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第5話:二人の少女

 クリスは、不思議でならなかった。目の前に居る少女、エイダが発した言葉が信じられなかったのだ。青年は、「クリス」と言う名前の少女をこの城から助け出しに来たと告げた。なのにエイダは、それは、自分の事だと言ったのである。


クリスは、自分を助け出しに来た青年に名乗る事も許されない状況で、「クリス」と名を偽ったエイダを信じられない気持ちで眺めて居る。


皇帝ラーによって幽閉されていた。


それは、自分もエイダも同じ境遇だった。


それ故にエイダの「ここから出たい」と言う気持ちがクリスには、よく解かっていた。だからこそのエイダの嘘がクリスの心に突き刺さる。




 クリスは、とある国の城下町にある小さなパン屋の娘として、育てられた。


と、言ってもパン屋の主人との血の繋がりは、無く。赤ん坊の頃、養子としてパン屋の主人に引き取られたのである。クリスは、常日頃からその事を父と仰ぐパン屋の主人にその事を教え込まれていた。


自分は、王族に連なる高貴な血脈を持つ存在だと言う事。そして、自分には、双子の姉が存在する事。


もしも、その姉が成人し、王位を継げば、自分は、姉の為にその身を捧げなければならない事。


そう言った事も含めて、教えられながらクリスは、大切にパン屋の娘として育てられた。


だが、ある日の事。


クリスは、店の手伝いで、帰りが遅くなり、日が落ちて薄暗くなった夜道を歩いていると、突然あらわれた男達数人に襲われてしまった。気が付けば、城の地下牢に閉じ込められていたのである。




「クリス、ねえ、聞いてる? クリス?」


静寂なる暴風の言葉に我に返ったクリスは、気持ちを切り替えて彼の正面に向き直った。


「クリス、状況が変わった。あの男が部屋に入り込んだおかけで、十分な魔力負荷を結界に発生させている。今がチャンスなんだ」


「結界が破れるの?」


「そうそう、だから始めよう」


静寂なる暴風のその言葉にクリスは、覚悟を決めた様子で、その白い小さな身体をエイダと青年の前に進ませるのだった。






 突然の事にラファエルは、少し驚いたが直ぐに何処にでも居そうな子猫だと判断した。自分の目の前に居る小さな子猫が二匹、突然目の前に飛び出してきたのだ。


「子猫……ここで飼われているのか」


ラファエルは、安堵の溜息を吐いたが、その次の瞬間に飛び込んで来た初めて聞く声に自分の耳を疑った。


「お願い! 私の話を聞いて」


そんなクリスの叫びにラファエルは、声の主を探すように部屋の中を見渡す。だが、見つからない声の主にラファエルは、エイダの方へ顔をむけるが彼女も顔を左右に振る。


「いったい。何処から……」


ラファエルが困惑していると、再び声が聞こえてきた。


「私は、ここです」


ラファエルは、今度こそ声が聞こえて来た方向を確実に捉えた。


ラファエルが顔を向けた先には、一匹の子猫の姿。ラファエル自身信じられなかったが、確かにこの子猫が言葉を発したのだと奥歯を噛み締めた。


「どういう事だ。子猫が人の言葉を喋る? 魔物だと言うのか」


「魔物じゃないの。こんな姿をしているけど。元は、人間」


ラファエルは、状況が飲み込めないまま、クリスの話を聞いて居たがしだいに心を落ち着かせ聞き入るようなになっていった。クリスの説明により、ラファエルは、彼女達も自分と同じこの城からの脱出が目的である事を知る。


「僕は、彼女と違って、魔物だよ。ああ、そんなに身構えないでよ。僕は、君達に危害を加えるつもりは、ないよ。僕は、彼女と取引をしたんだ」


白い子猫の後ろから現れた、もう一匹の三毛猫の姿を見て、ラファエルは、少し警戒したが三毛猫の言葉に安堵の溜息をついた。


「つまり、お前達もこの城から出たいから、協力しろと?」


「そう。僕達は、この部屋の結界破壊する手段がある。協力してくれたら、脱出できると思うよ」


三毛猫のその言葉にラファエルは、少し考え込んだ。今のラファエル達の現状を考えれば、三毛猫の提案は、とても魅力的である。しかし、人間の言葉を喋る子猫が二匹、しかも一匹は、魔物だと言う。どこまで信用できるのか、ラファエルは、少し慎重になった。


それでも現状を打開する手段がそれしかないと言う事も理解していた。


「わかった。協力しよう。ただし、この部屋の結界を破壊するまでだ。その後の事は……」


「ああ、解かっているよ。さあ、始めようか」


三毛猫は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

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