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115話 葉月の大火災

「そう。晴人君と琴音さんとの婚約解消!」


 雨音さんがポンと手を打つ。

 遠見総一朗が、かつて妹の秋原遠子とした約束。


 それは秋原家の人間に目をかけてやってくれ、というものだった。

 その結果、後継者不足の遠見家に俺が婿養子として迎えられることになった。


 そして、俺の婚約者は、遠見家嫡流の琴音だった。遠見総一朗の長男の娘という意味では、玲衣さんも同じ条件だ。


 ただ、玲衣さんは愛人の娘の非嫡出子だし、遠見一族の理解が得られないだろう。

 だから、俺と琴音との婚約が取り決められたのだけれど……。


「琴音はすごく乗り気なんだよね」


 困ったように、玲衣さんがきれいな眉をひそめて言う。

 琴音さえ反対なら、事態はもっと簡単に解決していたはずだ。


 遠見総一朗にとって琴音は大事な孫だし、その琴音が嫌がってまで、婚約を強行したりはしない。

 ところが、当の琴音本人はノリノリだった。


 琴音はこんな俺を好きだと言ってくれて、そして、婚約者になれて大喜びしていた。

 遠見総一朗は、琴音の感情も考慮に入れて、この婚約を決めたようでもあった。


 琴音は俺と婚約者になれてハッピーで、遠見総一朗は家の将来のために必要な布石を打てる。


 ただ、俺たちは困る。


「琴音が婚約者でいるかぎり、わたしは晴人くんと結婚できないもの!」


「け、結婚!?」


 俺はオウム返しに答えてしまう。付き合うとか恋人になるとか、そういう話を飛ばして結婚なのは気が早い……!

 と思ったけど、これまでの玲衣さんの態度を思えば、驚くことはないのかもしれない。


 ただ、雨音さんの前だから、玲衣さんも大胆な発言がちょっと恥ずかしかったようだ。

 玲衣さんは慌てふためいた様子でぶんぶんと首を横に振った。


「け、結婚はすぐするわけじゃないけど……」


「へえ、私だったら晴人君と結婚してもよいけどな」


 雨音さんが口を挟み、そして、両腕を俺の背後から首に回し、ぎゅっと抱きつく。雨音さんが俺にしなだれかかるような体勢になり、その胸が俺の背中に当てられる。


「あ、雨音さん……俺たちは従姉弟で……」


「言ったでしょう? 私はもう『お姉さん』じゃなくて、『あなたに恋する女の子』なの。従姉弟は結婚できるんだから」


「で、でも父さんがなんていうか……」


「叔父様に結婚のご報告するところまで想像してくれたの? 嬉しいな」


「あ、雨音さん、俺をからかっているよね?」


「半分は本気なんだけどな。叔父様もきっと喜ぶわ。実の息子が、娘みたいに育てた私と結婚するんだもの!」


「そ、それは……」


 言われてみれば、そうなのかもしれない。父さんは雨音さんを本当の娘のように大切に扱ったし、雨音さんも父さんを信頼しているようだった。

 父さんからしてみれば、安心はできる……だろうけれど。


 玲衣さんが「そんなにひっついちゃダメですっ!」と言って、俺と雨音さんを引き離そうとする。

 ふふっと笑った雨音さんは、すぐに俺から離れた。


 玲衣さんは焦ったような表情を浮かべている。


「わたしだって、お父様に挨拶しましたから」


「ふーん」


 雨音さんは不満そうに俺たちを見比べたが、それ以上追及しなかった。

 そして、雨音さんは急に真剣な表情になる。

 

「ともかく、琴音さんとの婚約解消は絶対に必要。それは私たち三人、そして夏帆にとっても共通だと思うの。それに私にはもう一つ大事な理由がある」


「理由?」


「琴音さんを婚約者にすると、晴人くんが不幸になるかもしれないから」


「たしかに琴音は玲衣さんの敵だったし、それは大問題だけど、今のところ俺に危害を加えたりする様子はないよ」


「琴音さん自身は問題ではないの。あの子は、大金持ちの家に生まれただけで、普通の女子中学生」


「それなら、どうして俺が不幸になるの?」


「琴音と婚約すれば、遠見家の問題を背負わされることになるわ。知っているでしょう? 遠見グループの企業の経営は傾いているし、それに、葉月市の大火災も……」


 雨音さんが瞳を曇らせた。




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