105話 水琴さんにすること、私にもする?
「日記を見たんでしょう?」
「見てないよ」
「絶対見たでしょ!?」
雨音姉さんが慌てて、俺から日記を奪おうとする。さっきも雨音姉さんは俺から取ろうとしたけれど、そのときはエロ本だと思っていたから(?)か余裕の表情で、からかうような感じだった。
でも、今は違う。必死に俺から日記を取り返そうとしていた。俺は窓際にふたたび追い詰められ、そして、雨音姉さんが強引に俺に手をのばす。
俺もとっさに渡さないようにと日記をぎゅっと両手でつかむ。
そして、もみ合いになった。雨音姉さんの端整な顔がすぐ近くまで来て、どきりとする。
俺は背に日記を隠すけれど、雨音姉さんの手が俺の背中に回りそうになる。
避けようとして俺は体勢を崩した。
「わっ……」
「えっ……きゃあああっ」
雨音姉さんが悲鳴を上げ、俺と一緒に床の畳へと倒れ込む。さっきと同じなのだが、今度は俺が雨音姉さんに覆いかぶさる形になっていた。
つまり、事故とはいえ、俺が雨音姉さんを押し倒すような格好になっていたのだ。
雨音姉さんが「あっ……」と小さく吐息を漏らす。その顔は赤くて、明らかに俺のことを意識していた。
日記は床に落ちていて、でも、もう俺も雨音姉さんもお互いのことしか見ていなかった。
「あ、雨音姉さん、大丈夫?」
「へ、平気。……晴人君に押し倒されていること以外は」
「押し倒したわけじゃなくて……」
ただ、俺の右手は雨音姉さんの左腕を押さえつける形になっている。左手は……雨音姉さんの豊かな胸に重ねられていた。
その柔らかい感触に、俺は混乱し、すぐに手を離そうとする。わざとじゃない。倒れたはずみだ。そう言い訳しようとした。
ところが雨音姉さんが右手で、ぎゅっと俺の手を握った。
結果として、俺の手は雨音姉さんの胸から離すことができなくなった。
そして、雨音姉さんは「んっ」と甘い声を漏らす。
そして、俺をまっすぐに見つめた。
「一緒に住んでいたときは、一度だって、こういうことをしてくれたことなんてなかったのに」
雨音姉さんは小さくつぶやいた。
「……雨音姉さんはさ、こういうことをしてほしかったの?」
「ち、違うわ」
「なら……」
言葉とは裏腹に、雨音姉さんの手は俺をつかんで離さなかった。
雨音姉さんがぎゅっと目をつぶる。まるで俺を受け入れるように。
「水琴さんにすること、私にもする?」
雨音姉さんがささやく。それはきっとキスしたり……ということで。
もしそうすれば、引き返すことはできなくなる。
従姉弟ではなく異性として互いに触れるということだから。
どうすれば、俺は雨音姉さんを傷つけないでいられるのだろう?
ここで雨音姉さんに何かしても、あるいは何もしなくても、元通りの関係ではいられない。
でも、俺は決断する必要はなくなった。
部屋の扉がばたんと開く音がしたからだ。
俺も雨音姉さんも二人してそちらを向く。
そこに立っていたのは、銀色の髪の美少女だった。清楚な雰囲気のブラウスにスカートを合わせた私服姿だ。
「は、晴人くん!? それに雨音さん!? 何をして……」
顔を真っ赤にして、玲衣さんは言葉を失った様子で立ち尽くしてた。
玲衣さんはアパートの合鍵を持っている。俺も雨音姉さんも目の前の相手を意識するあまり、玄関の扉が静かに開いたことに気づいていなかったみたいだ。
まずい。
第三者――玲衣さんの目から見れば、絶対に誤解するだろう。
二人きりのアパートで、俺が雨音姉さんを押し倒し、あまつさえ胸も触っている。
そういうことをしようとしていた、というふうに見られてもおかしくない。
玲衣さんがびしっと俺を指さして、目をぐるぐるとさせる。
「は、晴人くんの浮気者!」
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