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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第三話 独裁者さん、お断り
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第88回 仮想捜査ノート:双頭の龍

「よお」


 男の声。「生きているか」


「幸いね」


「いいことだ」


「いつまでここに閉じ込めておくつもり?」


「さあな。落ち着くまでだ。当分かかるだろう」


「あたしなんか閉じ込めても何の意味もないわ」


「意味はあるさ。俺たちはお前の命を救ってやっているんだ」


 命を救う?


 なんのことだ。


「なに、外では復活した魔王が魔物を引き連れて大暴れとか? か弱いお姫様を高い塔の上に閉じ込めて守っているって?」


「実はそうかもな。今頃下界はディストピアだ」


「あたしたちふたりだけで生き残ろうっていうの?」


「さあな」


 また、がさっと物が落ちる音。定期的な食事の提供。少なくとも、死なれてはこまると思っているようだ。


「ねえ」


「ああん?」


「佐倉ユウタに手紙を送ったでしょう? 中国語で」


 鼻で笑う声。


「でも、それは彼宛じゃなかった……あたしに宛てたものだったんでしょう?」


 へえ、と彼は答えた。「ようやくわかったか」


「いったいどういうつもり?」


「答える必要はないな」


 がちゃん。そう音がなると、男が離れていく足音がする。


 ユウタくんが持って来たいくつもの手紙。


 そのなかに奇妙な手紙があった。勧誘でもない、場所していでもない、脅しでもない。多くは日本語や英語で書かれているものばかりだった。


 そのなかで自国の言語で手紙を書いているのは少なかった。


 それは日本語も英語もできないから、というのがいちばんシンプルな推察だ。


 でももうひとつあるとすると、それはユウタくんが読めない、という点にある。


 彼は日本の保護下にある。


 保護下、というと語弊がある。ほんとうは逆だ。日本が彼の保護下にあるのだから。彼がいるからこそ、ほかの国は日本に手出しできない。もし彼が日本にいなければ、魔王最初の拠点が置かれ、崩壊寸前まで行った日本は、立ち直る前に他国からいいようにされていただろう。


 だから、かれは日本に残った。


 そのかわり、かえでちゃんは世界を飛び回る。もうひとりの世界最強が日本に縛られないからこそ、佐倉ユウタくんをめぐる世界中の攻防は激しさをまさないのだろう。佐倉ユウタを超える最強の女の子。彼女なら、自国に引きつけられるかもしれない。


 いま、日本のメディアは、放浪する世界英雄の動向をつぶさに見つめている。その論調はかなりシビアだ。


 つまり、国家の裏切り者。


 だけど、冷静に文脈を読めばわかる。日本のマスコミは読解力がないだけ。世界的な英雄はふたりでいまも世界の均衡を整えているのだ。


 それでも彼に手紙が届くのは当然の戦略だろう。居場所も特定できているのだから接触もしやすい。でも、本質は秘密裏に接触をして交渉をしたいはずだ。それなのに、なんで読めない言語で手紙を書く必要がある?


 そして……問題はその内容だ。


「双頭の龍を中国に近づけるな」


 文法の間違いかと思った。本当に書きたかったのは「中国に近づいてはいけない」なのではないか。


 だが、全体の文法に間違いはない。だとするとこれは正確なのだ……そして、双頭の龍。これは中国圏の政府、工作員が佐倉ユウタ、かえでのふたりを呼ぶときのコードネームだ。


 わざわざ佐倉ユウタに当てた手紙のなかで、彼らにも知られていないコードネームで呼称する意図はいったい何か……おそらく、彼らはこの手紙が佐倉ユウタの手から人手に渡ることを想定している。そして、佐倉ユウタから渡された相手が、本当の宛先……つまり、わたしだ。


 わたしの頭のなかでピースがいくつか繋がり出す。


 監禁者が手紙の差出人であることは、早い段階から想定できていた。しかしその理由がわからなかった。しかし、今の言葉で事実がわかった。


 対策本部を中心にして、何かが……それも、最悪の事態が起きている。

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