121話 褒められて死んじゃう!?
事態はますます悪い方向へと向かっている。
琴音は婚約を解消するつもりはないし、しかも、俺を遠見家のクリスマスパーティで彼氏として紹介すると言っている。
彼氏になったつもりはないし、そもそも本当に彼氏だったとしてもそんな大規模パーティで紹介するの恥ずかしくない!?……と思うのだけれど、琴音はそういう場に慣れているのか、平気そうだった。
このままでは、どんどんど外堀を埋められていく……。
琴音の説得は諦めて、直接、遠見総一朗に翻意を促すべきだろうか?
でも、それも難しいな……。遠見総一朗が考えを改める理由がないからだ。
翌日。日曜日の午後二時。
屋敷の離れの自室で、畳の上に寝転がり、俺はうんうん唸りながら考えていた。
困ったなあ……。クリスマスパーティーがあるのは十二月二十三日の金曜日。土曜日は家族や恋人同士で祝うから、その前日に開催するわけだ。
あと一週間もない。それがタイムリミットだ。
それまでに事態をひっくり返せるかどうか……。
午前中に雨音さんと相談したのだけれど、さすがの雨音さんも名案は思いつかないらしい。日本で済まさないといけない用事もあるとのことで、午後から出かけてしまった。「晴人君も連れてきたかったんだけどなあ」と言って、雨音さんは残念そうにしていた。
ただ、玲衣さんと夏帆の二人がそれは許さなかった。三人の取り決めで、休日の午前は雨音さん、午後の前半を玲衣さん、午後の後半を夏帆が、俺と過ごす権利があるとか……。
俺を奪い合う三人の紳士協定(淑女協定?)らしい。
お、俺の意思は……? ますます心の休まる暇がない。
そんなとき、部屋の扉がノックされた。
玲衣さんが来たのだと思う。
俺は立ち上がって扉を開く。
そこにはいつもどおりの美少女の玲衣さんが立っていた。
だけど、驚いたことが一つある。
「えへへ……」
玲衣さんが顔を赤くしてはにかんでいて、そわそわしていた。
恥ずかしがっている理由もわかった。服装がいつもと違うのだ。
白い透けた布地の上着に黒い服を来ている。
けれど、胸元が大胆に露出しているし、おへそのあたりも丸見えだ。
下半身も短パンみたいな露出度の高い格好だった。
「そ、その服は……」
「デニムのショートパンツに、白のシアーブラウス。インナーは黒のクロップドキャミソール、なんだって」
玲衣さん早口で言う。服の名前はまったくピンと来ないが、見れば一目瞭然。
要するに、それはほとんど雨音さんの普段の私服と同じだったのだ。
「その服、どうしたの?」
「買ったの」
「そ、そうなんだ……」
「だって、晴人くん、こういう格好が好きなのかなって思って……いつも雨音さんにデレデレしているし」
「デレデレなんてしてないよ」
「してたくせに。ね、どうかな? わたしにも似合う?」
今までの玲衣さんは制服のセーラー服を着ているときもおしとやかなお嬢様という印象だったし、私服も清楚系の服だった。
だから、今までの玲衣さんとはかなり雰囲気が違う。違うのだけれど……。
「えっと、その、似合ってるし、すごく可愛いと思う」
俺はちょっとつっかえながら言う。恥ずかしかったのだ。大胆な服装は、玲衣さんをちょっと大人な感じにしていた。
玲衣さんは雨音さんと同じでスタイル抜群だし、完璧に決まっている。玲衣さんが絶世の美少女だと改めて認識させられた。
玲衣さんはぱっと顔を輝かせた。
「嬉しい。わたしが雨音さんみたいな大人な格好をしても似合わないかなって心配だったから」
「そんなことないよ。ものすごく似合ってる」
「ありがと。晴人くんに褒められると、嬉しくなっちゃう。ね、もっとたくさん褒めて」
甘えるように玲衣さんが言う。似合っているし、可愛いと思うのは本当だけど、それを言葉にするのはちょっと気恥ずかしい。
というか似合っているとも、可愛いとも、もう言ってしまったし、何を言えばいいのか……。
いや、思った通りのことを言えば良いのか。
「えっと、大人びた雰囲気で、すごく好みだったよ。玲衣さんって、スタイルも良いし、清楚系だけじゃなくてセクシーな服を着ても似合うし、すごいなって。銀色のロングヘアも綺麗で、服にばっちり合っていると思う。やっぱり玲衣さんは学校一の美少女だなと――」
「は、晴人くん。ストップ!」
「へ?」
「そ、それ以上褒められたら、わたし、照れちゃって死んじゃうから……」
見ると、玲衣さんはかああっと顔を真っ赤にして、下を向いて口のあたりを手で覆っていた。
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