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131話 クリスマスパーティ!

 十二月二十三日金曜日。午後六時。

 遠見家主催のクリスマスパーティーは、葉月市の大規模ホテルのホールで行われる。


 このホテルも、遠見グループの所有物。市内では数少ない立派なホテルだ。

 市内の有力者を集めて、毎年のように豪華なパーティを開いているらしい。


 俺は会場を見回す。立食形式のパーティということで、白いテーブルクロスをかけられたテーブルが数多く並んでいて、壁際には豪勢な食事が用意されていた。取り放題のブッフェ形式だ。


 本当だったら、腹ペコの男子高校生にとっては嬉しいのだが……パーティなんて初めてなので緊張して食べられないかもしれない……。


「それにしても、いまどき日本で礼装でお越しください……なんて時代錯誤じゃない? ドレスは貸し出してはくれるけど……」


 俺の隣で、雨音さんがぶつぶつとつぶやいている。

 ちらっと雨音さんを見ると、雨音さんは微笑んだ。


「晴人君にドレス姿の私をみてもらえるのは、嬉しいかもだけどね」


 雨音さんは真紅のドレスを身にまとっていた。装飾性の高い豪華なワンピース型のドレスで、スカート丈は足元まで隠れるほど長い。


 ただ、スリットが入っていて、雨音さん自慢の細くてすらりとした白い脚が、綺麗に見えている。

 布地も透けたような感じの上に、背中の肌はほぼすべて露出していた。


 手に白いオペラグローブをつけてはいるものの、袖もない肩出しルックだ。胸元だって、大胆すぎるほど開いていて、胸の谷間が……。


「晴人君……私に興味津々だね」


「へ!? そ、そんなことないよ……」


「嘘つき。私のドレス姿に見とれていたくせに。言っておくけど、これは正式なマナーに則った服装なんだからね?」


「そうらしいね」


 イブニングドレスという夜会服で、パーティの場では最も格式の高い服だそうだ。外国の正式な行事では女性のドレスコードとして着用がマナーになっているとか。


 日本で着る機会はあまり多くないみたいだけど……。玲衣さんや夏帆はドレスアップに手間取って、とりあえず俺と雨音さんで先に会場に来ていた。ちなみに俺も慣れないタキシード姿だ……。


 雨音さんが期待するように俺を見つめる。雨音さんの気持ちを知っている今は、俺も何を期待されているか、わかっている。


「ドレス、すごく似合ってるよ、雨音さん」


「ふふっ、そうかしら?」


 雨音さんは嬉しそうに笑い、俺に問いかける。雨音さんは自分でもドレスが似合っていることはよくわかっていると思う。


 でも、それを俺に言葉にしてほしいのだ。雨音さんは俺を好きだから。


「雨音さんって美人だし、かっこよくてスタイルも良いし、洋風のドレスを着ても似合うよね。普段のカジュアルな格好も、今の正装も、どちらを見ても、雨音さんは大人の女性なんだなって思った」


 それは俺の本心だった。五年前、雨音さんと同居し始めたときは、雨音さんはまだ女子高生だった。

 今の俺と同じ16歳で、その頃から雨音さんはすごく美少女だった。けれど、今は大人びた魅力のある美人女性になっている。


 雨音さんは頬をほんのりと赤くして、俺を上目遣いに見る。


「ありがとう。そういう風に女性を素直に褒められるのって、私は好きだな。きっと水琴さんや夏帆たちも、ね」


「そ、そうかな……?」


「そうよ。晴人君も昔は可愛い小柄な少年だったのに、女たらしになったよね。可愛い女の子みんなに好かれているもの」


「そ、それ以前も言っていたよね」


「悪い意味で言っているんじゃないんだけどね」


「本当に……」


「だって、私は晴人君のことが好きだもの」


 雨音さんはさらりと言い、そして、正面から俺の手をぎゅッと握った。

 白いオペラグローブ越しに雨音さんの手の温かさが伝わってくる。


「あ、雨音さん……みんな見ているよ」


「まだ招待客はまばらだし、それに、私たち従姉弟だもの。おかしいとは思われないわ」


「そ、そうかなあ……?」


「水琴さんや夏帆のいないうちに、晴人君の心をつかんでおかないとね」


 なんて、雨音さんが冗談めかして言う。いや、冗談ではないのかも……。


「それとも、もっと目立つことする?」


「こ、ここでハグとかは……まずいかもね」


「家でだったら、いいの?」


「そ、それは……」


「あ、でもここでもいっか。私が晴人君に抱きついて、キスして、『晴人君大好き!!』って叫べば、琴音さんとの婚約もなくなるかもね」


「琴音との婚約もなくなるけど、俺たちの立場もなくなるよ……」


 このパーティは、市内で最大の権力を持つ遠見家主催だ。


 遠見グループの関連企業の役員はもちろん、葉月市長、選挙区の衆院議員や県会議員、隣町の大企業の社長、医者、市出身の有名芸能人……と大物が揃っている。


 そんな場で、雨音さんと過剰なスキンシップ(?)をするのは恥ずかしいし、問題になるだろう。

 しかも、それだけでは済まない

 雨音さんもわかっているみたいで、けろっとした顔をしていた。


「まあ、私が晴人君に手を出して、琴音との婚約を台無しにしたら、大伯父様の意向に反するよね。遠見家の不興を買ってこの街にいられなくなるかも」


「そうそう。だから、その方法は解決策にならないよ」


「じゃ、一緒に駆け落ちしちゃおっか?」


「か、駆け落ち?」


「どこか遠くへ行こうよ。お姉さんの私が晴人君を養ってあげる」


 雨音さんは片目をつぶってみせる。少しどきりとしてしまう。


「今日は一応、水琴さんの計画に従ってあげるけどね。上手くいかなかったら、私がそういう強引な手段を使うから」


 雨音さんも解決策を考えていたらしい。 

 といっても、雨音さんはまだ留学中の女子大生だし、俺もこの街に残りたい。ここには夏帆やユキ、友人たち、そして玲衣さんがいるのだから。


 だからこそ、遠見総一朗を説得しないといけない。

 この街に残り、琴音との婚約を穏便に解消する方法は、それしかないのだから。


 雨音さんはくすりと笑う。


「でも、可愛いお姉さんに溺愛されて、同棲するなんて男の子の理想だと思うけどな。水琴さんたちじゃなくて、今からでも私を選んだら?」


 雨音さんはすっと顔を俺に近づける。ほとんどキスできそうなほど間近に、雨音さんの凛とした顔がある。

 実際、雨音さんにはキスされたんだった……。その赤いみずみずしい唇を見て、俺は急に恥ずかしくなってきた。


 俺が口を開く前に、後ろから肩を叩かれた。

 振り返ると、そこには不機嫌そうな夏帆がいた。




3巻の予約も始まっています!


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