第79回 世界平和と夢、夢、夢
夢。
これは夢だ。あざやかな夢。だからほんとうじゃない。
目のまえのいくつもの死体。
これもすべて夢なんだ。
目のまえにすわりこみ、ぼんやりとこちらを見つめる少女のすがたもまた、夢だ。現実ではない。現実ではありえない。
惨劇の台湾のときにぼくはロシア戦線にいた。ロシア戦線もひどいものだった。だから台湾にいることはできなかった。
でもなんでここが台湾だとしっているんだろう?
この風景をしっているんだろうか?
なんで女の子はたすけてなんて懇願するんだ。
なにもしないよ。たおさなければならないのは魔王なんだから、なんできみたちを……きみたちを?
夢。
夢。
夢。
そうだ、夢だ。
右腕を振り上げている。
ほんのすこしの力でも少女を殺してしまうのだ。それでもこぶしを振り上げ、少女に向かって振り下ろそうとしている。ちいさな虫に向かって「うるさい」というような、そんな苛立ちのせいで。ふつうだ。至ってふつう。誰だっておぼえがある。
蚊を見つけたら、腕にとまっていなくても、ぶーんぶーんと耳元で飛ばれたらたたきつぶす。ばちん。そう、ばちんと。それと同じ。
目のまえにいるのはさっきまでうるさかった虫の大群。
いらいらしていたんだ。
だから、最後まできちんとつぶす。
そうしないとねむれないんだもの。
それはまずい。
あした、ロシアで魔王軍とたたかわなくちゃいけないんだ。
ああ、ああ、ひどくあつい。
だれかが町の中で焚き火をしていた。
あちらこちらで熱がこもっている。
あついのは好きじゃない。
うるさいのも好きじゃない。
ねえ。
ねえ?
しずかにしてくれないかな。
そんなとき、目のまえでひかりがはじけた。
この感覚をしっている。夢の終わり、朝日がのぼってまぶたをてらしている。そう、朝なんだ。夜はあけたんだ。起きなくちゃいけない。この悪夢からぼくは眼をさますんだ。
でも、もっと寝ていたい。つかれているんだ。
だから、
そのひかりの爆発に、
手をのばしたんだ。
世界は、まだ、夜でいい。
夜が、いい




