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129話 琴音は姉に向き合う

 玲衣さんが遠見家の後継者に名乗りを上げる。

 その案には、結局、夏帆や雨音さんも賛成した。


 当初は渋っていた二人だけれど、やっぱり他に打開策も思いつかないみたいだ。


 夏帆も雨音さんも、俺のことを心配してくれている。同時に玲衣さんに俺を奪われるのでは?とも恐れているみたいだった。


「婚約者が琴音ちゃんだから晴人は受け入れていないけど、水琴さんになったら……」


「晴人君が本気で水琴さんと結婚するつもりになるかも」


 夏帆と雨音さんは口々に言う。

 二人からしてみれば、無条件に受け入れられる案ではない。


 でも、玲衣さんはあくまで後継者候補に名乗りを上げるだけだ。

 その時点で、玲衣さんと琴音は対等な後継者候補になり、俺と琴音の婚約は保留になる。


 すぐに玲衣さんが俺の婚約者になるわけではない。

 そう言って、俺は夏帆と雨音さんを説得した。


 雨音さんと夏帆は一応納得してくれたけど、なにやら二人でひそひそと屋敷の離れのリビングで話し合っていた。

 もともと二人は昔から仲良しだし、何を計画しているのか、ちょっと心配になる。


 ただ、俺と玲衣さんが考えるべきは、遠見総一朗の説得だ。

 それに説得すれば、琴音との婚約問題は解決する。


 クリスマスパーティーはあと数日後。だから、それまでのあいだに、遠見総一朗と話し合おうと思っていた。

 ところが、問題が発生した。


 月曜日、学校から帰ってきた後。俺と玲衣さんは、リビングのテーブル越しに向かい合っていた。

 夏帆も玲衣さんの隣に、雨音さんも俺の隣に座っているから、四人でテーブルを囲んでいる。


 そして、雨音さんの報告によって、その場は重い空気に包まれていた。、


「遠見のご当主が……いない?」


 俺の問いに、雨音さんが不安そうな顔でうなずく。


「そうなの。大伯父様は東京の大きな会社に話し合いに行っているらしいのね」

 

 遠見グループ再建計画のために、その会社から大規模な出資を受けるらしい


 話し合いがまとまれば、遠見グループの危機は当面は回避される。同時に、遠見総一朗が力を借りた危険な組織からの資金を返済し、手を切ることもできるようだ。


 つまり、琴音、そして玲衣さんがそうした危険な存在から拉致されるとか、身の危険はなくなる。

 つまり、玲衣さんもこの屋敷の保護下に置かれる必要がなくなる。


 俺と玲衣さんにとっては、アパートの部屋に戻るチャンスだ。

 ところが、もう一つの問題、琴音の婚約を解消することができない。遠見総一朗がいなければ話し合いができない。


 電話での取り次ぎも、遠見家の秘書の一人に、多忙を理由に拒絶されてしまったそうだ。

 ただ、この対応には、裏で糸を引いている人間がいる。


 それはおそらく……遠見琴音だ。


 離れのリビングの扉が急に開け放たれる。俺たちは一斉にそちらを見た。

 そこに立っていたのは、黒髪清楚な美少女だった。


 遠見琴音だ。いつもの制服のブレザーではなくて、ベージュのカーディガンを白いTシャツの上におしゃれに羽織っている。


 スカートの丈は短めだけれど、お嬢様感があるのは琴音の雰囲気が上品だからだろう。

 琴音は俺、玲衣さん、夏帆、雨音さんを順番に眺め、ふふっと悪役っぽい笑みを浮かべる。


「皆さん揃って頭を抱えて、どうしたんですか?」


 まさか琴音との婚約を解消するため、とは言えない。

 でも、琴音も感づいているだろう。


「なにかこそこそと計画しているみたいだったので、お祖父様との接触は絶たせていただきました。どうせ、わたしとの婚約を破棄させるために説得しようとしたんでしょう?」


 図星だった。雨音さんも肩をすくめている。

 琴音は離れのリビングをぐるりと見回した。


「もうすぐ、この離れに住む必要もなくなりますね」


「え?」


「クリスマスパーティーで私との婚約が発表されたら、晴人先輩には本邸に引っ越してもらいます。私の隣の部屋とか、いいかもしれませんね」


「他のみんなは……?」


「もちろん、それぞれの家に帰っていただきます。夏帆さんがいなくなるのはちょっと寂しいですけど」


 俺はちらりと玲衣さんを見る。俺と琴音との婚約が確定したら、玲衣さんはどうなるのだろう?


 玲衣さんの家。それは遠見の屋敷ではなく、秋原家のアパートだ。少なくとも、今の俺と玲衣さんはそう思っている。


 でも、それは俺が秋原家のアパートに戻ってこそ、成立する話だ。

 琴音はふふっと笑う。


「玲衣姉さんは、この離れに住み続けてもらってもいいですし、秋原家のアパートに戻ってもらってもかまいません。これまでより、ずっと待遇は良くすると約束します。でも――先輩のそばには近づかせません」


 琴音はきっぱりと言った。玲衣さんがぎゅっと自分の身体を抱きしめ、そして目を伏せた。

 俺は琴音を睨む。


「何の権利があって、琴音はそんなことを言うのかな」


「先輩の婚約者として、です」


「でも、それは俺の意思じゃない」


「だとしても遠見家の決定には逆らえませんよ」


 雨音さんは冷ややかな目で琴音を見ていた。琴音と仲良くなった夏帆も、戸惑ったように琴音を見つめている。


 玲衣さんは……怯えていた。琴音に居場所を奪われる。そう思っているのだろう。

 俺は琴音をまっすぐに見つめた。


「琴音。こんなやり方はやっぱり良くないよ。誰も幸せにならない」


「私は悪役になってもいいんです。ただ、先輩さえ手に入れば、それでいい」


「どうしてそこまで……」


 俺のことを想ってくれるのか、と聞こうとして、俺は思いとどまった。

 それを聞けば、琴音の決意を固くするだけな気がした。


 でも、琴音は急に、座っている玲衣さんに近づく。そして、玲衣さんに手を伸ばした。

 その場に緊張感が走る。もともと琴音は玲衣さんを傷つけようとしていた。反省して謝罪したとはいえ、今や琴音は玲衣さんと俺をめぐって争う関係にある。


 何をするかわからない。俺は制止しようとしたが、間に合わなかった。

 でも、琴音は玲衣さんの手をそっと握っただけだった。


 玲衣さんが琴音を不思議そうに見上げる。

 

「……琴音?」


「今、私は姉さんの気持ちがとても良くわかるんです。だって、同じ人を好きだから」




ちょっと更新頻度が上がるかも……です!


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