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136話 俺がいる

 ドレスの貸し出しを受けた玲衣さんと違って、琴音は自分用のドレスがあるのだろう。もともと琴音は社交の場に出ることも多かったし、着慣れている感じがする。


 アクセサリーには、おそらく本物の大きなダイヤモンドがついていた。さすが遠見家嫡流のお嬢様だ……。


 琴音は気を取り直したように微笑む。


「どうですか、先輩。婚約者のドレス姿は?」


「琴音……俺は……」


 もちろん、似合っているし、とても綺麗だと思う。それはそうだろう。このドレスは、琴音のために作られていて、琴音は豪華なドレスを身にまとうのがふさわしい美少女なのだから。


 琴音は両親を失ったけれど、遠見家から多くのものを与えられてきたのだと思う。 


 だけど、俺は琴音のドレス姿を今、ここで褒めるわけにはいかない。だって、俺の隣には玲衣さんがいて、これから琴音との婚約を破棄するのだから。


 もう一つ理由がある。

 俺は……玲衣さんの方がずっと美しいと思っているから。


 琴音もそのことには気づいているらしい。肩をすくめた。


「先輩の婚約者は、少なくとも、今は私です。なのに、浮気していたんですか?」


「俺はまだ、琴音を婚約者と認めたわけじゃない」


「そうですね。でも、すぐに私たちは正式な婚約者になります。このパーティで、私たちは婚約を発表するんですから!」


 琴音はきっぱりと言い切る。

 そう。琴音の計画通り進めば、いよいよ引き返しがつかない。だからこそ、その前に遠見総一朗を説得する必要がある。


 遠見総一朗の挨拶の後に本人を捕まえて直談判するつもりだった。


 でも、偶然ここで会ったのは、ちょうどいい機会だ。ここなら当事者以外には誰もいない。


 遠見総一朗は紋付袴の和服の礼装をしていた。威圧感がすごい……。

 白いひげが特徴的な、威厳のある容姿だ。斜陽とはいえ、巨大企業グループのトップでもある。


 しかも、遠見家の抱えた問題の一つは、外部企業の大規模な出資によって回避された。遠見総一朗はその出資の交渉を成功させたわけで、自信たっぷりというわけだ。


 それでも、俺たちは立ち向かわないといけない。


 俺が言葉を発しようとしたとき、玲衣さんが俺の服の袖をつまんだ。

 

「これは……わたしの問題だから。わたしから話させて」


「わかった」


 俺がうなずくと、玲衣さんもこくりと首を縦に振った。そして、遠見総一朗をまっすぐに見つめる。


「お祖父様、大事なお話があります」


「何かな。壇上での挨拶まで時間がない。手短に頼むよ」


 そう言いながらも、遠見総一朗はすべてを知っているような表情を浮かべていた。

 俺たちの考えていることは、遠見総一朗にはすべてお見通しなのかもしれない。


 その上で、遠見総一朗が琴音を俺の婚約者に……と言うなら、俺たちにその結論は覆せないかもしれない。


 それでも、チャレンジしてみるしかない。

 玲衣さんは緊張した面持ちで口を開いた。


「わたしは晴人くんと琴音との婚約に反対です」


「なぜ? わしの決定が気に入らないかね?」


 遠見総一朗は短く問い返した。威圧的な口調ではないが、玲衣さんはびくっと震える。

 その表情は怯えていて、身体も小さく縮こまってしまっていた。


 よほど遠見総一朗が怖いのだろう。ずっと玲衣さんを抑圧してきた遠見家の当主なのだから、当然だ。


 でも、これでは遠見総一朗の説得は……できないかもしれない。


「そ、それは……えっと……晴人くんも望んでいませんし……」


「それだけか?」


「いえ、その、あの、わたしも遠見家の後継者になれるはずですから」


「玲衣が?」


 遠見総一朗はまったくの無表情だった。

 玲衣さんは動揺していた。短い問い返しは、玲衣さんには否定のように聞こえたのだろう。


「わ、わたしなんかが……わたしみたいな『いらない子』が遠見家の後継者になるなんて、その、おかしいかもしれませんけど……」


 玲衣さんはそんなことを口走ってしまう。

 こ、これではダメだ……。玲衣さんは琴音より優秀だからこそ、後継者候補になりうる。


 でも、これでは、玲衣さんは琴音より優秀だなんて印象付けられない。玲衣さんは本当は、すごく優秀で完璧な少女だ。


 でも、遠見家という自分を冷遇してきた存在と向き合ったとき……玲衣さんは完全に自分を見失ってしまったようだった。


 琴音が憐れむように玲衣さんを眺めている。意外にも琴音は何も口を挟むつもりがないらしい。

 玲衣さんが後継者候補に名乗りを上げるのも、琴音からしてみれば想定の範囲内だったのかもしれない。

 そして、それが失敗するのも……。

 いや、まだ失敗すると決まったわけじゃない。


 俺は玲衣さんのドレスの袖をつまんだ。玲衣さんが驚いて、こちらを振り向く。


「は、晴人くん……」


 玲衣さんは泣きそうな顔をしていた。そんな玲衣さんの手を俺はそっと握る。


「大丈夫。俺がついているから」







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