125話 玲衣お姉ちゃんと婚約
「やっぱり、やめておく?」
「ううん、だってわたしは『玲衣お姉ちゃん』だもの! 晴人くん……晴人を満足させるまでやめないんだから」
「もう俺は、玲衣さんに甘やかされて、十分に満足だよ」
「れ、『玲衣さん』じゃなくて、『玲衣お姉ちゃん』でしょ?」
「そうだね。でも、続けてくれるなら、姉の『玲衣お姉ちゃん』でもなくて、妹の『玲衣』でもなくて、俺の知っている『玲衣さん』に甘やかしてほしいな」
俺はそう言ってみる。それは本心だった。
姉のフリも妹プレイもそれはそれで可愛かった。けれど、やっぱり、俺の大事な玲衣さんは、クラスメイトで同居人で、一緒の時間を過ごしてきた玲衣さんなのだ。
俺の言葉に、玲衣さんはびくりと震え、そして、優しい目で俺を見下ろす。
「そうだよね。わたしは晴人くんの姉でもなくて妹でもなくて……恋人なんだものね」
「へ!?」
「よく考えたら、恋人のフリをする約束って、やめるって言ってない。まだ有効だもの」
「でも、あれは、クラスのみんなにバレちゃって……」
「わたしがそうしたいからそうするの。わたしは晴人くんの従姉でも幼馴染でも昔からの女友達でも婚約者でもないけれど……恋人のフリをしているのはわたしだけ」
玲衣さんは突然、俺の頭をむぎゅっと両腕で抱き寄せた。玲衣さんのお腹と俺の顔が密着した。
や、柔らかい……。
「れ、玲衣さん……く、苦しい……」
「あっ、ごめんなさい……」
玲衣さんはそっと俺を離す。俺が玲衣さんを見上げると、玲衣さんは切なそうに俺を見つめた。
「晴人くんは恋人でもない女の子に、膝枕や耳かきをさせたりしないよね」
玲衣さんはからかうような口調だったけれど、それにはどこか無理した雰囲気があった。
実際、俺は玲衣さんを選べていない。それなのに、こんなふうに玲衣さんに甘えてしまっている。
それがたとえ玲衣さんの望みだとしても、罪悪感を感じないわけがない。
玲衣さんは深呼吸をした。
「今でも、わたしには何もないと思っているんだ。雨音さんも佐々木さんも桜井さんも……わたしには晴人くんとの時間があって、思い出がある。でもね、これから時間を積み重ねていくことはできるもの」
「玲衣さん……」
「大好きだよ、晴人くん。だからね、わたしと一緒に地獄へ堕ちてくれる?」
玲衣さんの青いサファイアのような瞳が、強い意志の光で輝いた。
地獄へ堕ちる……という言葉の過激さに俺は驚く。どういうことだろう?
「わたしね、晴人くんとわたしたちが抱えている問題……琴音との婚約を解消する方法を思いついちゃった」
「ほ、本当に? 琴音を説得する名案とか思い付いたの?」
「ううん。違うの。わたしはね、また琴音を敵に回すことになるかもしれない。今度は本当に、わたし自身のせいで、琴音に恨まれるかも」
「それは琴音を傷つけたりする方法……ではないよね」
琴音自身も言っていたとおり、琴音に危害を加えれば、婚約を解消できるかもしれない。だけど、そんな方法を取るつもりはなかった。
玲衣さんは首を横に振った。
「琴音に手出ししたりなんてしない。わたしは琴音が使ったみたいに、誰かに琴音を襲わせたりなんてしないよ」
「なら、どうやって……」
「お祖父様を説得するの。わたしを晴人くんの婚約者にしてくださいって言うつもり」
「れ、玲衣さんを俺の婚約者に……!?」
玲衣さんはこくりとうなずいた。
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