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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第三話 独裁者さん、お断り
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第83回 世界平和と約束の地

 ……コンビニの店員さんと掴みあって。


 そんな状態でよくもまあ、そんな笑顔を浮かべられるものだ。


 正直、気づかなかったら、スルーしたかった。


 気づかれなかったら、スルーしてた。


 でもダメだ。コンビニの店員さんもぼくを見て、なんだこいつは、この女の仲間か? とぎらぎらと目を向けてくる。素知らぬふりしてコンビニで麦茶を買うことなんて出来ない。


 こう着状態だった掴み合いに、ぼくというノイズが入って隙が生まれたのか、大志摩さんはくるりと体を返して掴み合いから逃れ、身ごなし軽やかに2間半ほど距離を取ると、ファイティングポーズのまま、


「お久しぶりですね、佐倉ユウタさん!」


 どうしよう。


 全力で絡みたくない。


 このまま麦茶だけ買って帰れないかな。時間も限られているんだし。


 コンビニの店員さんは新たに現れたぼくを敵か味方か、海のものか山のものか探りあぐねているようだった。ぼくは両手を上げて無抵抗を標榜する。


 つーか、いったいどんな状況なんだ、これ。


 改めてあたりを見ると、一面に大志摩さんの手作りビラがばら撒かれている。ぼくの目に最初に飛び込んで来た赤い魔法陣が施されたビラだ。雑然としているけれど、アスファルトの上に散りばめられたそれは、完ぺきに怪しい儀式の最中でしかない。


「あんた、こいつの知り合いか?」


「いいえ!」


 猛烈にかぶりを振る。知り合いの定義はわかんないけれど、ぼくのなかでは知り合いのカテゴリじゃない。


「でも、あんたを知っているようだが……」


「それは当然ですよ、コンビニの店員さん! この人は何を隠そう、あの英雄佐倉ユウタさんなんですから!」


 英雄ぅ? と疑わしげに投げられた視線の先のぼくの顔と、彼の記憶がぴたりと合うのにややあって、


「おい、マジもんのヒーローじゃねえか!」


「そうですよ! 気づかなかったんですか、あなたは!」


 何故か煽るな、大志摩さん……!


「彼は私の活動を応援してくれているのです! ほうら、だから怪しげなんてことはひとつもないのです、これは救いなのですから!」


 そう言うと、恍惚とした表情で合掌して、天を仰ぐ。


「真の勇者様は、間もなく、間もなく降臨するのです。ああ、勇者様、魔王の再臨も近いのです。それまで、どうかわたしたちを約束された地でお匿いください……!」


 彼女の視線は巨大な魔法陣に向けられた。


 そしてすがりつくように右手を悪魔の口に差し伸べる。何度もなんども口のふちを撫でるように手を滑らせる。


 店員さんが不安そうに視線をぼくに向ける。


 いや、ぼくもどうしていいかわからないよ。


「救済はもう行われているんです。救済はすでに身近に! ああ、でもわたしは罪深く、まだ約束の地へお導きいただけていない! 佐倉ユウタさん、あなたは真の勇者様につながる方。ぜひ私も約束の地へ導かれるよう、お伝えいただけませんか?」


 真の勇者様……救済……約束の地。


「大志摩さん、ぼくには何のことだかさっぱりわからないんだ」


「そんな!」


 大志摩さんは目をくるりと回すと、再び艶然とした笑顔でこう言った。


「だってあなたの周りの人たちのなかにも、約束の地へ導かれた方がいるじゃないですか!」


 ……え?


「みなさん、約束の地に導かれたんですよ、佐倉ユウタさん。みなさんは!」


 藤村、ナナミさん……もしかして、まゆちゃん先生も?


「あなたは、いったい、何を?」


「け、警察呼びましたからね!」


「ユウタ、遅い!」


 店の中から別の店員さんが飛び出してくる。


 ぼくの後ろからはエリカが。


 ぼくらの視線が一瞬介入者ふたりに向けられた隙に、大志摩さんは手持ちの荷物を手早くまとめ、逃げ出して行った。


 逃げるのに、まるで慣れているようだ。


「ユウタ、今のって……」


 逃げ出した不可解な少女と、たぶん呆然としていたのだろう、ぼくの顔を見て、エリカはさっと右手を突き出した。


 シュルルルル、と何かが渦巻く音がする。ぼくは慌ててそれを止めた。


「いいんだ、エリカ。ストップ」


「でも」


「いいんだ」


 魔法を使わせるわけにも、魔法を他人に見られることもだめだ。


 でも、大志摩タエさんはいったい何の話をしていたんだ。


 約束の地。


 消えた3人。


 まさかそんな安易につながるわけない。


 まさか、ね。


 まゆちゃんのメッセージは……未読のまま。

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