彼女との出会い
一面の花や草、小鳥のさえずりがこの地の平和を教えてくれる。まるで楽園のようなところ。
「はぁ、疲れた。相変わらずここに来るのは大変だな。」
ーそこで俺は、初めて彼女と出会ったー
「よ!久しぶり!」
ーそしてまだ彼女はそこにいるー
鳥の鳴き声、川のせせらぎ、それらを打ち消すようなセミの鳴き声。差し込む日差しの暑さを、凛とした風鈴の綺麗な音色が和ませる。
豊かな自然あふれるここは、山松村。この村は山の中にあり、村の中心に大きな一本松がある村だ。
あの時の俺は七歳だった。
家の前には大きなトラック。村のみんなが家から家具をトラックへと運んでいた。
いつもそばにいてくれた両親の離婚によって、父は村に残り、僕は母と共にこの村を去ろうとしていた。
両親のことが大好きだった僕はこの引っ越しには少しの抵抗があった。
村で過ごす最後の日とあって、朝から、
「お母さん!遊びに行ってくるね!」
と、言うと母が、
「いってらっしゃい。夕方までには帰ってきてね。」
と、返事をしたので僕は家を飛び出した。
遊ぶといっても、この村には僕と年の近い子供がいなかった。そのため僕がこの村でできることは、村の中心の一本松のてっぺんにあるツリーハウスからこの山全体を見下ろすことくらいだった。
そして僕は一本松に登り、最後であろうこの景色を目に焼き付けていた。
「あれっ?」
僕は思わず呟いてしまった。森の奥に、見たことのないような花畑があったのだ。僕はそれを見るのが初めてであった。
今まで何度この景色を見てきたことだろう。僕は溢れ出る好奇心を抑えきれず、一本松から降り、そちらへ向かった。
道が険しい。道という道がなく、ただ僕は獣道を通りそこへ向かった。
そして茂みを出ると、辺り一面の花や草が広がったところへ出た。
そこは村の様子とは全く異なった光景であった。
僕は、
「すごい!こんなところがあったんだ!」
そう感心し、近くの花を見ていた。
僕がしばらくそうしていると遠くのほうに誰かがいることに気が付いた。
(誰だろう?)
そう思った僕はそちらへ近づいていった。
近づいてみるとそこには、金色の美しい髪に、澄んだような青い瞳、白いワンピースを着た少女が立っていた。
僕はとても驚いた。
今の日本は外国との仲が悪く、反外国制度を強化していて、外国人は見つかると確保されてしまうような世の中だったのだ。
僕はそんなこと気にせず、
「君はだれ?ここに住んでるの?」
と、尋ねた。すると少女は、
「ワタシハ…ソフィア…。ソコ…オウチ。」
少女が指差した先には、ポツンといた一軒の小さな家があった。僕は少し考えて、
「じゃあさ、ソフィア!一緒に遊ぼ!」
そう言うと、ソフィアは一瞬戸惑った後、明るく笑って、
「ウン!」
と、答えた。
「じゃあさ…」
ソフィアと遊ぶ中で僕が日本語を教えたり、今日自分が引っ越すことを話した。
ソフィアからは、彼女の故郷について聞いた。
ソフィアは、ある国の貴族だったんだけど、国民の貴族反対派の人々に攻め込まれて、命からがら、両親との三人でここへ来たそうな。
そんなん話を彼女としていると、すぐに時間が過ぎた。
夕日が綺麗な時間帯だ。少し風が強く、森が揺られ、その音が耳に入ってくる。
僕は母との約束があり、そろそろ帰らなきゃと思ったので、
「じゃあ帰るね!バイバイ!またいつか会えるといいね!」
と、言うとソフィアが、
「なまえ、おしえて。」
と、いうので、僕は、
「僕の名前は____。」
そう言い残して僕はその場を去っていった。
僕は来た道をたどり、家へ帰った。
もう引っ越しの準備は終わっていて、あとは僕の帰りを待つだけであった。
僕は母に言われるままトラックに乗った。
トラックが出発し、僕は少しずつ離れていく自分の住んだ家、過ごした村をトラックの窓から横目で眺めていた。
空は少しだけ曇っていた。