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110話 もう「姉」ではいられない

 俺が答えられずにいると、雨音姉さんは無表情になり、そして天を仰いだ。


「今までどおりってわけにはいかないよね。大丈夫、安心して。アメリカから戻ったら、アパートからは出ていくから」


「え?」


「そろそろ日本でも一人暮らししなきゃと思っていたし。それに、就職したら、たぶん東京に行くもの。だから、君と水琴さんのラブラブ同棲生活を邪魔したりしないから」


「で、でも……」


「そうすれば万事解決。あ、琴音さんとの婚約だけはなんとかしておいてあげる。私の最後の恩返し。それが終わったら、遠見の屋敷からも出ていくかも。そしたら、もう会うこともほとんどなくなるかも……」


 雨音姉さんはそうつぶやいた。

 きっと雨音姉さんは本気で言っている。でも、そんなのは嫌だった。ずっと家族だと思っていた大事な相手と、こんな形で決別するなんて俺は嫌だ。


 だからといって、俺は雨音姉さんを引き止めるための正しい言葉なんて持ってない。

 俺は雨音姉さんを異性として好きとも言えない。無理をして姉として振る舞ってくれ、とも言えない。


 それなのに、俺が言えることなんてないかもしれない。

 でも……。玲衣さんは言っていた。どうするかを決めるのは、俺なのだ、と。


 雨音姉さんがくるりと俺を振り向く。ふわりときれいな黒い髪が揺れた。


 そして、雨音姉さんは泣きそうな笑顔で俺を見つめる。


「最後に一度だけ、名前を呼ばせて。晴人君……私は晴人君にとって、良いお姉さんだった」


「とてもとても良い姉だったよ」


「お世辞でもそう言ってくれて良かった。迷惑をかけないように、私はいなくなるから……」


「迷惑かどうかは、俺が決めることだ」


「え?」


「雨音姉さんがいてくれて、迷惑だと思ったことなんて、ただの一度もないよ。雨音姉さんがいてくれたから、今の俺がいる。俺にとって雨音姉さんは理想の姉だったんだ。一緒の家で暮らして、互いのおすすめの本を読んで、ゲームで遊んで、 釣りにも連れて行ってくれて、映画や図書館に行くのも一緒だった。全部、全部、雨音姉さんがいてくれたから、過ごせたかけがえのない時間だよ」


「そ、そっか。でも、今の私は、日記を見られているし……私なんかがそばにいたら、気持ち悪いでしょう?」


「そんなことあるわけない。雨音姉さんに好きだと思ってもらえて、俺は嬉しいよ。雨音姉さんが卑怯だというなら、俺は身勝手だ。俺は雨音姉さんに今でも姉でいてほしいと思っているんだから」


 雨音姉さんはびくりと震える。

 迷うように、雨音姉さんは目を泳がせた。もう一押ししてみる。


「それが雨音姉さんを傷つけるって、俺はわかってる。でも、俺にとって、雨音姉さんがいなくなるなんて、考えられないよ。これからも、俺はずっと雨音姉さんの弟で、一緒に生きて行くんだと思ってた。だって、雨音姉さんは俺の大事な家族なんだから」


 しばらく、俺も雨音姉さんも何も言わず、沈黙がその場を支配する。周りのカップルが俺たちを興味深そうに見つめている。


 痴話喧嘩、だと思われているのかもしれない。

 やがて、雨音姉さんはくすっと笑った。


「君はずるいな。そう言われたら、私は君のそばにいたいと思っちゃう」


「それが雨音姉さんを傷つけるとわかってはいるよ。だって、俺は……」


「私の気持ちには応えられない。そうでしょう?」


「うん」


 俺はうなずく。俺には玲衣さんたちがいて、雨音姉さんを異性として選ぶなんて無責任なことは言えない。

 でも、姉ではいてほしい。これは俺の本当に身勝手でわがままな願いだ。


「だから、雨音姉さんが俺なんかを弟だと思うのが嫌だって言うなら、そうしていいよ。決めるのは雨音姉さんだ」


「そうね。ねえ、晴人君。君は私にとっても、理想の弟だったよ」


 雨音姉さんは明るい笑顔で言う。

 てっきり俺は雨音姉さんが姉として戻ってきてくれるんじゃないかと俺は期待する。


 けれど、雨音姉さんは首を横に振った。


「晴人君の従姉は私だけ。それは私だけの特権だけど……でも、やっぱり、私は君のお姉さんではいられないよ」


「そっか」


「だからね、私ももう自分の気持に嘘をつかない。それが身勝手でわがままなことであっても……」


 雨音姉さんは急に俺に手を伸ばし、そして両腕を俺の首に絡ませた。いつもみたいにハグされる、と思ったけれど、違った。


 次の瞬間には、雨音姉さんの唇が、俺の唇に重ねられていた。

 とっさのことで、抵抗もできなかった。雨音姉さんのキスは情熱的で、その柔らかくて大きな胸は俺の身体に押し当てられていて……。


 女性特有の甘い香りに、俺は雨音姉さんを強烈に「女」として意識させられた。

 もう姉ではいられない。雨音姉さんの言葉の意味を俺は理解した。




なろう内に新作もアップしています。

タイトル:清楚完璧な美人のエリート警察官僚上司が、家では俺を大好きな甘デレ幼馴染だった ~高校時代に俺を振ったはずの美人幼馴染(26)と同居したら愛が激重。恋人でないのに二人でお風呂!?~

URL:https://ncode.syosetu.com/n0311hy/


本作はこれから水・土更新です! 続きが気になると思っていただけましたら


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