102話 私は晴人君のことが好き
雨音姉さんが留学に行く少し前の日記のようだ。つまり、俺が高校生になったぐらいのこと。
「晴人君は夏帆のことが好き。私は晴人君のお姉さんで、夏帆のことも応援してあげたくて……。でも、私は晴人君のことが好き。私はどうすればいいの?」
「晴人君は私を頼れるお姉さんとしか思っていないんだよね。それでも十分、嬉しいけど……それだけじゃ満足できない」
「私には晴人君しかいないんだって、気づいちゃった。私が一番苦しいときに一緒にいてくれて、私を家族として認めてくれた男の子だもの」
俺への好意が赤裸々に綴られていて、俺は衝撃のあまり、日記を床に落としそうになった。
別のページをぱらぱらとめくって目を通す。
「晴人君が二人きりで私の誕生日パーティーを開いてくれた! すっごく嬉しかった!」
「晴人君って、私の下着を平気な顔で洗っているけど、恥ずかしかったりしないのかな? 女性として見られていないみたいで、なんだか複雑……」
「私が晴人君の部屋へ行って、寝ている晴人君のベッドに潜り込んだら……晴人君、どんな反応するかな? ただのスキンシップとしか思わない? それとも……」
俺はそこまで読んで、日記をぱたんと閉じた。俺が容量オーバーになったからだ。
普段の雨音姉さんは、いたずら好きで、いつも俺のことをからかっている。そして、何事にも動じない強さのある人だと思っていた。
でも、この日記の雨音姉さんは違う。迷い悩む少女のようで、そして、俺に強い好意を持つ女性だった。
「気づかなかった……」
玲衣さんの言っていたとおりだったわけだ。雨音姉さんは俺のことを好き。理由はわからないけれど、それは間違いない事実だった。
俺は、そんな雨音姉さんに、玲衣さんのことも夏帆のことでも、助けてほしいと言ってしまった。頼ってしまった。
雨音姉さんのことを「ただの家族」だと思っていたから。
それはどれほど残酷なことだろう。
雨音姉さんも俺を大事な家族だと想ってくれていて、夏帆とのことを応援してくれて、玲衣さんを助けようとしてくれた。
だから、雨音姉さんは、俺に好意を告げなかった。
でも、俺は知ってしまった。
俺はどんなふうに雨音姉さんに接すればいいのだろう?
日記を持ちながら、俺が立ち尽くしていたら、やがて玄関の扉が開く音がした。
雨音姉さんが戻ってきたのだ。
俺は慌てて押入れを開き、日記を元に戻そうとする。
ところが、こんなときに限って、建て付けが悪いせいで押入れの扉が開かない。築三十年のアパートのボロさを珍しく俺は心のなかで呪った。
ホコリのことなんて考えず、開けっ放しにしておけばよかった。
結局、日記を手に持ったままの状態で、俺は雨音姉さんを迎えることになった。
振り返ると、雨音姉さんが部屋の入り口に立っていた。慌てて後ろ手を組んで日記を隠す。
雨音姉さんはにやにやと笑っていて、もういつもどおりの雰囲気だった。
「晴人君、私がいないあいだに何してたの?」
雨音姉さんを前に、晴人はどうする……!?
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