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138話 覚悟

「俺、ですか?」


「そうだ。君は、琴音が婚約者では不満かね?」


 平坦な声で問われ、俺は「いえ、そういうわけでは……」と口ごもってしまう。


 不満、というわけじゃない。琴音は清楚な美少女で、そして、俺を好きでいてくれる。琴音と結婚すれば、遠見家の後継者という立場も手に入る。


 それを魅力的だと思う男は多いと思う。


 でも、俺は違う。俺にはもっと大事なことがあって、玲衣さんがいるのだから。

 遠見総一朗相手でも、俺ははっきりと自分の考えを言わないといけない。


 そうすることが、玲衣さんの計画を成功させることに……つまり、玲衣さんを支えることにつながる。


 俺は琴音をちらりと見た。琴音は俺と目が合うと優しく微笑む。ただ、その瞳は不安そうに揺れていた。

 これから、俺が言おうとしていることを予測しているのかもしれない。


 俺は遠見総一朗をまっすぐ見つめる。


「不満があるわけではありません。琴音みたいな魅力的な女の子が、俺を好きだと言ってくれて、俺を婚約者に望んでくれるのは、とても光栄なことだと思います。それに、ご当主様は、祖母との約束で俺を気にかけてくれて、今は平凡な俺を遠見家の後継者にしようとしてくれているのですよね? それはありがたいことだと思います」


「ふむ。それなら、君は琴音との婚約を受け入れるのかな?」


「いえ、それは違います」


「なぜ?」


「これまで、俺は平凡な……無色透明な存在でした。でも、それではどんな選択をするにしても、失格だと思います。それでは俺は玲衣さんのことも、琴音のことも、幼馴染や従姉のことも支えることができません。だから、俺は自分の力で立てるような存在になりたいんです」


「それは素晴らしい決心じゃが、何もそう急ぐことはない。立場が人を作る。君は琴音を救ってくれた。これからも琴音の婚約者としてそばにいることで、いずれ君は十分に意味のある存在になれる」


「そうですね。そうかもしれません。琴音の力を借りて、遠見家の言う通りにしていればいいのかもしれません。そうすれば俺は大金持ちになれるかもしれない。でも、そんなのにはまったく興味はありません」


「ほう?」


「俺が支えたいのは、琴音ではなく玲衣さんなんです。もし玲衣さんが遠見家の後継者になるなら、俺も玲衣さんを支える存在になりたい。そうすることで、俺は玲衣さんにも、遠見家にもふさわしい後継者になれると思います」


「ふむ。遠見家の後継者候補になるつもりはあるわけじゃな」


 遠見総一朗は短く言うと、俺をまっすぐにじっと見つめた。その黒い瞳は爛々と輝き、俺を品定めするように見ていた。


 俺はその威圧感に負けそうになる。

 でも、言わないといけないことがある。


「俺に遠見家の後継者になれというなら、俺を玲衣さんと結婚させてください。俺にもほしいものはあるんです。玲衣さんを……俺にください!」


 その場の全員、つまり玲衣さんも琴音も遠見総一朗も固まった。

 それから玲衣さんがみるみる顔を赤くする。


「は、晴人くん……それって……」


「俺が玲衣さんの婚約者になるよ。決めたんだ」


「で、でも……」


「俺は玲衣さんの力になりたい。玲衣さんを支えたい。だから 玲衣さんの婚約者になるって決めたんだ。もし二人で遠見家の後継者になるなら、それでもかまわない。俺が玲衣さんを必ず幸せにしてみせるから」


 玲衣さんは一瞬、言葉が出てこないようだった。そして、少しして口を開く。


「は、晴人くんがそう言ってくれて、本当に嬉しい。そっか……私は、これからも晴人くんを頼りにしていいんだ」


「もちろん。俺が玲衣さんを支えるよ」


「うん!」


 玲衣さんは青いサファイアのような瞳に涙を浮かべて、うなずいた。それは悲しくて浮かべた涙じゃなくて、きっと嬉し涙だ。


 琴音が慌てた様子になる。


「は、晴人先輩の婚約者は私です! 遠見家の正統な後継者候補も私! お祖父様だって、認めてくれています! いくら先輩の意思だからって通ると思わないでください」

 

「通してみせるさ。今はまだ俺と玲衣さんは不適格かもしれない。俺が玲衣さんを支えて、玲衣さんが俺を支えてくれれば、遠見家の後継者になるだけの能力も意思も手に入れられると思う」


 なおも琴音は反論しようとしたが、遠見総一朗はそれを手で制した。

 そして、遠見総一朗は俺を見つめる。


「君は玲衣とならこの先も歩んでいけると、約束できるわけだね?」


「はい。ですから、琴音の婚約者ではなく、玲衣さんの婚約者に俺をしてほしいんです」


 言ってしまった、と思う。もう引き返しはつかない。

 もともとは琴音との婚約を保留にすればよいと思っていた。でも、それではやっぱり不十分だ。


 玲衣さんと婚約者になれば、琴音との婚約問題は決着がつく。

 もちろん、今度は玲衣さんと婚約者になるわけだけど……。俺はそれでもいいと思っていた。


 だって、玲衣さんは俺にとって大事な存在だから。


 俺の訴えを、遠見総一朗は黙って聞いていた。

 そして、口を開く。俺も、玲衣さんも、琴音も、緊張した表情で遠見総一朗の言葉を待った。


「玲衣を晴人君の婚約者とするのは、いまのところはやめておこう」


 俺はショックを受けた。玲衣さんはつらそうに目を伏せ、琴音は安心したようにほっと息をつく。


 この提案も拒否されてしまった。やっぱり、遠見総一朗を説得するのは無理なのだろうか。


 だが、遠見総一朗は言葉を続けた。


「同時に、琴音との婚約も白紙に戻そう」







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