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魔導士たちの夢跡  作者: 超常毎日
プロローグ
3/6

善と悪の世界

「ここは少し臭うわね」


 由佳莉が目指したその場所は、寺田ベーカリーと書かれたお店だった。


 ただ、そこは八尋がよく知っている場所でもあった。


「香菜の家じゃん……」


 昔からの馴染みである寺田香菜は幼稚園から高校までを過ごした友達であった。実家がパン屋ということでよく親に連れて行ってもらい菓子パンなど買ってもらった記憶がうっすらとある。


「え、もしかしてここ知り合いがいるとか?」


「幼馴染が、ちょっとね」


 すると、栗色の髪の毛をした可愛らしい少女が店の扉を開けて出てきた。


「いらっしゃいま――、って八尋じゃん。うちに来るの久しぶりじゃないの?」


 そう言う香菜は嬉しそうな、どこか悲しそうな顔をしていた。


「そうだね、一年ぶりとかかな」


「ところで、誰?」


 香菜は少しだけ目を鋭くして由佳莉を見る。


「彼のクラスメイトです。今日は日直でお世話になったので何か買ってあげようかと思い覗き込んでたんです」


「何か、ねえ」


「なぜ僕を睨む」


 昔から香菜は僕の世話を焼いてくれていた。その名残もあり、どうやら神田さんを警戒している模様だった。


「まあ、お客さんには変わりないからね。それに八尋には新作も食べてほしいし、とりあえず上がっていってよ」


 香菜が後ろを向いたところで由佳莉が僕の袖を引っ張ってくる。そして小声で、


「彼女にさっき言った通りやって」


「え、香菜に? あと、それに何の意味があるの?」


「黙って言うことを聞けばいいの!!」


 えぇ、めっちゃ理不尽なことを言われてる気がするんだけど……。


 ただやらなければならない気は、心の奥底から感じていた。


「バディスタ!!」


 由佳莉に教えてもらった魔法の言葉を唱える。それは、比喩ではなく本当に魔の力であった。


 世界が一瞬で灰色に移り変わり、先ほどまで後ろの買い物途中であろう婦人たちの姿は消え失せ、道路で談笑していた下校中の子供たちも異世界に飛ばされたかのようにまるで様子が見えない。


 それに、さきほどまでの気温より暑く感じる。


「えっ⁉ まって、なにこれ!!」


 由佳莉の方を見て尋ねる、すると苦しそうな顔をしながら返答する。


「ようこそ、善と悪が混じりあうアンダーグラウンドへ」


「ア、アンダーグラウンドって?」


 思わず由佳莉に恐る恐る聞いてしまう。それほどまでに状況が変わりすぎているのであった。


「……、簡単に言えばここは私のような“ヴォーノ”とアイツらみたいな“マーレ”が一人の心を奪い合う場所よ」


 詳しくは全然わからないけど、どうやら僕はとんでもないところにいるようだ。


「えっーと、いくつか質問があるんだけど」


「いいわよ、なんでもいってちょうだい」


「なんでそんな口調変わってるの?」


「こっちの世界ではこうなの!!」


 はぁ、と深いため息をつきながら由佳莉は腕を組む。


「んで、聞きたいことはそれだけなの? ならそろそろ動くわ――」


「待って待って!!」


 先に行こうとする由佳莉を制止させ、次々と湧き上がる疑問を言う。


「さっき、人の心とか言ってたけど、つまりここは誰の心なの?」


「そりゃ、さっきの女の子でしょ。アンタの幼馴染とかいってた」


 香菜の心の中なのか、ここは。


「で、なんで僕らはここに入れたの?」


「そりゃ、アンタが詠唱ルーンしたからじゃない、潜入魔法を」


 ふむふむ、僕が詠唱ルーンしたからなのか。


「んじゃ、最後に。“ヴォーノ”とか“マーレ”ってなに?」


「ざっくりと言うと、“警察”と“犯罪者”とでも思ってくれればいいわ。私たちは警察で、もうすぐ現れるのが犯罪者。彼らは人の心を悪用して事件を巻き起こしているのよ。と、言ってるそばからお出ましよ。この話はまた今度」


 うんうん、僕は警察であの遠くに見える不気味っぽいのが犯罪者と。


「って理解できるかぁ⁉ てか、犯罪者側もう来てるの⁉ まだ納得しきれてないんだけど!!」


「うっさいわね‼ とりあえず、あのゴブリンを倒しなさい!!」


「なんで僕がそんなことしなきゃいけないんだ!!」


 ヒートアップする彼らではあったが、すでにゴブリンと呼ばれたそれは目前まで迫っていた。


「お前ら、“ヴォーノ”だな?」


 なかなかに渋い声で話すゴブリンは、童話のような小さいサイズではなく、寺田ベーカリーと書かれた看板あたりまである巨人だった。


「ええ、アンタを消滅しに来たわ」


「ほう、ヒヨッコ同然のガキがか? 笑わせてくれるわ、俺はいまちょうど機嫌が悪くてな。なにか憂さ晴らしをしたかったところなんだ」


 右手に持った棍棒を勢いよく地面に叩きつけ、八尋たちを威圧してくる。


「あのあの、これ……、地面にヒビが入ってるんですが」


「八尋、私はある事情があって戦えないんだけど、あと頼んでもいいかしら」


「どうしてそんな無茶なことが言えるの⁉」


「あなたならできるわ。こんな下等種族なんて」


 思い切りゴブリンを煽っていく由佳莉である。


「おい、女。踏みつぶしてやろうか、アァ!?」


 挑発に簡単に乗る様子だが、それを一視もせずまっすぐに八尋を見つめる。


「だから、私に協力して」


 由佳莉めがけてゴブリンは棍棒を振りかぶる。


 瞬間。八尋の中に熱い何かが宿る。


 手を伸ばしゴブリンの棍棒を受け止めようとする。もちろん手で受け止められるほどのサイズではない。しかし、


「なにっ……」


 手から水色のようなオーラが放たれ、波紋を描きゴブリンの棍棒を受け止める。


「ほらね、八尋。やればできるでしょ」


「か、神田さん……、なんだよこれっ⁉」


「それは、あなたの魔力よ。今、あなたの魔力でゴブリンの攻撃を受け止めているのよ」


 要するにこれはバリアってことか。


「次は、攻めに転じて!」


「そんなこと言われても……」


「あー、もう!! アンタっていつもそうなんだから」


「え、今日までに他にどこかで会ったっけ僕ら?」


 ゴブリンは巨体のわりに身軽なステップで間合いを取ってくる。ようやく手を下し、一安心の八尋であったが、ほかに懸念事項ができた。


「さあね、私に協力してくれるなら教えてあげてもいいけど」


 前々から感じる彼女からの雰囲気。どうやら神田さんは知っている様子だ。しかし、僕は何も知らない。


「……、分かった。とりあえず“今”は協力するよ。その代わり、ちゃんと教えてよ」


「交渉成立ね。ならこれを渡すわ」


 隣にいた彼女が差し出してきたのは、少し錆びれた銅色の腕輪だった。しかし、真ん中にダイヤのような輝きをもったそれは左右2つともあり、どこか懐かしい雰囲気がなぜかあった。


「これは、アンタが“ヴォーノ”である証。正義である証よ」


 首を傾げながら受け取り、手首辺りに装着する。思っていたよりもずっしりとしているが不快感はない。


「ちっ、久々の戦闘か~、いくらドラでもこれはきついぜ」


 何者かがこの場の空気を壊す。


「久しぶりね、ドラウニル」


「えっ、誰かいるの? まさかゴブリン⁉」


 ふとゴブリンの方を見ると、未だ疲弊しているようだった。


「その腕輪よ。アンタの」


「よっ、久々だなご主人。アレから調子はどうだ?」


 真ん中のダイヤが光を放ちながら話しかけてくる。


 え、ナニコレ。


「この様子じゃまだダメっぽいなぁ」


「ドラ、それは後にして。それより八尋に戦闘の仕方を教えてあげて」


「しゃーねーな、お利口にしてないとまた怒られちゃうしな~」


 ドラウニルと呼ばれた腕輪から発せられる声やセリフからどうやら幼めの雰囲気が感じ取れる。しかし、歴戦を戦い抜いた厳かな面もなぜか感じる。


「ご主人、とりあえずあのゴブリンを倒すことだけを意識しな。その意識が深ければ深いほど威力も増す」


「ちょっと、まだ全然理解できないんだけど」


「わかったよ、今回は少しだけドラも手伝ってやるよ」


「茶番は終わったか雑魚ども」


 体力を回復したゴブリンがドスッ、ドスッと地面を踏み抜き近づいてくる。


「八尋、大丈夫よ。自分とドラを信じなさい」


 由佳莉はそう言い残し、八尋の腕にドラウニルを装着する。


 そのまま由佳莉は道路の脇に行き、八尋とゴブリンが正面に対峙する。


「雑魚はどっちだ、でくの坊」


「ほう、随分と威勢がよくなったなガキ」


 ドラウニルを装着し、魔力の質が急上昇する。


「これは力を得てただ単に威勢がよくなっただけではないわ。魔力を高めることで本来の八尋になったのよ」


 腕を組みながら、由佳莉は述べる。まるで勝ちを確信したかのように。


「そんなこと知ったところでどうもならんわ!! 死ね!!」


 棍棒を振り回し、八尋に迫ってくるゴブリンだが、その棍棒は左手からでるバリアによってあっけなく受け止められてしまう。


 なんとか棍棒でもう一度攻撃しようとしたところで、


「ご主人、今だ!」


「はぁっ!!」


 間合いを詰め、今度は右の拳に魔力を蓄積させ、ゴブリンの鳩尾を焦点に定める。


 すると、拳からその魔力がレーザー光線のように飛び出る。その光線はゴブリンの腹部を中心に貫き、その勢いのまま吹き飛ばす。


 ぅうう……、と悲鳴のような声を上げ苦しそうではあったが、一撃で仕留めるにはいかなかったようだ。


「テ、テメェ……、ただの“ヴォーノ”じゃ、ねえな……」


「さあな、俺はさっきその“ヴォーノ”になったばかりだからわからねえよ。早く、成仏しやがれっ!!」


 ダメ押しのもう一発を叩き込みレーザー光線とともにゴブリンは消えていく。


 すると意識が一瞬なくなり、世界はだんだんと色鮮やかな景色になる。


 なぜか、さきほどまで寺田ベーカリーの外の道路で戦っていたはずだが、一瞬の間に店内の詠唱ルーンする前に戻っていた。


「何か言った、八尋?」


 振り返りながら答える香菜はさきほどとは違い、屈託のない笑顔でそう答えたのであった。


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