106話 決めるのは晴人くん
つぎラノ2022の対象にクールな女神様がなっています! 詳しくはあとがきで!
「ご、誤解だってば!」
「なら、なんでそんなことしているの……!?」
俺と雨音姉さんは顔を見合わせ、慌てて立ち上がろうとするが……。
「ちょ、晴人君、くすぐったい!」
「あ、雨音姉さんこそ手を放してよ……」
「で、でも、あっ、晴人君。そこダメっ」
くんずほぐれつの状態の俺たちは、すぐに立ち上がることができなかった。
ちらりと玲衣さんを見ると、ますます玲衣さんは不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「は、る、と、くん?」
「これはわざとじゃなくて……というか玲衣さんこそ、どうしてここに?」
「晴人くんと雨音さんが、二人きりなのが心配になったの。そしたら、やっぱりエッチなことをしてた!」
ちなみに誘拐されないように、遠見家の護衛の人が下の階には来ているらしい。
ともかく、俺が慌てて経緯を説明すると、玲衣さんは納得したようだったけれど、ヤキモチを焼いたようにジト目で俺たちを睨んでいた。
また俺は立ち上がるのに失敗して、雨音姉さんが「ひゃうっ」と悲鳴を上げた。
そうこうしているうちに、玲衣さんは床に投げ出されている日記に気づいたようだった。
なんだろう?という表情で拾い上げると、おもむろにページをめくる。
俺と雨音姉さんが止める暇もなかった。玲衣さんも日記とは思わなかったのだろうけれど……。
目を通した玲衣さんが、顔を上げ、びっくりしたように俺と雨音姉さんを見比べる。
雨音姉さんは恥ずかしそうに顔をそむけた。
一方、玲衣さんもとてもうろたえていた。
気持ちはよくわかる。たしかに、玲衣さんは、雨音姉さんが俺を好きかもしれないとは言っていた。
けれど、日記からあふれる熱量のある愛を見て、衝撃を受けているのだと思う。雨音姉さんが、俺にここまで強い好意を持っているとは誰も思っていなかったわけで……。
玲衣さんはぱたんと日記を閉じた。ほぼ同時に、俺と雨音姉さんはなんとか立ち上がる。
気づくと、玲衣さんが雨音姉さんの正面すぐ近くまで来ていた。
そして、玲衣さんが雨音姉さんをまっすぐ見つめる。雨音姉さんは気圧されたように一歩後退した。
「やっぱり雨音さんも晴人くんのことが好きなんですね」
「ち、違うの。この日記は……えっと、その……冗談で書いただけで……」
「そんな嘘、わたしも晴人くんも信じないと思います」
普段はクレバーで余裕たっぷりの雨音姉さんが、完全にテンパっていた。
反対に、いつもは控えめな玲衣さんからは、「ごまかされないぞ」という強い意思が感じられた。
俺は二人を見比べて、はらはらする。玲衣さんと夏帆はいつもバチバチと火花を散らしているけれど、玲衣さんと雨音姉さんの関係について俺は考えたこともなかった。
玲衣さんからしてみれば、雨音姉さんはこのアパートという逃げ場を作ってくれた恩人だった。雨音姉さんからしてみれば、玲衣さんは保護すべき気の毒な女の子だったのだろう。
けれど、今や立場がまったく違う。
雨音姉さんからしてみれば、玲衣さんは脅威だ。俺は、雨音姉さんに「玲衣さんと二人きりでここに住みたい」と言ってしまった。
このアパートでの居場所も、そして俺の家族という立場もすべて、雨音姉さんは玲衣さんに奪われてしまうことになる。
一方、玲衣さんからしてみても、雨音姉さんは最大のライバルになる。俺の家族としてずっとそばにいたわけだし、玲衣さんの部屋だって元はと言えば雨音姉さんの部屋なのだから。
雨音姉さんが恋敵なら、玲衣さんはこの家に住むにあたり、雨音姉さんのことを意識せざるを得ない。
雨音姉さんの本心を知ってしまったから、すべての事情が変わってくる。もちろん、夏帆と雨音姉さんの関係も……。
雨音姉さんは、唇を噛み、そして絞り出すような声で言う。
「私は……べつに晴人君のこと、異性として意識していたりしない。だから、晴人君と水琴さんがこの家に戻るのにも協力してあげる。水琴さんも、その方が都合が良いでしょう?」
玲衣さんは、雨音姉さんを見上げ、そして首を横に振った。
「わたし、雨音さんには感謝しているんです」
「え?」
「この家の鍵をくれたのは、雨音さんでしたから。わたしを遠見家から守ってくれて、そして、晴人くんと出会わせてくれた。本当に、本当に感謝しているんです」
「……当然のことをしただけ。水琴さんが感謝すべきなのは晴人君で、私じゃない」
「そうだとしても、感謝しています。だからこそ、雨音さんには自分の気持に嘘をつかないでほしいんです」
「嘘? 私は嘘なんてついていない! 勝手なことを言わないで!」
雨音姉さんが感情的に玲衣さんを睨み返す。
けれど、玲衣さんも一歩も引かなかった。
「なら、どうして晴人くんのことを好きでない、なんて言うんですか?」
「……私は晴人君に幸せになってほしいの。ただ、それだけ。私が一番つらかったとき、晴人君は私を救ってくれた。だから、今度は私が晴人君を助けてあげる番」
「それなら――」
「でも、私の気持ちなんて必要ないし、私は晴人君の一番になりたいわけじゃないの。水琴さんでも、夏帆でも、他の子でも、晴人君が一番幸せになれる子を選べばいいと思う」
「わたしだって、晴人くんに幸せになってほしいんです」
「え?」
「雨音さんが晴人くんのことを好きで、晴人くんが雨音さんを選ぶなら――わたしは受け入れます。だって、それは晴人くんが選ぶべきことだもの」
「だけど……」
「雨音姉さんが晴人くんのためを思っているのはわかります。でも、選ぶのは晴人くん。そうでしょう?」
そして、玲衣さんは俺を振り返った。
「晴人くんは、どう思う? ううん、どうしたい?」
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