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超ド田舎ミステリー

作者: まよ

 雄叫びが突然響き渡り、少女は校舎を飛び出す。廊下にある掃き出し窓から、彼女の他にも次々と生徒たちが掛けて出た。上履きが汚れるのも問わずに。


 何が起きたかしら。


 飛び出した先は中庭。向かいに校舎。周りは青い山々に囲まれ、近くに来ているらしいバキュームカーの匂いが風に乗ってきて臭い。

 少女はスカートをはためかせる。

 座り込んだ大男が見える。筋骨隆々で、全く似合っていない詰め襟。スポーツ刈りの精悍な彼は、ゴツゴツした手でその頭を押さえている。


「どうしたの? 痛む?」


 血は出てないみたい。


 どうしたの、大丈夫か! 後ろから十数人の生徒が到着。


「後ろから誰かに殴られたんだ! くっそー俺が負けるなんてよう! 悔しいぜ全く!」


 頭をさすりながら、反対の拳を振るわせる彼。


 この様子なら保健室に連れて行かなくても平気ね。


 主に女子たちが、心配して集まる。男子たちは周りから「かっこわりーの」と笑うばかり。これくらい、男子からしたら屁でもないのか。

 どうやら女子たちは犯人を捜す流れになったようだ。今や被害者の彼に、事情を聞いている。


「見てねえ。けどよ、すげー痛かったから男だな」


 女だって強いのよ! と女子たち。そこを張り合ってどうするの。

 女子たちは犯人捜しの袋小路に迷い込んだようだ。

 話を聞く以外にも、推理の材料はあるはずよ。

 少女はあたりを見回した。猫背の用務員が和箒片手に前のめりに歩いているだけ。後ろには足跡が残って……


「証拠なら、ここに残ってるわよ」


 少女は一歩踏み出す。皆が目を見開く。そしてどこどこと見回す。


「もっと下、地面を見て。昨日の雨でぬかるんで、足跡が残ってるの」


 皆が通ってきた方と反対側。誰かが逃げて行った足跡。


「これが、犯人の足跡よ」


 この足跡と同じ靴を持っている人が犯人だと皆が言う。


「これ内履きの跡だけど」


 少女は片足を上げて、靴を見せつける。学校指定の内履き。皆も自分の足を見る。皆同じ靴。

 それじゃあと足跡のサイズを測る流れになり、誰かが真ん中で折り曲げられる三十センチ定規を持ってくる。二十八センチ。男子だと女子たちが言う。男子は揃って顔の前で手を横に振る。


「まさか男子生徒の靴を全部測るつもり? 靴は他の人のを履き替えたり、なんとでもできるでしょ。それに、そうしなくてもほら」


 少女がしゃがむとスカートが捲れてパンツが丸見えになっているが、幸い皆が靴跡に注目している。


「この足跡、前方が深くなってる」


 つまり走ったから前方が深くなったんだ! と一部の賢い生徒たち。


「違う。すごい前のめりに歩く犯人ってこと」


 ずっこける生徒たち。


「あっ! あいつじゃない?」


 一人の女子生徒が指さした先には、もの凄い前のめりなことで有名な野球少年。ボールを追って駆けつけたようだ。


「あの前のめりは、物事に対する姿勢の話だから。私が言ってるのは、歩き方の話」


 少女は両手を腰に当てる。


「ちょうど彼みたいな」


 指さした先にいるのは――――


 先ほどから中庭を掃除していた、猫背で前のめりに歩く用務員。

 あいつか! 生徒たちが勢いを付けて用務員に向かっていく。

 そんな彼らを横目に、少女はふと思った。


 学校ってつまらないと思ってたけど、そうでもないみたいね!


 あたりは青々とした山々。バキュームカーはどこかに行ったみたいで、今度はいつもどおり、近所の牧場から馬糞が匂ってきているのだった。


バキュームカーで伝わったでしょうか。ぼっとん便所にくみ取りに来る、匂う車です。

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