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114話 ポンコツ玲衣さん

 たしかにそのとおりだった。


 玲衣さんや夏帆と一緒にお風呂に入って、のぼせて倒れた後、雨音さんが看病してくれた。

 そのときに、雨音さんが冗談めかして、「一緒にお風呂に入る?」と言って俺はうなずいてしまったのだ。


 あのときは半分、冗談だと思っていた。俺に向ける感情も、姉としてのものだと思っていた。


 けれど、今となってみれば、あのとき雨音さんは玲衣さんや夏帆にかなり嫉妬していたのだと思う。

 今も割と本気で言っている気がする。目が真剣だから……。


「そ、そんなハレンチなのダメですから!」


 玲衣さんが慌てて横から口をはさむ。雨音さんは肩をすくめた。


「水琴さんや夏帆が良くて、私がダメな理由ってないよね?」


「そ、それは……そうですけど……」


「私に晴人君をとられちゃうって思っているんだ?」


「そ、そんなことありません……!」


「本当に?」


「ひ、卑怯です。雨音さんみたいな大人の女性に迫られたら、晴人くんだって……」


 そこで言葉を切ると、玲衣さんは頬を膨らませて、俺と雨音さんを見比べた。


「晴人くんと一緒にお風呂に入るなら、そのときはわたしも監視しますから!」


「か、監視!?」


 俺が素っ頓狂な声を上げると、玲衣さんはきっぱりとうなずく。


「そうすれば、晴人くんが雨音さんに誘惑されるのも防げるはず……!」


「ゆ、誘惑って雨音さんはそんなこと……」


 しない、と言おうと思って、雨音さんはちらりと見ると、雨音さんはにやりと笑う。

 そんな表情でも美人だな、と一瞬見とれ、そして慌てて玲衣さんに視線を戻す。


 玲衣さんはますます不機嫌そうに雨音さんをジト目で見る。


「ほら、やっぱり誘惑するつもりなんですよね?」


「ただ甘やかしてあげるだけだよ。でも、晴人君のしてほしいことなら、何でもしてあげちゃうかも」


 雨音さんが俺の耳元でささやく。甘い吐息がかかってどきりとする。玲衣さんは顔を真っ赤にして「……っ!」と悔しそうにしていた。


「いいもの。エッチなことなんてしなくたって、晴人くんの心はわたしのものなんだから……! わたしが晴人くんを一番大事にして、わたしが晴人くんに一番大事にされるんだもの」


「あれ、晴人君の気持ちを一番わかってあげられるのも私なんだけどな。だって、私は晴人君と五年間も同棲していたんだよ?」


「それは従姉弟が一緒に住んでいただけです!」


「それで、水琴さんは晴人くんを甘やかす方法を考えついたの?」


 そういえば、それが話の始まりだった。

 玲衣さんと雨音さんの過熱するバトルのせいで、すっかり忘れていた。


 玲衣さんは顔を赤くして、目を伏せた。


「ひ、膝枕してあげる……」


 小声で恥ずかしそうに言う。

 俺は反射的に玲衣さんの膝のあたりを見てしまう。スカートの裾から、ほっそりとした白い脚がちらりと顔をのぞかせている。


 膝枕するということは、あの脚に俺の頭を載せるのか……。想像するだけで、気恥ずかしくなった。


 俺の視線に気づいたのか、玲衣さんも慌ててスカートの裾を両手で押さえる。

 でも、その表情はなぜか少し嬉しそうだった。


「晴人くん……今、わたしの脚を見てたでしょ?」


「ご、ごめん。変な目で見て……」


「ううん、いいの。だって、今の晴人くんは、私のことを考えていたよね? 雨音さんのことじゃなくて」


「そうだけど……」


「それが嬉しいの」


 えへへ、と玲衣さんが笑う。たしかに、雨音さんと一緒にお風呂、より、玲衣さんに膝枕してもらう方が魅力的かもしれない。

 

 たしかに甘やかされているという感じもするし……ついでに健全でもある。

 ふうん、と雨音さんが感心したように言う。


「なかなか考えたじゃない」


 玲衣さんは胸に手を当てて、得意げな顔をする。


「晴人くんにしてあげるのは、膝枕だけじゃないよ。耳かきもしてあげて、優しく髪を撫でてあげる。そうしているうちに晴人くんはわたしに甘えて、だんだん眠くなってきて寝ちゃうの。寝言で晴人くんが『俺には玲衣さんしかいないよ』って言ってくれて、そうしたらわたしが晴人くんにキスを……」


 玲衣さんが、頬を緩めながら「えへへー」という感じで笑い、ひとり言のようにつぶやいている。


 そして、俺と雨音さんの視線に気づき、急にはっとした顔になる。

 途中から心の願望がだだ漏れだったらしい。玲衣さんは顔を真っ赤にして「い、今のは……」と言い訳しようとする。


 そんなふうに玲衣さんが思ってくれるのは、俺にとっても気恥ずかしくて、そして嬉しいことだった。


 雨音さんがジト目で玲衣さんを睨む。


「水琴さんって意外と妄想癖があるんだ……」


「も、妄想じゃないです! 全部、現実になるんですから!」


「それで、本題は何の話だったっけ?」


「む、無視しないでください!」


 玲衣さんの抗議は、雨音さんにスルーされてしまった。かつて完璧美少女だった玲衣さんだけど、俺が絡むとポンコツになってしまっている気がする……。



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