笑み、うなずいた。


「わたし、やっぱりこの家が……わたしと晴人くんの家が好き。お屋敷でなくてもいいの。こういう部屋で晴人くんと二人きりで……新婚生活、送ってみたいな」


「け、結婚できるのは18歳になってからだけどね」


 俺は玲衣さんの言葉に動揺して、つい照れ隠しにそんなことを言ってしまう。玲衣さんはおかしそうに笑う。


「18歳なんてあっという間だよ。あと二年後だもの」


「たしかにそれもそうか……高校を卒業するころには二人とも18歳だものね」


「だから、高校を卒業する頃までには、わたしが遠見家の後継者になって、晴人くんと婚約する。そして、晴人くんの心も手に入れてしまうの。そうすれば、18歳で結婚できるよね?」


「い、いや、そこまで焦らなくてもいいんじゃないかな……」


「わたし、焦ってるよ。大好きな人がいるから、初めて一緒にいたいと思えた人がいるから、わたしはその人のことを離したくないの」


 玲衣さんは静かに言うと、突然、椅子から立ち上がった。そして食卓から身を乗り出し、グラス越しに……俺の唇を奪った。

 不意打ちだった。キスされるのは久しぶり……観覧車でデートしたとき以来だ。


 だからなのか、玲衣さんのキスは情熱的で、まるで俺のすべてが玲衣さんのものだと主張するかのような激しさがあった。


 その甘い香りと感触に、俺はくらりとする。

 やがてキスを終えると、玲衣さんは真っ赤な顔で言う。


「わたしは晴人くんのことが大好きなの」


「ありがとう……玲衣さん。俺も……」


 こんなに美しくて、魅力的で、優しい少女に「大好き」と言われるなんて、俺は幸せだと思う。

 俺も玲衣さんの思いに応えたい、と強く思う。


 俺は立ち上がり、今度は自分から玲衣さんにキスしようとする。


 ところが、椅子から立つと、妙な浮遊感があった。おかしい。

 違和感が強くなる。


 見ると、玲衣さんも顔が真っ赤……ただ恥じらっているだけにしては、赤すぎる!

 俺は慌ててジュースの瓶を見た。それは、俺が買ったノンアルのジュースではなく、アルコール分11%の本物のシャンパン……スパークリングワインだった。


 しまった。たぶんこれは雨音さんが帰ってきたときに、冷蔵庫に置いておいたんだ。お土産かなにかなのかもしれない。


 そして、それをうっかり玲衣さんが勘違いして持ってきてしまった。買い出しした荷物を整理しているときに混ざったのだろう。


 玲衣さんの青い目はとろんとしていて……妖しく光っていた。

 だ、ダメだ。俺はともかく、玲衣さんは完全に酔っ払ってしまっている。


 一杯目をぐいっと飲み干したし、普段は当然飲み慣れていない酒なわけだし……。

 

 玲衣さんが宝石のような美しい瞳を爛々と輝かせ、食卓の反対側、つまり俺の方へとやってくる。

 そして、玲衣さんは正面に立って俺を見下ろした。


「れ、玲衣さん……こ、これ、お酒だったみたいだけど、大丈夫?」


「お酒? わたしは全然平気! なんだかとっても気持ちいいけど」


「たぶん、それは酔ってる……わ、わわっ」


 突然、玲衣さんが俺に抱きつく。そして、甘えるように俺に頬ずりした。


「晴人くん、慌ていてすごく可愛い……!」

 

「ちょ、ちょっと待って。玲衣さん! 落ち着こう、いろいろ当たってる……!」


 玲衣さんの身体の柔らかい部分が遠慮なしに俺の身体に押し当てられている。座っている俺に、玲衣さんは完全にその軽い体重を任せていた。

 そして、玲衣さんは俺の頬をぺろぺろと舌でなめたり、大きな胸を上下に俺にこすりつけたりしている。


 玲衣さんはふふっと妖艶に笑った。

 

「わざとやってるんだよ?」




次話で一区切り……の予定です! 3巻も明日発売なのでよろしくです!

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