第82回 世界平和と読まれないメッセージ
>Mayumi Wakamatsu
佐倉くん
20:43
はい
20:44 既読
先生?
23:38 未読
>ほのか(怖い)
まゆちゃんから連絡あった?
0:03 既読
ない
どうしたの?
0:03
メッセージが来てたんだけど、それっきり返信なし
0:03 既読
いつ?
0:03
20時40分過ぎ
0:04 既読
へんなの。
0:07
なんだろーな
0:08 既読
>ほのか(怖い)から着信
「もしもし」
「うん」
「あたしもまゆちゃんにメッセージ送ったけど、既読になんないね」
「酔ってるとか」ヴー
「まさか」ヴー
「寝ている……ないな、ソッコーで返したしな」
「なんかさ」
「うん」ヴ、ヴ、ヴー
「やだよね、なんか」ヴー、ヴー
「やだ?」
「藤村もそう。なんか突然いなくなる」
「よせよ」ヴー、ヴー
「ごめん。でもそう思ったでしょう? 不安だからあたしに連絡してきた。戦争前だったら、流れていく日常の一コマだ」ヴ、ヴ、ヴ、ヴ、ヴヴヴ
「あしたまで連絡を待とう」ヴー
「うん、あした……遅刻すんなよ」
「大丈夫。エリカがワクワク過ぎて朝から騒ぐから」
「子供じゃん」ヴー
「さっきまで騒いでいたしな」ヴー
「海、楽しみだよね」
「ああ」ヴー
「楽しもう」
「どうした」
「ううん……おやすみ」
「うん」
通話終了
>えりか魔王
どーしよう!
ねむれない!
ねえ!
これじゃ、あした、寝不足です!
ねえ!
ねってば!
無視すんなー!
寝ているの?
ねえ、ねーってば!
ユウタ
ゆーちゃん
ゆう的
勇者さまー?
ユウタ
ユウタ
ユウタ
ユウタ
ユウタ
ユ
ウ
タ
もういいもん!
(あかんべーのスタンプ)
>ほのか(怖い)
言い忘れたけどさ
あんたは、いなくなんないでよ。
1:34
……ほのか(怖い)がメッセージを取り消しました
なんだそりゃ
7:14 既読
※ ※ ※
「いなくならずに、佐倉ユウタ、参上」
「うざ」
ほのかのつま先がぼくの太ももをかすめる。地味に痛いやつだ。
ぴーかん照りとはこのことだ。
夏の低い位置で積み上がる雲の塔は遠く、抜き身のように鋭く照りつける太陽が、アスファルトの照り返しも含めて、体を焼き付ける。
海日和。
まさにね。
時計を見る。8時の集合にはほのかを始め、クラスの有志4人が集まっていた。
そこに、メイ。
不思議な組合せだけれど、コミュニケーションパラメータに数値振りまくりのメイは、ひと通り挨拶を済ませたようで、リアルメイドという生ける伝説的職業で話題の中心になっていた。さすが。
ぼくとエリカは遅刻だ。
朝6時からワーワー騒いでいた魔王様だけれど、出がけにグズグズしていて(女の子は色々あるの! らしい)、結局、それなりの距離を走ることになった。汗だくだく。とちゅう、朝はやくおきたからか、エリカはずーっと「ねむい、ねむい」としきりに目をこすりながら、ふらふらしていた。だいじょうぶかな。
と、突然、「わっ」と声を上げて体勢がかたむく。足元をみると、またネズミの死体が転がっていた。
「うげえ! 踏んじゃった!」
「だいじょうぶか?」
「サイアク。でも、うん、大丈夫……」
そういって突き出したピースマークの指先はくてんっと曲がっていた。電車のなかで寝ていてください。
「全員集合?」
「うん」
「電車は何時だっけ?」
「8時20分の急行」
後13分ある。
「ちょっと水買ってきていい?」
エリカはテンション高めだけれど、酷暑に猛ダッシュだ、水を飲まないとぶっ倒れる。
「あたしの水筒に麦茶入ってるよ」
「ぼくとエリカでがぶ飲みしちゃうこと請け合い」
「あんたじゃ、ヤだなあ」
「ひでえ」
「自販機ないけど、そこの先にコンビニあるよ」
クラスメイトが、駅右手の角を指した。
「エリカ、麦茶でいい?」
「あたしも行こうか」
「いいよ、日陰にいな」
「じゃあ、アイスコーヒー、とってもあまいやつをたのむよ。なんだかとってもねむい」
「はいよ」
エリカは、目をこすりながらも、夏の太陽に負けないぐらいにニカーっと笑った。
駅の周辺は、人出も増えていた。
普通の店も開いているけれど、荷台を担いだ行商のような店も多い。ビニールシートに商品を忙しそうに並べている。
角を曲がる。
コンビニの看板は、すぐそこだ。
でも、それと一緒に、
真っ赤な魔法陣の絵。
悪魔がぽっかり口を開けたような、絵。
「あら? あらあらあら? これはこれは! 佐倉ユウタさんではないですか!」
大志摩タエさんが艶然として笑顔を浮かべ、そこにいた。




