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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第三話 独裁者さん、お断り
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第84回 世界平和と子供の最悪ないたずら

「なんでスイカがないの?」


「なんであると思った? ずーっと一緒にいただろう? この荷物のどこにスイカが入るっていうんだよ?」


「ユウタだもん、超パワーで持ってきてくれると思ってた!」


「勘弁してくれよ……」


「いーやーだー! スイカ割りやるんだ!」


 じたばた、じたばた。


 海イベントですよ。水着イベントですよ。語りたいことたくさんなはずなのに、エリカの水着姿なんて超弩級なのに、それを相殺する駄々っ子ぶりにぼくはへきえきしています。


 海に着くまではテンションマックスだった。いや、海を見てウヒョー! と騒いでいる時ぐらいかな。そのあとすぐにエリカが騒ぎだした。


 曰く、


「海の家は?」


「ビーチバレーやっているひとは?」


「ラジカセ騒音パリピは?」


 ラジカセって。


 世界崩壊前だって希少種なアイテムだぞ。

 どうやら海水浴というイベントについて、事前に余計な情報をせっせと集めていたらしい。いちぶ昭和のイメージも含まれているようだ。まあ、ビーチバレーやラジカセはいい。エリカにとって大問題は、海の家のおいしくない料理と、スイカ割りができないという点が許容範囲を大きく逸れるものだったらしい。


 映画館といえばポップコーン。


 年末といえばコミケ。


 海水浴といえばスイカ割り。


 どれもツッコミ甲斐しかない。


 ほのかが持ってきたスイカ型のビーチボールを見て、余計な期待を持たせたこともあったのだろう。キッラキラと目を輝かせて、「棒は? ねえ、あれをクラッシュさせる棒は?」


 魔王様だと知っているぼくから言わせれば、彼女の口からクラッシュという言葉を聞くとぞわぞわする。


「エリカちゃん、スイカはどこにも売ってなかったんだよ」


 見兼ねたほのかがフォローする。


「ユウタは迂闊もんだけど、売ってないものは買えないからね。みんな戦争が悪いんだ、戦争が」


「そっか……売ってないんだ……」


 ほのかの言葉を素直に受け止めたエリカは、可愛そうなくらいしょぼんとした面持ちで、スイカ型ビーチボールに目線を投げていた。


「スイカ……割りたかったな」


「ほら、ほらほら! せっかく海に来たんだから、泳がないと! 海の楽しみはスイカ割りだけじゃないよ! あたしが海の正しい楽しみ方を教えてあげるから!」


 ほのかがエリカの手を取り、ぐいぐいと海へと向かっていく。


 真夏の太陽。光を受けて反射する水面。心地よい波の音に、わーきゃー響く声。揺れるエリカに揺れないほのか……さっぱり。生暖かい目でそれを見つめる目、目、目(ぼく含めて男子全員)。


「……いいな……」


「……ああ……いいぞ……」


 紳士なぼくらは静かに動かず(むしろとある事情で動けない)、しかし心中はスタンディングオベーション、拍手喝采、大地讃頌鳴り響いている。


 いいか、エリカ。


 海水浴イベントはかくあるべし。


 スイカ割りじゃないんだ。


 スイカを楽しむんだ。


 ただし、男の子限定だ、残念だったな、エリカ。次転生するときは男の子になるといい。


 そんな劣情まみれの至福の時をしばらく過ごしていたとき、後ろの方から「おおーい、君たち」という声が聞こえてきた。


 振り返ると、夏の昼日中、しっかりと制服を着たおまわりさんが浜辺へと向かってくる。ただ、顔は少ししかつめ顔だ。


「海水浴かい? 大学生?」


「いえ、ぼくらは高校です」


「どこの?」


「関南市の、関南高校です」


「君らだけ? 大人は?」


「ぼくらだけです」


「なにか名前とかを確認できるものがあったりする?」


「名前ですか?」


 おまわりさんとのやりとりに気づいたのか、ほのかたちも海から上がる。名前を聞かれていると分かるとびっくりした様子でお互いに目配せをする。どうやらそれが一層おまわりさんの心象をネガティヴにしたようだ。さあ、早く! と詰問のように急かされた。


 ぼくが前に出る。


「何かあったんですか?」


「何だ、君は……」


 ふいに主導権を握ろうとする高校生が出てきておまわりさんも身構えたようだけれど、まじまじとぼくの顔を見て、あっ、と声を上げた。「さ、佐倉ユウタくんじゃないか! こいつはどうも……知らずで……」


「いえ、それは仕事ですからいいのですが。あんまり突然でびっくりしまして、何かあったのかと」


「いや、実は最近このあたりで子供たちが集まって、時折奇声を上げているという通報があってね。それが立て続いているから、住民が不安がっているのだよ」


「あたしたちがここに来たのは今日が初めてです」


 ほのかがぼくの脇からぐいっと出てきて、おまわりさんに訴える。おまわりさんはふむふむとメモを取るような仕草を見せるけれど、たぶん、もうぼくらに対する疑義はある程度払拭されている印象だった。こういうときに英雄の称号は便利でもあるなあ。


「でも、そんなのよくある話の印象ですけれど」


「んー、まあ、そうなんだが……」


 おまわりさんはムムム、と小さく唸り、どこまで話したものかと考えあぐねているようだった。


「実は火事も多発していてね。その子供たちが関わっているんじゃないかって通報もあったんだ。騒ぐだけならまだしも、火事騒ぎは放っておけない」


 火事は、街なかでも聞く話だ。


 復興は進行しつつあるけれど、耐火性のある建物ばかりじゃない。破損して、それでも使える建物を使ったり、簡易につくられたものもある。そんな状況で、どこまでも被害が広がる火災は避けなきゃならない災害だ。


 特に、街は人が集中しているところから修繕補修が行われる。ライフラインが整った街には人がまた集まる。いまは狭い範囲に人が密集している状況なんだ。


 むかし、江戸時代は火事との戦いでもあった。


 延焼、類焼……火事は舐めるように街を縦横無尽に風に煽られ広がる。あっという間に全てを灰塵に化けさせる。それでも火事とともに歴史を作ってきた江戸時代とは今は違う。未曾有の厄災からの復興が最優先の最中、それをゼロにするような火事はもっとも忌避すべき事象だった。


「しかい、関南高校か……」


 おまわりさんが眉をひそめる。手帳のページをぺらっとめくる。


「うちの高校が、なにか?」


「……いや、協力ありがとう。今回の件とは違うようだ。ただ、高校生だけでの海水浴は感心しない。大人と一緒に来ること。いくら佐倉くんが世界的英雄とは言ってもね」


「はい、わかりました」


 おまわりさんはきゅっきゅと砂を踏みしめて、また道路へと戻って行く。


 火事。


 なんかがひっかかった。

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