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130話 決戦へ……!

「そうね。わたしも……晴人くんのことが好き。だから、琴音には渡したくない」


「私もまったく同じ気持ちなんです。私は……今まで姉さんにひどいことをしてきました。やっとそれを謝れて、ちょっとだけ姉さんの気持ちがわかったのに。でも、だからこそ、私たちは戦わないといけないんですよね」


 琴音は小さくつぶやいた。

 母親違いの姉妹は、互いを見つめ合っていた。髪の色も目の色も身長も、二人は全然違う。


 けれど、玲衣さんと琴音には、どこか似たような儚げな雰囲気があった。


「私はお父さんを姉さんに取られたって今でも思っています」


 玲衣さんが琴音の言葉にびくりと震える。

 二人の父親は、琴音の母を捨てて不倫して、そして玲衣さんの母親と海外に行こうとした。そして、事故死したという経緯がある。


 それが、琴音が玲衣さんを憎んでいた最大の理由だ。

 琴音は玲衣さんの手を握りしめたまま、言う。


「もちろん、姉さんが何も悪くありません。昔も今も。でも、今度は、私は晴人先輩を姉さんから奪ってみせます」


「だから、晴人くんと婚約する?」


「はい。私は……欲しい物は手に入れます」


「わたしと琴音は同じ気持ちかもしれない。晴人くんを渡したくない。晴人くんが欲しい。でも……琴音は晴人くんの気持ちを考えたの? 晴人くんの気持ちが一番大事そうでしょう? なのに、琴音は自分の都合ばっかり押し付けている。」


 玲衣さんは畳み掛けるように言う。琴音は痛いところを突かれたようで、悔しそうな表情をする。


「私と結婚すれば大金持ちです。それに、私は先輩のことを大事にしてみせます。今は先輩は反対かもしれませんけど……これが、先輩が一番幸せになれる方法なんです」


「わたしにはそうは思えない」


「じゃあ、姉さんが晴人先輩を一番幸せにできるって、断言できるんですか?」


「そ、それは……わたしがふさわしいかどうか、わからないけど、でも……」


「はっきりしないですね。私には遠見家の力がありますから、それを先輩のために使ってあげられます」


「それは琴音の自分の力ではないでしょう?」


「それはそのとおりです。でも、私が使える力であることには間違いありません。姉さんには……何があるんですか? 私よりほんのちょっぴり優秀かもしれませんけど、それだけです」


 琴音が鋭い口調で言う。玲衣さんは言葉に詰まった様子だった。

 自分には何もない。玲衣さんはそう言っていた。同じことを琴音は言っている。


 玲衣さんが傷つくのを俺は見ていられなかった。俺は琴音を止めようと立ち上がる。

 けれど、玲衣さんは首を横に振った。


「いいの、晴人くん。琴音が言っているのは、本当のことだから……」


「でも……」


 琴音は俺と玲衣さんを見比べ、そして、天を仰いだ。


「これでは本当に私が悪役ですね。ごめんなさい。でも、姉さん。結局、私たちは

争わないといけないんです」


「そう……なのかな」


「そうです。だから、姉さん。私から先輩を取り戻したいなら、戦って奪ってください。私も……絶対に先輩を渡すつもりはありませんから」


 琴音は綺麗に通る声でそう宣言する。

 そして、周囲の夏帆、雨音さんに向かって微笑む。


「遠見家のクリスマスパーティーには皆さんも招待します。夏帆さんは江戸時代から続く名門藩医の家の一人娘、そして雨音さんは遠見家一門の女性ですからね。……私と先輩の婚約発表を楽しみに見ていてください」


 琴音はそう言うと、呆然としている皆を気にもせず、くすりと笑って離れから出て行った。


 あとに残された俺たちのあいだを、沈黙が支配する。

 玲衣さんは、琴音の敵意にさらされて、すっかり自信を失ってしまったようだった。


「わたしがしようとしていることは、本当に晴人くんのためになるのかな。もしかしたら、このまま琴音と婚約したほうが……」


「玲衣さん。そんなこと言わないでよ」


「でも、わたしの選択で晴人くんを傷つけるのが怖いの。わたしのせいでお父さんもお母さんも死んじゃって――」


「玲衣さんさ、さっき琴音に向かって、俺の気持ちが一番大事って言ってくれたよね?」


「え? そ、そうだけど」


「俺は琴音じゃなくて、玲衣さんと一緒にいたいんだよ」


 俺ははっきりとそう言った。そう言葉にしないと、きっと玲衣さんはまた沈んでいってしまう。

 玲衣さんは繊細で、だからこそ、俺は玲衣さんのことを大事にしたかった。


「でも、わたしには何もない」


「何もないなんてことはないよ。玲衣さんも言っていたとおり、玲衣さんの方が琴音よりずっと優秀で、頭も良いし、何でもできる。そ、その……こんなふうに比較するのは良くないのかもしれないけど……玲衣さんの方が可愛いと思うし」


 俺の言葉に玲衣さんは「そ、そっか」と顔を赤くした。


「晴人くんは……琴音じゃなくて、わたしを選んでくれるんだ」


「もちろん。だから、一緒に琴音に、遠見家に立ち向かおう。遠見総一朗はクリスマスパーティーには出席するはず。そのときに説得すればいい」


「わたしに、できるかな」


「大丈夫。俺もついているから」


「うん。そうだよね。晴人くんがいてくれれば、きっと大丈夫」


 玲衣さんは微笑み、甘えるように俺を上目遣いに見た。

 もしこの場に他に誰もいなければ、実際、玲衣さんは俺に甘えて……イチャイチャしていたかもしれない。


 でも、実際にはそうはならなかった。


「晴人ー? あたしたちもいるのを忘れないでよ」


「晴人君と水琴さんが二人の世界に入っていると……羨ましくなっちゃうな」


 夏帆はジト目で俺たちを睨み、雨音さんは寂しそうな笑顔で俺たちを見つめている。

 し、しまった。二人がいるのを忘れて、玲衣さんのことしか見えていなかった。


 玲衣さんはくすっと笑い、椅子から立ち上がり、俺の耳元にそっと唇を近づける。

 

「本当は晴人くんに甘やかしてほしいけど、今は我慢してあげる。全部の問題が解決したら、二人であのアパートに戻れるものね?」


 玲衣さんがささやく。甘い吐息がかかり、耳がくすぐったい。でも、それは悪い気持ちではなかった。


「そうだね。必ず戻ろう」


「うん。そうしたら、わたしと晴人くんの二人きりでクリスマスパーティーをするんだもの。晴人くんとクリスマスを祝うのは、琴音じゃない。わたしなんだから」

 

 玲衣さんは幸せそうな笑みを浮かべ――不満そうな夏帆と雨音さんによって俺から引き剥がされてしまった……。


「抜け駆けは許さないんだから!」「あの家は私と晴人君のものだもの……」


 夏帆と雨音さんが口々に言う。れ、玲衣さんが「わたしが晴人くんを独り占めするんだもの!」なんて言い返して、わーわーと言い合っている。


 と、ともかく……琴音との婚約解消は、この場にいる全員の共通の目的だ。

 クリスマスパーティーは、あと数日後。決戦の日は迫っていた。





面白い、続きが気になる、ヒロインが可愛い!と思っていただけましたら


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これって主人公がもっと言えば済む問題なのでは?最近は主人公が一番やばいねーでもおもろい
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