111話 本物の家族とのファーストキス
もう、俺も雨音姉さんを姉ではなく、異性としてしか見られないかもしれない。
やがて雨音姉さんはキスを終えた。でも、俺から離れず、抱きついたままだ。
すぐ目の前の雨音姉さんの顔は真っ赤で、甘えるように俺を見つめている。
「ファーストキス、あげちゃった」
「ファーストキス!?」
「だって、私、ずっと前から晴人君のことが好きだったんだもの。……もっと早くこうしていればよかったな。そうすれば、私も晴人君のファーストキスをもらえたのに」
「俺のファーストキスなんて、そんなに価値はないと思うな……」
「私や水琴さんにとっては、価値があると思うけど。夏帆にとられちゃったんだよね。でも、これからは……私が晴人君の初めてになるんだから」
そして、雨音姉さんは深呼吸をした。そして、恥ずかしそうに俺を上目遣いに見る。
「私は晴人君のこと、大好き。それが私の本当の気持ち」
「えっと、ありがとう……」
「変な晴人君。でも、照れちゃて可愛い……」
雨音姉さんはくすっと笑うと、俺の頬をそっと撫でた。
俺は恥ずかしくなって、目をそらす。
これまでは、ただの姉弟としてのスキンシップ(?)だったけど、もう違う。
雨音姉さんは俺のことを好きで、俺も雨音姉さんを女性として見ている。
「まだ晴人君は水琴さんも夏帆も琴音さんも、誰のことも選んでいないんだものね。なら、私にだって、まだチャンスはあるよね?」
「えっと、それはそう……かな?」
「今の言葉、忘れないでね? 後悔しても知らないよ。私はもう晴人君のお姉さんじゃなくて、一人の女の子なんだから」
雨音姉さんは吹っ切れたように、明るい笑みを浮かべた。
そして、ますます強く俺をぎゅっと抱きしめる。
「絶対に離してあげないんだから。晴人君は私のもの。誰にも渡さない……!」
「あ、雨音姉さん……く、苦しい」
強く抱きしめられて、雨音姉さんの柔らかい部分を押し当てられ、俺は呼吸が苦しくなる。
激しい動悸もするのは、きっと雨音姉さんのことを意識しているからだろうけれど。
雨音姉さんが「あっ、ごめんね?」と言うと、俺を抱きしめる力を緩める。
「離してほしいなら、一つお願いを聞いてほしいの」
雨音姉さんが甘い声で、俺の耳元でささやく。吐息がかかり、くすぐったい。
「お、お願い?」
「私はもう晴人君のお姉さんじゃないから、だから私のことは『雨音』って呼んで」
「で、でも……」
「できないなら、離してあげない。ずっとこのまま一晩抱きついたままだけど、いいの? 私のたった一つのお願い、聞いてくれない?」
「わ、わかったよ……雨音」
そう呼ばれた雨音姉さん……いや、雨音は幼い少女のようなあどけない表情で微笑む。
その表情がとても嬉しそうで、可愛くて、俺は見とれてしまった。
「呼び捨てで呼んでくれるんだ?」
「あっ……雨音さんの方がいいか。年上だし……」
「えー、呼び捨ての方がいいなあ」
甘えるように雨音さんは言うけれど、やっぱり、俺にとって雨音さんは年上の頼れるお姉さんで、呼び捨てにするのは抵抗がある。
そう言うと、雨音さんは「仕方ないか」とうなずくと、「いつか呼び捨てで呼ばれるような関係になるんだから」とささやく。
それはきっと、雨音さんと俺が恋人になったとき、ということだろう。
俺は自分の頬が熱くなるのを感じた。
やっと雨音さんは俺から離れ、そして、ばしっと俺の背中を叩く。
「さあ、少年。私たちの物語はこれからね。まずは晴人君と琴音さんとの婚約を解消しないと」
「きょ、協力してくれるの?」
「もちろん。でも、それは晴人君が夏帆とくっつくためじゃないし、水琴さんと同棲させるためじゃない。私が晴人君の一番になるために、必要なことだものね」
「それって、つまり……」
「従姉弟って結婚できるのよ。知らなかった?」
「知っているけど、意識したのは今日だよ」
玲衣さんも言っていた。従姉ともはとことも結婚できるのだ、と。
そして、玲衣さんもそして雨音さんも、俺と本気で結婚するつもりなのだ。
雨音さんは自慢のスタイルを見せつけるように、胸をえへんと張る。
そして、とても楽しそうに俺に告げる。
「結婚すれば、姉と弟じゃなくて、夫婦になるわけね!」
「ふ、夫婦!?」
「今度は本物の家族になれるということ。その権利は水琴さんではなくて、ずっと晴人君のそばにいた私のものなんだから!」
雨音さんは宣言すると、幸せそうに頬を赤くして、俺を上目遣いに見つめた。
これでこの章は完結です! 面白かった、続きが気になる、雨音さんが可愛いと思っていただけましたら、
・ブックマーク
・↓の☆☆☆☆☆評価
で応援いただければ嬉しいです! 何卒よろしくお願いします!