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魔導士たちの夢跡  作者: 超常毎日
動き出す歯車
5/6

世界の秘密、魔道の秘密2

 その後、ひとまず解散となった。ひとまず、というのは放課後にまだ話の続きがあるから付き合いなさいとの命令であった。


 窓際である八尋は、退屈な古典の授業を聞き流しながら校庭で走りこんでいる生徒たちを眺める。


 体育の授業であろうそれは体力テストなのか、はたまた教師の思い付きなのか分からないが、どの生徒も死力を尽くして走っている。


 ビリには何か罰ゲームでもあるのだろうか。


 そう思い最後尾付近である生徒を冷房が効いた部屋から見ていると、その人物はさきほどまで心の中に入っていたカップルの女の方であった。


 八尋の教室は三階であり、校庭からはそこそこの距離があるのだが、それでも彼女がしんどそうにしているのはすぐに分かった。


 険しい顔に重く動かない足。


 少しでも酸素を欲したいとおもうような必死な呼吸。


 数分後、何とか彼女はゴールをした。

 しかし結果は見ての通りダントツ最下位であった。授業終了時間も残り数分になり、校庭の方は整列して教師に終礼をするところなのを見届けると八尋は自らの授業に神経を向けるのであった。



「おい、ユウタ。お前いつ彼女できたの?」


 時刻は昼休憩になり、各々仲の良い友人たちと席を合わせ、昼食をとっている。


 ユウタとはこのクラスになって以来同じ席で食べているが、今日は朝からなかなかショッキングな出来事があったため、いつ言おうかタイミングを迷っていたのだ。


「っっーーーー!!」


「って、なに僕の席にお茶吐き出してんだよっ!」


 しかし、お茶を飲んでいるタイミングでいうのはさすがに悪かったようだ。


「ゴホッ……、ゴホッ……。いきなり何言いやがるんだよ!」


「え、今朝なんか仲良さげに登校してたじゃないか、女の子と」


「……、ああそれか。あのな、アレはそういうんじゃなくて相談役に俺がなってたんだよあの子の」


「え、野球バカのユウタに?」


「野球バカで悪かったな――、じゃなくてその野球バカだからだよ。どうやらあの子は持久走がひどく苦手らしくてな。俺はホラ、野球で体力づくりはお手の物だろ? どこかでそれを聞きつけた彼女はそれで俺に相談してきた、ってわけ。というか、あの子が彼女なら俺は今頃男二人でコンビニのお握りなんて食ってねえよ」


 確かにユウタは3年の先輩を上回るくらいかなり野球が上手い。


 どのスポーツでもそうだが、真夏の太陽に照らされながら運動することはかなりの体力がいる。


「そ、そうなんだ……。なんかでも人に頼られてるユウタをみて安心したよ。僕くらいしか友達いないのかと思ってたよ」


「お前と飯食うの嫌になってきたわ」


 何か引っかかっていたが辻褄はあっているし思い過ごしだろうと、その場はユウタをからかうことに専念するのであった。


「でも、なんでその子はユウタに頼んだろうね。野球部の子はほかにもいるのに」


「それは俺がエースだか――――」


「あ! 飲み物なくなったから買ってくるね」


「人の話は最後まで聞こうな‼」


 実際にエースになりそうだから怖いものである。


 一階の食堂まで自販機はないため、階段を降りる。3階は2年生の教室となっており、2階は1年生、4階は3年生となっている。


ようやく慣れてきた学生生活も由佳莉のドタバタに巻き込まれ、平穏な日常はいつの間にか非日常になっていた。


 ユウタにお前の心の中覗けるんだ、といったところで精神科病院を薦められるぐらいデマカセのようであるが、昨日今日の体験を知ってしまったら流石に嘘とは言いにくい。


 自分の目で見たことは疑いようがない、それすらも疑うようなら何を信じればよいのだろうか。


 そんなことを脳内でグルグル考えていたらいつの間にか食堂の前にたどり着いていた。


 この時間の食堂の人口密度は恐ろしく高い。なにせ、料理が普通においしいのにコンビニ、弁当屋などよりはるかに安いからだ。


 それゆえ、数に限定はないものの、終業のチャイムとともに駆けつけなければ順番待ちでかなり並ぶことになるのだ。


 お茶にしようかミルクティーにしようか悩んでいるところ、さきほどまでユウタと噂していた女の子が目に映る。


 制服のリボンが紺色なので自身が1年生ということを証明していた。

 半袖のワイシャツから覗く腕はかなり華奢で色白を印象付ける。身長は今朝や授業中見ていた想像より小さく小柄であった。


 そんな彼女は一人で食堂をウロウロとしていた。


 八尋はそんな姿を無視するわけにはいかず、自販機にお金を入れるのを早急にやめて駆け寄る。


「あの、どうかしたの?」


「ふぇっ⁉ あ、あの……」


 こうして間近で見ると、小動物のようでとても可愛らしい。ユウタはこんな美少女と二人きりで話していたのかと思うと無性に羨ましくなってくる。


「ん?」


「……………………」


 どうやらかなりの人見知りなようである。


「あー、うん。俺もしかして邪魔だったかな?」


 何が邪魔なのかまったく意味が分からないが場を動かすためにとりあえず発言した。


「いえっ!! そういうわけではないんです。ではっ!!」


「あ、ちょっと!! ――――、ってもう行っちゃったか……。ん? なんだろこれ」


 彼女の逃げた道に何か落ちているのが目につく。


「えーっと、1-1 西田夢乃……ってこれ学生証じゃん!! どうしよ、とりあえず後で渡しに行こうかな……」


 夢乃とほんの少ししか会話していないにも関わらず、どっと疲労感が溜まる。


 ボッーっと突っ立ていると、近くの長机で昼食をとっている生徒からの視線がなぜか痛々しくなったので早足でその場を去るのであった。


 八尋はその後、一年一組の教室に行き夢乃の居場所をその場にいた一年生に聞いたところ、教室にはいないらしく、学生証を渡して素早く去った。


 自分の教室に戻り、スマホを触っていたユウタの頬にビンタをしてストレスを解消し、昼の授業を受けるのであった。


 そして、放課後。


 今日、八尋と由佳莉は今朝屋上で話して以来一度も会話していない。

 もちろん話すタイミングは無数にあった。しかし、由佳莉はクラスでは孤立しているため誰も寄らないのである。

 何といっても一年のころにあの“アンダーグラウンド”の素の口調で物事をしていたらしい。あれだけ強気な性格で迫られたら流石に誰だって怖気づいてしまうものだ。


 八尋にとっては昨日掃除のときに会話した由佳莉が本当の口調であると思っていたが、アレはただの猫かぶりであろう、となんとなく自分の中で納得がいってしまったのは仕方のないことである。


 ただ、由佳莉自身かなりの美人であることは間違いない。男を手玉に取ることだなんて赤子の手をひねるようなものだと思っていたが、ユウタに聞いてみたところ言い寄ってくる男は現在皆無らしく、それほど彼女の性格の悪さには秀でるものがあるみたいであった。


「四十秒遅刻!!」


「それくらい許してよ」


 時間にも厳しく、四時半に校門前に集合との連絡をもらったと思えばこの様である。


「……、まあ良くないけど最初だし許してあげる」


「そりゃどうも。で、これからどうするの?」


 そういうと由佳莉は先に歩き出し、少し後ろから八尋は付いていく。


「パトロールよ、“マーレ”がこの町にいないかどうかのね」


「え、もしそれで遭遇したら……?」


「もちろん戦うわ。大丈夫よ、昨日と同じようにすれば」


「えぇ……」


 あんまり戦闘については覚えてないしなぁ、とかなり消極的な様子である。


 そんな姿を見て大きなため息をつく由佳莉である。


「はぁ、まあ今日はおそらく出くわさないわよ。アイツらの臭いはしないもの。それに今朝の話には続きがあったのよ。アンタ頭の中パンクしそうになっていたからあの時は少し早めに切り上げたけど」


「え、なんか噂では鬼のような性格って聞いてたけど意外と優しいところあるじゃん」


 なぜか頬が緩んでしまう。


「べっ、別にそういう深い意味はないし――、って一応アンタのこと蔑んだ言い方のつもりだったんだけど……」


「あ、そうなんだね……」


 蔑まれたのに気が付かなかったとは死んでも言えない。


「ところで今朝の続きって?」


「そうね、私について言おうかしら。私は神田由佳莉、上級魔導士よ。使える詠唱(ルーン)は現在一つもないため、戦闘スタイルは太刀一本の前線タイプにしたわ、あと、この町には高校入学とともに配属されたわ。だから、1年と少しってところね。高校卒業まではいる予定だからだいたい今が折り返しって感じね」


 由佳莉はどこか馴れた口調で話す。


「じゃあ、次僕が――」


「その必要はないわ。だいたい知っているわ、明石八尋、17歳。5月21日生まれ。身長170.2㎝、体じ――――」


「知りすぎでは!?」


 なんで知ってるの⁉ 昨日話したばかりなのに。


「そうそう、パソコンのお気に入りの『新しいフォルダ2』はお母さんに見られる前に消した方が身のためよ」


「それ以上はやめて!!」


 パソコンの中まで知ってるって何者だよ本当に。


「これくらいにして、私がこうやって調べてきた魔導省という場所には大抵のことが記されているわ。そこは魔導士を抱える巨大な軍団で、その軍団を“ヴォーノ”と総称しているわ。魔導省は特殊な“ゲート”を使わないと行けない場所にあるの」


 そして、と一拍おき、


「私は今ある事件に巻き込まれて魔力が使えなくなっているの。そして、その特殊な“ゲート”は多分に魔力を消費する詠唱ルーンで私は魔導省に戻ることができなくなっているのよ」


「でもさっき卒業まではこの町にいるって」


「それは予定、って言ったでしょ。もし、私が魔力を取り戻すことに成功したなら魔導省に帰るわ」


「帰るんだ……」


 なんだか少し心がギュッと締め付けられたような気持ちになる。


「とは言っても私にはそれだけの力がないわ。ただアンタ――、八尋と組めば可能性は大いにあるわ」


「僕と?」


「ええ、そうよ。いくら私が上級魔導士といえど、流石に魔力なしにあの『アモン』と戦えはしないからね……」


「ア、アモンって?」


「私から魔力を奪い、そして、八尋から記憶を奪い去った張本人よ!」


 え、なぜそこで僕の名前が出てくる?


「僕は以前そのアモンと出会っているの……?」


「そうね、ただ私から言えることはこれくらいね。これ以上の説明は魔導省から止められているのよ。無理やり昔のことを私が教え込んでいったら、アンタは処理が追い付かなくなって最悪死に至るから、らしいわ。お偉いさん方はそういう判断をし、魔導伝達で――、メールのようなもので私はそう聞いたわ」


 どういうことだ……、昔の僕はなにしていたんだ……? ふと思い出そうとしても、何一つ思い出すことが出来ない。


 思い出そうとすると頭の中にノイズが走って逆に腹が立つだけであった。


「そこで、こういう取引はどうかしら。私は魔導省に帰りたいけど『アモン』に力を奪われてそれが出来ない。アンタは記憶を『アモン』から取り戻したい。共通の敵がいる私たちなんだけど……、手を組んでみない?」


「……、その『アモン』ってやつを倒せばちゃんと記憶は戻るの?」


「ええ、昨日のゴブリンは下等生物だからアンダーグラウンドにいるだけで快感を覚えていたのだけれど、『アモン』のような高等生物――、通称、悪魔はそれだけじゃなく人間や魔導士から色んなものを奪い取るのよ。力の源や記憶、最悪なのは命を奪うものまで様々いるけれど、悪魔は昨日のように消滅させることが出来れば奪われたものは本人のところに戻っていくのよ」


「そうなんだ……、分かったよ、協力しない理由はないからね」


 そうして、八尋と由佳莉はタッグを組んだのであった。そのペアは過去も未来も不動のタッグであると魔導界に認識されるにはまだもう少し先の話になる。



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