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魔導士たちの夢跡  作者: 超常毎日
プロローグ
2/6

運命の出会い

電車から流れる景色をボーっと見つめていると、世界は平和だと改めて実感する。


小学生が仲良く集団登校していたり、忙しなく走っている社会人。


世の中にはたくさんの人間がいる。見た目が冴えないこの少年、向井八尋もそのうちの一人である。


八尋は親の転勤により高校2年生の途中から新しい場所で過ごすこととなり、多少の不安を持っているようだった。


無理もない。人間は環境に適応する生き物であるが故に、全く知らない所に放り投げられたら恐怖してしまうものだ。


学生というものは残酷である。授業がイヤでも卒業するには毎日単位を取るために将来使うかも分からない勉強をしなければならないのだから。


死んだ目で遠くを見つめ、吊り革に僅かな力を入れるだけの八尋は、それでも状況を覆すべく最初の自己紹介で失敗しないために萎縮した精神を奮い立ててネタを考えるのであった。




八尋が今日から通う高校は、自由がテーマであった。部活はかなりの種類があり、同好会も少なくない。校内にコンビニがあり、さらに学食はレストランのようだった。


入学の際に見せられたパンフレットには修学旅行は生徒達で自由に選んで良いらしく、国内の年もあれば海外に行く時もあったそうだ。


もちろん自由とはいえ、染髪やピアスなど不良チックなことをした生徒は厳重に注意されるらしく、それが逆に生徒達を適切な範囲内で自由にしている。




「お、君が転入生の向井君か!」


自らを八尋の担任と名乗ったこの男はなかなか良い体格の持ち主であった。


腕は丸太のようで、スーツも胸筋のせいで今にもはち切れそうだった。


「今日からお世話になります」


控えめな挨拶とともに軽めに頭を下げる。


「俺は、近藤だ。こちらこそよろしくお願いするよ。メインは体育を教えているが、困ったことがあれば授業のことでも何でも言ってくれよ」


「はい、頼りにします」


新しいクラスに向かいながら頼もしい教師で心底良かったと思った。




「さあ、ここ2-1が今日から君のクラスだ。みんないい生徒ばかりだからすぐに友達作れると思うぞ!」


知らねえよそんなこと、と脳内で思いつつも近藤の後について教室の中に入る。


まずぱっと見て生徒の人数が3〜40人程度いることが分かった。


名前も知らない同級生達は転入生がどんな奴なのかが気になって仕方がない様子であった。


そして、ふと一人だけ他の生徒とは明らかに違うオーラを出している人間がいた。


「はい、向井君。自己紹介して」


「今日から通うことになりました、向井八尋です。みなさんよろしくお願いします」


近藤に催促され、無難にやり過ごす。しかし、八尋の意識は遥か遠くにあるようだった。


長い黒髪に凛々しい顔立ちに、近藤とは違う意味で制服の胸のあたりが今にもはち切れそうな彼女は、八尋の自己紹介など聞き流している様子で物憂げな雰囲気であった。


「んー、向井君の席はあそこでいいか」


担任が指差す方角には彼女と少し離れているが、特等席の窓際一番後ろであった。


教卓からそこに向かう途中で色んな生徒に挨拶される。どうやら近藤の言う通り、本当にいい生徒達が揃っているようだった。


しかし、席に着いた八尋の目線は相変わらず変わらない。


「どうした、神田に一目惚れしたのか? まあ、アイツ顔だけみりゃ普通に可愛いけどな」


隣の男子が話しかけてきた。坊主に日焼けが目立つ彼は、いかにもスポーツマンという感じであった。


「え、いいい、いやいやそういうのじゃないって‼︎あそこらへんに虫が飛んでて……」


苦しい言い訳である。神田と呼ばれた彼女は確かにこのクラスの中でもとびきりに美人であった。


「ははは‼︎ ならそういうことにしとくか! 俺は山谷裕也。ユウヤって呼んでくれ」


「よろしく、ユウヤ。僕は……」


「八尋だろ? さっき自分で言ってたじゃん」


「そうだったね」


早速友達が出来そうで好調なスタートを切れたようだった。




八尋が転校してきてからはや二ヶ月がたち、季節は蒸し暑い夏に移り変わった。


夏服になり、冬の時よりもみんな地肌を大きく晒している。


そんな景色も良いと思いつつ、八尋はこの後の仕事に気を向けていた。


「じゃあ、今日はこれでHRを終わる。気をつけて帰るように。あと日直は掃除の後で提出物を職員室まで持ってきてくれ」


今日は八尋が日直であった、神田と呼ばれた彼女とともに。


あれから一度も話していないヘタレな八尋であったが、幾分いつも不機嫌そうな彼女であったので会話するのが躊躇われたのであったのだ。


しかし、今日は日直で一緒のためイヤでも話すタイミングはあった。


だが、二限目の移動教室の鍵閉めでは、


「僕がやっとくよ」


「あそ」

挙句には、授業終わりの黒板消しと時には、


「神田さん、手伝ってくれない?」


「次の時間は私が全部やるからやっといて」


といい、もちろん次の時間にも同じことを言うのであった。


ユウヤによると、彼女は自分のことをお姫様と勘違いしているのではとのことだった。


確かに、行動そのものは家来に仕事をやらせているかのようだ。


だから、掃除の時にも八尋に全てを投げて一人先に帰るのかと思いきや。


「さっさと終わらせるわよ」


といい、手伝ってくれるのであった。


なんだ、このギャップ。気を確かに持たないと。


「あの、神田さん。少し話があるんだけどいいかな?」


「私も少しあなたに話したいことがあるの」


え⁉︎ なにこのシチュエーション。二人きりで放課後の教室。これってもしかして……。


「まって、それって心の準備がいる感じ?」


彼女は八尋の瞳を真っ直ぐ見つめ、首を縦に振った。


「とりあえず、掃除終わらしましょ」


「う、うん」


いや、掃除どころじゃないよねどう考えても⁉ なんなら僕のこの邪心を掃除してほしいくらいだよ‼


動揺する八尋を横目に、箒を持ち直し床を掃除する。




「それで、話って……?」


 掃除を終えた八尋は、心臓が飛び出そうになりながらも、何とか言葉を発した。


「あの、私ずっとキミに聞きたかったことがあるの」


「あ、そうなんだ、へぇー」


 どうでもよさそうにしながらも内心で震えが止まらない。


「そういや、そっちの要件ってなんだったの?」


「え、僕? いや、神田さんはなにか毎日つまらないみたいな雰囲気を出してたからどうしてだろうって思ってたくらいなんだけど」


「そうね、私がつまらなく感じていたのはあなたが来るまでだったわ」


 なんじゃそりゃ、まるで僕に……。


「私、あなたにずっと言いたかったことがあるの」


 ああ、神様。これが青春ってやつか。


「協力してくれない、私に。あなたの力で」


「こちらこそよろしくお願いします!! ――はい?」


 夕暮れ時の教室でこれ以上ないシチュエーションだったが、この彼女の一言により八尋の未来が大きく左右されることになる。


「よかった! じゃあ、早速行きましょうか」


「え、え、ちょっと待ってどこに行くの⁉」


 もちろん今の八尋にその事実は知らない。


 ただ、笑いながら教室を出る由佳莉を見ているとどこにでも連れて行ってもらえるような気が少しだけした。


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