135話 ついに対決
嫌じゃない、と言われた俺は、玲衣さんを抱きしめる手に力をこめた。
「きゃっ……は、晴人くん、嬉しいんだけど……急にどうしたの?」
「俺が玲衣さんを抱きしめたくなったから。それが理由じゃダメかな?」
「ダメじゃない。でも、本当は……わたしを慰めてくれているんでしょう?」
「まあ、そういう面もあるけど……でも、玲衣さんが可愛くて抱きしめたのも、本当だから」
「そ、そうなんだ……」
玲衣さんはかなり照れていて、目を泳がせている。
俺もちょっと恥ずかしい。
俺の胸と玲衣さんの身体の柔らかい部分が、触れ合っていて……玲衣さんの温かさを意識させられる。
そして、今、強引にそういう体勢を取ったのは、俺自身だった。
今までだって、玲衣さんと抱き合ったことはある。けれど、それはほとんど、偶然の事故か、あるいは玲衣さんからお願いされたか、玲衣さんから抱きついてくれたかのどれかだった。
つまり、俺自身が積極的にハグしたわけじゃない。
でも、今回は違う。玲衣さんだって、俺に抱きしめられるとは予想もしていなかったと思う。
俺は俺自身がそうしたいから、玲衣さんを愛おしく思うから、今、玲衣さんを抱きしめた。
そのことが重要なのだと思う。
もし俺が玲衣さんとともに、遠見家の後継者になるなら、今までみたいな無色透明な存在ではいけない。
俺自身が選んで、玲衣さんの隣に立てることが必要だ。
このハグはその第一歩なんだと思う。
玲衣さんの手がぎゅっと俺の腕をつかみ、すがるようにしがみつく。その玲衣さんに俺は優しく言う。
「大丈夫。玲衣さんは一人じゃない。玲衣さんに力がないとしたら、今はまだ、俺だって無力で無色透明の存在だ。でも、二人でなら問題を解決できる。解決できるようになりたい」
「……晴人くんがわたしを支えてくれるの?」
「もちろん。玲衣さんが不安なときは俺がそばにいるし、玲衣さんがくじけそうになったら俺が助ける。だから、二人で……遠見家の問題を解決しよう」
「うん。そうだね。晴人くんがわたしの婚約者になって……わたしと一緒に遠見家の後継者になってくれるなら、とても心強いと思う。でも……」
俺には琴音だけじゃなくて、夏帆も雨音さんもいる。玲衣さんはそう言いたいのだろう。
だからこそ、今回、玲衣さんが目指すのは、あくまで俺と琴音の婚約を保留にすることだった。玲衣さん、琴音のいずれかが、俺とともに遠見家の後継者となる構図を作る。
そうすれ琴音との婚約は保留になる。ただ、それを完璧にするには、最後のピースが必要だ。
実際に玲衣さんが遠見家の後継者に選ばれたとき、俺が玲衣さんの婚約者になると宣言すること。
玲衣さんは俺を気遣ってあえて聞かないでくれているのだと思う。実際、夏帆たちのことがあるのに、俺は軽率に玲衣さんの婚約者になるとも表明できなかった。
婚約を止めるだけなら、必ずしもそうする必然性もない。玲衣さんが後継者候補に名乗りを上げるだけで、玲衣さん・琴音は対等な立場になり、俺との婚約は保留になる。
だが、遠見総一朗を説得できるだろうか? 玲衣さんは愛人の子という生まれの面で不利だ。
確実に遠見家の後継者争いの候補とするには……俺が玲衣さんを選ぶ、と言えば効果は大きいかもしれない。
俺は……どうすればいいだろう?
そのとき、廊下の曲がり角から、琴音、そして遠見総一朗がやってきた。ちょうどこれから、二人ともパーティに参加するらしい。
ちょうど俺と玲衣さんは抱き合っている。タイミングが悪い……!
俺たちは顔を見合わせ、慌てて互いを抱く手を離す。
「へえ、私がいないあいだに、姉さんたちはイチャイチャしていたんですね」
琴音は不機嫌そうに俺たちを睨んでいた。琴音も上品かつ高級そうなドレスで着飾っている。ドレスは淡いパステルカラーの桜色で、背中の開いたフォーマルなドレスだった。
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