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第3話:魔物と人と

 バルド帝国城。


4階建ての城であるが、その内部は、広く複雑でまるで迷路の様になっている。敵の侵入を許した場合、敵を迷わせる為の工夫である。


例え、城内に仕える人であっても、城の地図が頭に入ってないと迷ってしまうほどであった。


そんな城の中をうろつく二匹の子猫。


一匹は、三色の体毛を持つ猫、「静寂なる暴風」であった。


そして、その後ろをついて行くのは、白銀の体毛を持つ子猫。


この白い子猫は、静寂なる暴風の獣の魔法によって姿を変えてしまった少女、クリスその人物であった。


魔法結界により、封じられていた地下牢から脱出する為に人では無い姿に変化させるしかなかったのである。人間を封じると言う括りで張られた魔法結界を騙すためにクリスは、その身を白い子猫の姿に変えて居た。






 地下牢を脱出して、いざ城の外へと向かう予定だった二匹の子猫は、複雑な城の作りに迷子になってしまい城の中を彷徨っていた。


そんな二匹の子猫の姿を巡回していた2人の兵士が見つけて声を上げる。


「おい。猫が二匹迷子になってるぜ。どこからか、迷い込んだようだな」


「どうするんだ?」


「どうするって? 捕まえるしかないんじゃないか」


兵士達が子猫の処遇について、あれこれ相談していると、もう一人、今度は、煌びやかなハーフアーマーに身を包んだ青年が通りかかった。


その姿を見た二人の兵士は、直立のまま敬礼をする。


「どうかしたのか?」


「ハイ、カレット様。子猫が二匹迷い込んだようでして」


カレットと呼ばれた青年は、何かに閃いた様子でクスリと笑みを浮かべる。


この青年、名をロディー・カレットと言った。名のある貴族の出で、皇帝ラー直属の近衛兵第一軍の部隊長をしている。もちろん、城の中では、知らない者は、居ないほど名の通った人物である。


「いい事を思いついたんだ。一緒に子猫を捕まえよう。それと、大きめの鳥かごが欲しいな」


ロディーがそう言うと兵士の一人が一度敬礼をして、鳥かごを探しに走り去った。





 城の西側に位置する塔。


そこに二匹の子猫が入った大きめの鳥かごを持って、ロディーは、入り口の前で立っている。


そして、入り口の前に立つ二人の屈強な門番に止められていた。


「カレット様、またですか」


「そこをなんとかならないか」


「あまり、許可なく人を入れるなと言われて居るんですがね」


「そんなに固い事、言うなよ。今日は、プレゼントを持って来たんだ」


ロディーにそう言われて、門番達は、少し呆れた様子で入る事を許したのであった。





 エイダは、突然の意外な人物の訪問に驚き、喜びの声を上げた。


「うわぁ~っ。ロイ、久しぶりだよね。ねえ、早くこっちに来て」


エイダは、ベットの端に腰掛けたまま、隣へ腰掛けるように促す。


「元気にしてかい? お姫様。これは、プレゼントだよ」


ロディーは、そう言って、二匹の子猫が入った鳥かごをエイダに手渡した。


「わーっ、可愛い子猫が二匹も」


エイダは、鳥かごに入った二匹の可愛い子猫を見て、嬉しそうに声を上げる。


そんな嬉しそうなエイダの姿を見て、ロディーは、微笑んだ。




 静寂なる暴風は、城の中で迷子になって居た所をロディーに捕まえられた。


実のところ、静寂なる暴風は、大人しく捕まれば、城の外へと連れて行ってくれるではないかと、そう考えていたのである。


しかし、連れて来られた所は、城の外ではなく、西に在る塔の中。


静寂なる暴風は、鳥かこの中で塔の中に入った時に違和感を感じていた。


「これは、まずいかもしれないね」


小さな声で、隣に居る白い子猫クリスに静寂なる暴風は、話しかける。


「まずいの?」


「この塔の中は、魔法結界が張られている。それも相当強力で、特殊なやつだよ」


静寂なる暴風は、塔の異質さを敏感に感じとっていた。


そして、静寂なる暴風の魔力に塔の魔法結界が反応して、弾ける様な感覚と共に魔法結界の一部が壊れてしまったのを感じた。






 ロディー達が部屋の中で会話を楽しんでいると、唐突に部屋の入り口が開かれた。


入り口から入って来た人物の姿を見て、ロディーとエイダは、直ぐさま床へと跪づく。


そう、部屋に入って来たのは、皇帝ラーその人だったのである。皇帝ラーは、部屋に入るとロディーの姿を見つけて、声を掛けた。


「ロイ、どうしてお前がここに居る?」


「姫様の話相手でもと思いまして……」


「まあ、いいだろう。我は、少し気になる事あってな。この部屋にやって来たのだが……」


皇帝ラーは、そう言って、ロディーの隣で跪づいているエイダを睨みつける。


エイダは、そんな皇帝ラーの視線に怯みもせずに顔を上げた。そして、ゆっくりと皇帝ラーの許へと歩きだす。


「陛下、お久しぶりでございます。少しお話を」


エイダは、少し緊張した面持ちで、皇帝ラーの傍に辿り着いた。


すると、返ってきたのは、言葉ではなく、皇帝ラーの右手だった。


「我に近づくな!!」


大きく振りかぶった皇帝ラーの右手は、エイダの左頬を捉え、その衝撃で吹き飛び、床を転がり、狭い部屋の壁のその小さな身体をぶつけたのである。


それを見て居たロディーは、直ぐに抗議の声を上げた。


「陛下!! それは、あまりにも……」


「ロイ! お前は、黙っていろ」


ロディーは、皇帝ラーにそう言われて黙るしかなかった。


左頬を殴られ、吹き飛ばされたエイダは、ゆっくりと立ち上がると、晴れた頬を押さえながら、キッっと皇帝ラーを睨みつけた。


「お前の望みも、希望も。我は、理解している。だが、お前の望みは、一切叶わぬと知れ!! お前は、この部屋から一生出る事は、出来ない。お前は、この部屋で育ち、成長し、老いてその命が尽きるまでここで過ごすのだ」


「……」


エイダは、もはや皇帝ラーを睨み付けるだけで何も語らなかった。


「お前をこの境遇に追いやったのは、我である。我を憎め。それで、お前の気が晴れるのならな」


皇帝ラーは、そう言い終わると、今度は、部屋の中を見渡しはじめる。


そして、部屋の中心へとその身を進ませた。


「ふむ。魔法結界の一部が欠損しているな。エイダ、お前のしわざか?」


「……」


「ふん、これから、魔法結界の修復に入る。ロイ、お前は、少し下がっていろ」


何も答えないエイダを横目で見ながら皇帝ラーは、両目を瞑って呪文を唱え始めるのだった。




 皇帝ラーは、魔法結界を修復し終わると、ロディーの方へ向き直った。


「ロイ、お前に少し話しがある。我について来い」


皇帝ラーは、一方的にそう言うと部屋を出て行こうとする。


ロディーは、直ぐに皇帝ラーの後を追ってエイダ居る部屋を出て行った。


塔を後にして、ロディーは、皇帝ラーの横に並び声を掛ける。


「陛下、お話とは?」


「あの娘の事だ。お前は、どう思っている?」


「……言いにくい事ですが。不憫であると。あのような所に閉じ込めてられて」


「うむ。お前らしい答えだ」


皇帝ラーは、少しからかう様に言うと笑みを浮かべた。


「だがな、ロイ。あの娘にあまり情を移すなよ。出なければ、後で苦しむ事になりかねぬ」


「それは、どう言う事ですか?」


「このさいだ。お前だけには、教えておこう。強すぎる魔力と言うものはな。人や生物を変質させてしまうのだよ。小さな小鳥や鼠、猫さえも魔力を持ては、変質し魔物になって人間を襲うようになる」


「それは……」


「あの娘は、生まれつき強い魔力を持って居たのだよ。いや、とても強力な魔力をな。故に変質を始める前に魔法結界の中に閉じ込めた」


「……」


ロディーは、皇帝ラーから告げられた事実に言葉も出なかった。そして、エイダが部屋に閉じ込められている理由を知っても、やはり不憫であるとそう思った。


「あの娘を決して、魔法結界の外に出しては、ならぬ。外に出せば、その自身の魔力に押しつぶされて変質を始めてしまう。見たくないものだな。人間の魔物化を。魔人と呼ばれる存在をな」


「御意」


「ロイ。もしも、あの娘が魔法結界の外に出る事があったのならば、お前が倒してやるのだな。せめてもの慰めとしてな」


ロディーは、皇帝ラーにそう言われて、自分自身に自答していた。


倒せるのかと。自分がまだ少女のであるエイダの命を絶つ事ができるのかと。例え、人でなくなったとしてもエイダを倒す自信が今のロディーには、持てなかった。


そして、皇帝ラーの優しさに感謝をする。


亜人種であるエルフやドワーフには、冷徹な皇帝ラーであるが、人間や身内には、とても優しい面を見せる。その事は、誰もが知ってる事で、だからこそ民も兵も皇帝ラーに対する信頼は、厚かった。


ロディーは、思うである。これほど人の上に立つに相応しい人物は、居ないと。世界を統一し、平和な世界を構築できるのは、陛下以外に居ないと。








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