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魔導士たちの夢跡  作者: 超常毎日
動き出す歯車
4/6

世界の秘密、魔導の秘密

「で、説明してもらおうか神田さん」


 朝のホームルーム前に八尋は由佳莉を屋上に呼び出し、昨日のことを改めて聞き直そうとしていた。


 ゴブリンを倒した後、普通の寺田ベーカリーに戻った世界を見て一安心の八尋だったが、緊張感が急に解れたせいかどっと疲れが滝のように湧き出て、気になることは山のようにあるがとりあえず帰宅することにしたのである。


 もっとも、香菜は、


「アンタたち何しに来たのよ!!」


 と怒鳴ってはいたが。


「そうね、どこから話せばいいのかしら」


 由佳莉は顎に手を当て考える。


 黙ってさえいれば本当に美人なのにこの高校の男子が言い寄らない理由は昨日学んだ気がする。


「そうね、まず正体から話しましょうか。私はこの世界とは違う世界から来た魔導士よ」


 綺麗な黒色の髪が夏の涼風でなびかせながらそう言った。


「あー、そういうアレね。うんうん、今そういうのが流行ってるんだねー、へー」


 なんとなく理解しちゃ負けな気がした。


「ちなみにアンタもこの世界出身じゃないわよ」


「オッケー、そんな気がしてたんだよね――、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ⁉ ぼ、僕も⁉」


「驚きすぎよ、半分ウソよ」


「ツッコミどころ多すぎてどこからツッコむのが一番被害少ないのか少し考えさせて」


「アンタの中には私と同じ魔導士としての血が混ざっているわ。先祖が魔導士でこの世界の人間と結婚したのかしらね。だから半分は魔導士のようなものよ」


 なんてこった。


「大体そういう魔力概念を受け継がれた人間は生まれた時が一番魔力を持っていて、日がたつにつれ徐々に消えていくのよ。もしくは、魔力を一気に使用したら」


 ふむふむ。


「その魔力って結局なんなの?」


「その人自身の力よ。ただ、魔力玉プールっていう――まあ魔力版の心臓ね、それは魔導士ごとにも異なっているのよ。魔導士には脳内のイメージで水晶玉のようなものがパッってでてくるんだけど、その中に液体があってそれが魔力なの」


「ってことは僕もその水晶玉をイメージできるの?」


「そうね、試しにイメージしてみて。肩の力を抜いて自分の中にある水晶玉をイメージしてみて」


 一度大きめの深呼吸をしてなんとなく目をつぶる。水晶玉をイメージって言われても実際にそんな高価なもの見たことないんだよね……。なんとなく透明な球体って感じかなぁ。


 すると、八尋の脳内が何かを認識する。物理的には見ることができないが暗闇の中に神々しく輝く球体があった。


 大きさでいえばバレーボールくらいではあったが、その中にはさきほど由佳莉が言っていた液体のようなものも入っていた。満タンギリギリぐらいまで入っているそれは昨日のレーザー光線と同じような綺麗な水色をしていた。


「神田さん、なんとなくわかっ――、ってうおっ⁉」


「魔力玉はどのくらいの大きさだった?」


 さすがに巨体であったゴブリンを倒したとはいえ、目の前に美少女がこちらの顔を間近でガン見していたらビビる。


「えーっと、基準が分からないからなんとも言えないけどバレーボールくらいの大きさだったと思うよ」


 その言葉を聞き、由佳莉は安心したかのように息を吐く。


「そう、よかったわ……。あ、言い忘れたけどその魔力玉が大きいほど魔導士としては優秀な証だから」


「ねえ、それなにが良かったのかな⁉ 雑魚って再認識したってこと⁉」


「えっ⁉ そ、そうね。ちなみに私は東京ドームくらいの大きさだから安心して」


「でかすぎるよねそれ!! ってかそれって神田さんに比べて僕の原子並みじゃん⁉」


 よくよく考えたらもうそれ水晶玉の例えまったく必要なかったよね……。


「さすがに東京ドームは言い過ぎたけど、自転車のタイヤくらいよ私は」


「なぜかすごくショボく見えてきたよ……」


「うっさいわね、文句ばっかりじゃないの」


 ムスっ、とそっぽを向く由佳莉はこうして黙っておとなしくしておけば今頃は学校内のヒロインだったろう。生憎、彼女にはそういう肩書はいらなそうではあるが。


「あ、でもこの横暴な態度は灰色の世界専用なんだっけ」


「なによ殺されたいの」


「冗談です」


 なにもあの世界だけの話ではなさそうだし、以後気を付けよう……。


「フン。まあ、いいわ。そうね、まずその灰色の世界について話そうかしら。あれは、アンタの幼馴染の心の中とは昨日説明したわよね」


「うん、そうだね。未だに理解できないけど」


 あんなトンデモ体験をしておいてやっぱ夢オチでした! ってなったら今の僕の気分はどれだけ晴れやかだっただろう。


「ならあそこの浮ついてるカップル――、そうね男に潜入詠唱をかけて」


 屋上から見える景色の一部である登校中の学生カップルがよく見えた。男女もいい笑顔でどこからどう見てもお似合いのカップルであった。


 しかし、よく見ると八尋の友達である山谷裕太であった。


「アイツ、彼女いたのか⁉ 朝からイチャイチャしやがって……。え、潜入詠唱って?」


 由佳莉は今日何度目か分からないため息をつく。


「そこからなのね……、昨日幼馴染にかけたでしょ。詠唱にはほかにも種類があって『攻撃詠唱』『防御詠唱』、それと一部の『特殊詠唱』があるのよ。それはまたいずれ教えるわ。とりあえず、入りなさい」


 一気に難しい言葉を聞かされ脳内処理が追い付かないが、渋々頷く。


「バディスタ!」


 すると、昨日同様に一瞬で世界の色合いが変わる。


「あ、あれ、ピンク色……?」


 だが色合いはかなり変わっていた。香菜の時は灰色であった世界も、今はピンク、というより桜色をしていた。


「そうね、あの男の心の中は絶賛ピンク色というわけよ」


 いつの間にか入っていた由佳莉が予想通りと言わんばかりの顔をしながら言う。


「と、いうと?」


「そのままの意味よ。女の子と付き合って登校することは昨日とは意味合いが違うの。心情をごまかすことなくそのままこの世界は映しているのよ。そして、ここはその人の脳内イメージで保管している場所なの。だからホラ」


 由佳莉は屋上の端を指さす。端といっても八尋達がたっているその場所ではあるが。


「え、アレ、屋上ってこんなに小さくなかったよね?」


「そうね、少なくとも倍の面積はあったわ。でも、これは彼の世界。彼の中では屋上はこのくらいの面積なのよ」


「な、なるほど」


 辺りを見渡してみると確かにいろいろ変わっているところがあった。校庭がわずかに大きかったり、校門は狭くなっていたりしていた。


「じゃあ、この色にはどんな意味があるの?」


「色ボケしている、といえば分かりやすいかしら」


「一度あの野郎分からせておかなきゃね……」


 どうやってユウタを捻りつぶすか今から楽しみにしよう。


「こういう鮮やかで明るい色をしている人間は大丈夫なの。“マーレ”はこういう人間には入ってこない。問題はこれと逆の陰気で暗い色をしている人間のところよ」


「昨日の香菜みたいな灰色ってことか」


「そうね、彼女の色は“マーレ”からすれば定番の拠所ね。明るい色が幸せだとしたら、暗い色は不幸。あいつらはそういう人間の心の中に入り、住み家にしたり操って自分の中の魔力を蓄えたりしているのよ」


「その状況はやっぱりマズいの?」


 素朴の疑問だが、ここは聞いておかないといけない。


「そりゃ、アンタの家にゴキブリいたらイヤでしょ?」


「最悪だね、今でも戦う気力は起こらないね……」


「それと同じことよ。でも、ゴキブリにしたら住みやすい家だからそこで暮らしたくなるのは当然でしょ。ただ、それだけじゃないのよ。“マーレ”はその人間から少しでも魔力を奪おうとするのよ。そして、アイツらは鈍い系の色の世界――、アンダーグラウンドと呼ばれる人間の心の中に虱潰しに侵入しているのよ」


「……、今ザックリと聞いたばかりだけどなんとなく“マーレ”の連中は悪い奴ってのはわかったよ」

「それだけが分かれば今はいいわ。さて、それじゃあ一度ここから出ましょうか――、と言っても出方を教えてなかったわね。アンダーグラウンドは昨日みたいに敵を排除した瞬間に自動的に戻るけど、正常なココは『ゲート』という脱出詠唱をすればもとの場所に戻るわ。ちなみに、今長々と話したけど、外の現実は一秒たりとも動いていないわ」


「精神と〇の部屋みたいな?」


「下んないこと言ってる前にここから出るわよ」


 そうして、二人は詠唱をする。


 瞬く間に辺り一面が桜色の世界からいつも通りの風景が広がる。


「あ、ホントだ。まだホームルームまで時間があるね」


 腕時計を確認しつつそう答える。


「なによ、疑ってたの?」


 いや、そういうわけじゃないけど……。


「さて、次はカップルの女の人に入るわよ。もしかしたら面白いことが起こるかもしれないわよ」


「え、面白いことって?」


「まあいいから早く詠唱しなさい」


「さっき出たばっかりなのに……、バディスタ!」


 狙いを裕太の彼女の方に向けながら言う。


 というか、これどういう仕組みで人の心に入り込んでるんだろ? と疑問に思ったのと同時に世界がまたもピンク色に染まる――――、と思いきや昨日、香菜の心の中に入った時と同じ灰色であった。


「アンタ、これどういう意味か分かる?」


 またも後ろから由佳莉は声をかける。


「え、どうして裕太と同じ色じゃないの?」


「私はそれをあなたにクイズしているのよ!」


 試験監督にでもなりきっているのであろうか、なぜか得意げに問題を出してきた。


「ヒントは心情が世界の色に関係していることよ」


「んー、心情かぁ……。ピンク色は幸せって感じだったから、今は不幸ってこと?」


「そうね、不幸って言い方はちょっとキツ過ぎる気もするけれど……。概ねはそれでいいわ。詳しく言えば、暗い系の世界は『アンダーグラウンド』と私たちは言っているわ。アンダーグラウンドは憂鬱、思い残し、罪悪感――、など枚挙にいとまがないけれど、介してマイナスな心を持っているとなるわ。そして、ココは昨日みたいな敵が潜んでいる可能性が大いにあるから気を付けて」


「え、じゃあ戦闘態勢にならなきゃ!!」


 由佳莉は片手で準備をしようとする八尋を止める。


「いいえ、ここにはいないわ」


「なんでわかるの?」


「アンタは昨日が初めてだったから分からなかったんだろうけど、“マーレ”達からは特有の臭いが発せられてるのよ。それはアンダーグラウンドにいても普通の世界にいても感じられるわ」


 あの臭いだけは一生慣れないわ、とぼやく。


「そ、そうなんだ……。いないと分かれば安心だね」


「それより、彼女の心情の話よ」


「あっと、そうだね。彼女はユウタとラブラブだったじゃん、少なくとも今の心情は明るい系の色だと思うけど」


 ふふ、と不敵な笑みを浮かべる彼女に少しゾクっ、とする。


「それは、彼女はそういう風に思っていないってことよ。さっきの男の方は勝手に早とちりして勘違いしてるバカってことね」


 八尋、と名前を呼ばれ背筋がなぜか伸びる。


「女は怖い生き物だからあんまり逆らわない方がいいわよ」


「は、はいっ!!」


 警告なのか自分を人より優位に立たせたいのか分からないけど、この場ではなぜか彼女に大人しく従おう、と決意を固めるのであった。



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