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137話 晴人はどうしたいのか?

「う、うん……」


 玲衣さんは深呼吸した。少し落ち着いた様子で、そして、遠見総一朗をふたたび見上げる。


「わたしだって遠見家の娘です! なら、わたしが晴人くんの婚約者になって、二人で遠見家の後継者になることもできるはずだと思います。お祖父様もご存知だとは思いますが、わたしは琴音よりも優秀です。きっと遠見家を立て直してみせます」


「それで?」


「で、ですから晴人くんと琴音との婚約は保留にしてください。わたしと琴音、どちらが遠見家の婚約者にふさわしいか、決着がつくまで待っても遅くないはずです」


 遠見総一朗からしてみれば、玲衣さんを後継者にすることが現実味を帯びれば、琴音と俺の婚約を急ぐ必要もなくなる。


 遠見家の利益のために、より良い後継者を選ぶために、時間をかけてもよいはずだ。

 ところが、遠見総一朗は首を横に振った。


「いまのところ、私は玲衣を後継者にするつもりも、晴人君と結婚させるつもりもない」


 厳しく冷たい結論が俺たちに突きつけられる。琴音は隣で勝ち誇った顔をして、ふふっと笑っていた。


 玲衣さんの顔が焦りで引きつる。


「ど、どうしてですか? わたしがお母さんの……愛人の子だから? でも、それなら、わたしがお祖父様の養子になれば済みます。ハンデがあるのはわかっていますが、それをカバーできるだけの能力も示してみせることだって――」


「そういうことではない、玲衣」


 遠見総一朗は静かに言った。

 そして、思いの外、優しい視線で玲衣さんを見つめる。


「わしが玲衣を後継者にしないのは、玲衣がそれを望んでいないからじゃ」


「わ、わたしは遠見家の後継者になりたいと思っています!」


「違うな。琴音は遠見家を受け継ぐ覚悟ができている。そういうふうに琴音は育てられた。だが、玲衣は違う」


「そ、それはわたしでは能力が足りないということですか……?」


「能力の問題ではない。意思の問題だ。たしかに玲衣は、琴音にはない美徳がある。だが、遠見家を継承することを、玲衣は本心から望んでいるかね? 本当の願いは別のところにあるのじゃろう?」


「それは……」


「正直に言ってごらん」


 遠見総一朗は穏やかな口調でそう言った。俺は遠見総一朗の意外な一面を見た気がした。玲衣も琴音も大事な孫、と遠見総一朗はかつて言っていた。その言葉に、嘘はないのかもしれない。


 玲衣さんは戸惑った様子でうつむき、そして言葉を紡ぐ。


「本当は、わたしにはほしいものがあるんです。譲れないものがあるんです。わたしは、晴人くんがほしい。だから、遠見家の後継者になって、晴人くんの婚約者になろうとしました。それは間違っているのでしょうか……?」


「間違っているとは言わない。だが、それは問題の一面だけを切り取ったものだ。君は晴人君を手に入れて、その後はどうしたい?」


「それは、晴人くんとずっと一緒に暮らして……」

 

 そこで玲衣さんの言葉は途切れてしまう。

 そう。その先のことを、俺たちはまったく具体的にイメージできていない。多少は想像できるとしても、それを明るい未来として思い描けない。


 二人で遠見家の後継者として、遠見グループを経営することにはなると思う。それを玲衣さんは俺に重荷を背負わせることになる、と恐れていた。


 反面、琴音の態度は明確だった。琴音は俺を婚約者として、遠見グループの後継者になる。

 それが琴音の望みだし、そうすることで琴音は俺を幸せにできると言い切った。


 遠見総一朗は、玲衣さんに問う。


「仮に、今後、玲衣が遠見家の後継者として認められて、晴人君と婚約したとしよう。だが、それが幸せなことだと言い切れなければ何の意味もないのではないかな?」


 遠見総一朗の言う事は正論だった。能力ではなく意思の面で、玲衣さんは琴音の代わりにならない。


 玲衣さんは口をぱくぱくさせていて、何も反論を思いつかないようだった。

 このままでは、遠見総一朗は考えを改めない


 でも、これは玲衣さんのせいじゃない。玲衣さんが遠見家を背負う未来を思い浮かべられないのは俺のせいでもある。


 俺が玲衣さんの婚約者になると決意できていないから、玲衣さんは自分の判断に確信が持てない。

 

 玲衣さんは俺を気遣ってくれている。夏帆や雨音さんのこともあるし、俺が遠見家に拘束されて、将来の可能性を失うのを、玲衣さんは気にしていた。


 だから、玲衣さんは、遠見家の後継者となる覚悟を決められないし、それが幸せなことだと明言できない。


 だとすれば、足りないピースは一つだけだ。

 遠見総一朗が俺を振り向く。


「晴人君。君はどうしたい?」






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