夢の中の現実
ある日の夜、夢をみた。
とてもとても、長い夢だった気がする。
「起きて、新田。ねぇ…」
力の弱い女の子の声がする。そんな名前だったか?よく覚えていない。今は、こちらの方が大切である。とりあえず、無視しておこう。それで、いいだろう。また夢をみられる。夢の中は、とても自由だ。好きな夢のときはそのままずっと寝ていれば見続けられるし、嫌いなときは無理やり起きればいい。
しかし、いつまでも見ていたい夢のときはたいてい外部から邪魔が入るのであった。例えば、こんな風に…
「そんな優しい起こし方で新田が起きるわけないでしょう。こうやって、起こすのよ!!」
その女の人は、数歩下がってから助走をつけて肘を突き出しながらジャンプした。そして僕のお腹の辺りに肘が到着するまでものの数秒もかからないところまで迫っていた。
「いやぁ、今日もいい天気だねぇ。そう思わないか少年」
「大丈夫?お腹痛くない?」
「大丈夫よ理沙。そいつの急所は外しといたから。」
こいつのせいで俺は、毎回苦労することになっている。主にお腹の辺りが…。
「美佐…いつもいつもこんな起こし方やめてくれ」
「新田が起きないのが悪いんだ。嫌だったら理沙が起こしているときにがんばって起きろ。っていうか、一人で起きろバカ弟が!!」
「なんだと!!」
「やめて!二人とも…ごめんね新田。わたしがちゃんと起こしてあげれればよかったんだけど…」
「いや、それは…ごめんなさい俺が悪かったです」
「最初からそうやって素直に言えばいいのよ」
「…美佐。お前には謝っていない。この暴力女!!」
「なんだと!!」
「もう、二人とも!!早く準備しないと学校送れちゃうよ!ケンカばかりしてないで早く準備なさい」
母さんの空手チョップをくらい二人は行動不能となった。
「(全く、今日も朝からひどい目にあった。どうして美佐はああいう起こし方しかできないんだ)」
朝の一見からいつものように二人は遅刻ギリギリで教室に到着し、今はもう授業がすべて終わって放課後である。
「新田!今日放課後暇か?」
順平が声をかけてきた。
「暇だけど…」
「じゃあさ、4時半に駅前の交差点で待ち合わせな」
「…わかった」
「あ、順平君これ次一緒に歌おうよぉ~」
「オッケイ。一緒に歌おう」
「(ため息しかでない。またこれか。つまらないな。俺は別にカラオケにきても歌わないから全然面白くないんだよな…)」
「ちょっと、俺トイレいってくるわ」
そして、外で座ってアイスを食べて時間すぎるのを待つ。いつもこんな感じで退屈だ。やはり、現実はつまらない。楽しくない。寝ている時が一番楽しい。
「お隣いいですか?」
「…ああ、別にいいけど…」
「(この子もあまりこういうのあまり乗り気じゃないのかな?)」
自分も別に楽しそうだからここにいるわけじゃない。ただ、なんとなくここにいるだけだ。とりあえず、自分の居場所っぽいところはここにあるのだと思い込むために。
「新田君…でしたよね」
「うん…そうだけど」
「(髪の毛黒のロングヘアのストレートって結構古いな)」
「わたし、こういうのって初めてなんだけど…新田君もそうなの?」
「いや、初めてじゃないよ」
「そう…なんだ」
「「…」」
(気まずいな。)
「おい、新田ぁ~」
順平がカラオケルームから出てきた。
「全く、何で携帯テーブルの上に置いたまま外出るかな…。連絡できないだろ。次の予定決まったんだけ…」
「肝試しだろ…」
「まぁ、そうなんだけどよ…」
いつもこの流れなんだから別に連絡をもらう必要もない。ただ、この日だけは唯一違うパーツがあった。
「新田君、一緒に回らない?肝試し…」
いつもは肝試しをやる前に帰っている。だって、どうせ一人最後余るから。いや、順平が一人にならないようにペアを作ってくれるのだから一人で回るわけではないが、これでは一人の方が気楽だ。だから、いつもはここで帰るのだが…。
「ほぉ~…新田もやるようになったな」
「いや、別に俺は何も…」
「今日はやっていくよな。肝試し」
「……」
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「そうだね。この子なら上手くいきそうだね。」
「これまた面白い能力だね。でも、大丈夫?気づかれたら立場逆転しちゃうかもだよ…」
「大丈夫よ。上手くやるわ。…そう信じてる」
ある少女は一人で頭の中である者と会話していた。
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「それにしたっていつ来ても微妙なとこだなここは…」
肝試しに選んだとこは数年前、ある研究の最中に事故が起きそのまま放置され立ち入り禁止区域となっているところだ。それにしても、いつ来ても何とも言えない場所だ。
「ここってどうして立ち入り禁止区域って呼ばれてるの?」
ちなみに、今ここには3人しかいない。順平と新田、そして…
「そういえば、君名前は?」
順平が質問した。
「深海霊歌です。」
そう、この子しかいない。他の子はこの場所でやりたいといったこの子以外帰ってしまった。他の場所でやろうと一度は提案したのだが、霊歌はそれを拒否して…
「なら、新田君と二人だけで行きます。」
彼女のその発言にみんな目を見開いていた。順平だけは、にやにやしていたが…。
では、なぜこの場に順平がいるのかといえば、俺が引き留めたからだ。だって、明らかにおかしいし、怪しいからだ。順平は
「お前…少しは成長したかと思ったら…」
「いやいやいやいや、俺は何もしていないぞ。そもそも、お前は俺のお父さんか!」
「はぁ~…わかった。付いてってやるよ。確かに二人だけにして間違いが起きたら…それはそれで面白そうだな…」
「(こんなやつだが、いないよりずっといいな。なんせ、本当に今日初めて会った人と二人で肝試ししたいなんていきなり言い出すやつなんかと二人で本当にいけるか)」
「お前…そんなに疑ってばかりだと彼女なんてできないぞ…」
声が出ていた。彼女はそこにはいなかったのでよかった。
そんなわけで今に至るわけである。
「そういえばそうだな…新田は?」
「俺は、みんなここは立ち入り禁止区域だっていっているけど、本当は立ち入り禁止にはなっていないということくらいしか知らないなぁ…」
そう、ここはただみんなが立ち入り禁止だと思っているだけでそんな決まりは法律にも条例にも特にない。ただ、あれだけのことが起こったんだ。そうなるのも無理はないのかもしれない。
「俺もそのくらいかなぁ…」
みんな詳しいことは知らないのである。細かな理論や研究などはそれを行っている本人達しか知らないのだ。ただ、そこで研究していた者たちは突如消えその後戻っては来ていないそうだ。
「まぁ…いざとなったらこの携帯があれば大丈夫だろ。だいたいのことはやってくれるし」
昔は、どこでも通話できるようにと開発されたその携帯も今ではそれだけではなくさまざまな機能をもっておりその一つに防御機能がある。これにより人々は原子爆弾を直でくらっても耐えられるという。本当かどうかは試したことはないので知らないが…。
「とりあえず、いってみましょう」
霊歌はどんどん先へと進む。
「霊歌ちゃんはすごいなぁ。こんななんともいえない微妙で不気味なところ…。少なくともあんなスイスイ先頭歩いていく自信は俺にはないよ。」
確かに彼女はまるでここに一度来たことがあるのではないのかと思われるぐらい早い。普通は、もうちょっと周りの様子を見ながら進むものである。
「遅いよ二人とも!早く早く!」
3人は研究所の奥へと進んでいくのであった。
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「今日の授業はここまでとする。みんな、詠唱練習はよく復習しておくように」
突然のこの展開はいつものパターンである。おそらくまた夢の中だろうか?そうに違いない。こんな突然詠唱練習とか、しかも学校の先生が言うセリフではないだろう。
「(そうか、今回はここから始まるのか。どんな世界なんだろう?ちょっと楽しみかも)」
夢の中の彼はとてもとても楽しそうなのであった。
「レイト!今日の放課後仕事しにいかないか?」
今回、自分はレイトという名前らしい。
「あぁ。いいよ。今日はどんな依頼受ける?」
状況はよくわかっていないはずなのに勝手に口が動く。これもいつも通りだ。夢の中ではよくわからないが自動で受け答えが行われる。自分の意志とは関係なく。どうしてそうなのかはよくわからないが気にしたら負けだと思っている。
「そうだなぁ…」
「(どうせここから始まるなら今回は依頼内容を聞いたらそこで目が覚める感じで終わっちゃうんだろうなぁ。あぁ、魔法撃ってみたかったなぁ)」
なら、勝手に撃てばよいではないかという話かもしれないがそういうわけにもいかない。なぜなら、撃ち方がわからないからだ。授業が終わった直後から始まったせいでやり方がわからないので仕方なかった。
「やっぱりつまらないないや。起きよう…」
そうして起きた先がまた、とんでもないところだったりしたりしなかったり…。
「(このパターンか、起きた先がまた、夢の中か。ってか、こんなに早く夢の中だといきなり判断できたのは初めてかもしれない)」
いつもは、もう少し周りの状況をみてから判断するところ今回はというと…。
「バカな!!召喚カードなしの召喚だと!」
目の前の男が起きた先でいきなりこんなことを言っているのだから周りを見るまでもなかった。
「…どうにか間に合ったみたいね」
後ろを振り返ると黒い髪のロングヘアーの女の子がいた。どこかで見たことがあるような感じがするが夢の中ではよくあることなのでここも気にしない。その隣には、ショートヘアの女の子が泣きそうな顔でこちらを見ている。そして、もう一度目の前の男を見るとかなり動揺している様子である。
「そんなサーヴァント見たことも聞いたこともねぇ。どういうことだ…。まさか!!」
男はさらに動揺している。主に俺ではなく、後ろの黒髪ロングの彼女を見ながら。
「(夢の中だということは直ぐにわかったけど、状況がよくわからないなぁ。もう少し様子をみよう)」
しかし、次の彼女の言葉でそういうわけにもいかなくなる。
「…お願いあの人を倒して」
「バカな。サーヴァントは普通戦闘用のやつはいないはずだ。そんなやついるわけがない」
どうやら、俺がサーヴァントで、黒髪の彼女が俺を召喚したという設定らしい。
「(よくわからないが、まあいつも通り適当にやってくれるでしょ)」
しかし、なにも起こらない。いつもなら自分の意志とは関係なく体が勝手に動いている状況なのに何もしていない。
「(あれ?おかしくない?)」
いつもと違うその状況に戸惑う。一体どうしたというのだろうか?やり方がわからない時は何もしなくても自動でやってくれるはずの夢の中で今回はなにも起きない。
「…もしかして…失敗….」
女の子二人の血の気が一気に引いた。
「ははは。まぁ、そうだとは思ったよ。しかし、驚いた。まさか失敗とはいえ召喚カードなしで召喚するとはね…」
そして、最後に男の目の色が変わり真面目な顔となり。
「…確かにこいつらは危険だ。ここで排除しておかなくちゃな」
そして男は魔法詠唱らしきものを呟いたあと
「…あばよ」
すさまじい勢いで炎が彼らを襲った。
「(何とも味気ない夢だな。やられること前提とは運がないな今日の夢は)」
しかし、おかしな夢の続きはまだ続いていた。なんとまだ後ろの二人を含めて生きていたのだ。その場にいた全員が驚いていた。あの業火の中全員が全くやけどもせずに無傷だったのだ。そして右のポケットをみるとその中にはいつも普段持ち歩いている彼の携帯が入っていた。
「どうしてこんなところに僕の携帯が入っているの?」
「「「!!!!」」」
3人はとても驚いていた。確かにさっきの攻撃を防いだことにも驚いたがそれ以上にサーヴァントがしゃべった言語が理解できたことに驚いていた。
「(おかしいなぁ。変だなこの夢。いつもと違うような気がする)」
そして、彼が感じた違和感は確かに正しいことであったということは間もなくわかることであった。