第8回 世界平和とそれを脅かした張本人の登場
魔王の転生。
これほど迷惑な転生もない。
この魔王は他の世界で勇者に討伐されたあと、地球に転生してきた。
科学力を持った現代でも、彼の強大な魔力の前には無力だった。笑っちゃうくらい無力だった。
おまけに転生特典で超パワーも手に入れてきたというから、ほんとうふざけている。
「わたしは魔王である」
真夏の炎天の下、白髪、長身の男は言った。
真っ白なシャツ、丈の合っていないジーンズを履いた優男はテレビカメラの前で穏やかに宣言した。
夏祭りを取材していたテレビ局のレポーターは生放送に割り込んできた男の言葉をまっとうには扱わなかった。当たり前だ。夏の太陽であたまがハッピーになっちゃったお兄さんにしか見えない。
でも、男がゆっくりと腕を上下させると、周りのひとが頭を抱え、嘔吐し始めた。もちろんテレビ局クルーもだ。カメラの映像は乱れ、かろうじて映った画角の端で、男は薄いアルミニウム程度に口元を歪めて笑った。
「とっても悪い、魔王様だぞ」
その時の犠牲者は死者20人。
それが最初の事件だった。
それからの話はとても長くなるし、他にたくさん本が出ているから割愛する。
でも端的にいうと、魔法という強大な力に対抗する術はなかった。まるっきり歯が立たなかった。刃物も、弾丸もミサイルも効かない。とある国が核兵器を使ったのだけれど、さっぱり意味がなかった。強大なバリアみたいなものがあったんだろう。もちろん、核兵器の着弾があった地域は死の原になって、ただただ地球側に大ダメージを残しただけだった。
そんな魔王は異世界からモンスターを召喚するという超強力なパワーを持っていた。
自分から言っていたから本当なんだろう。
魔王は最初にテレビを使って登場したことで、世界が驚嘆したことに狙いをつけた。
もともと頭のいいやつだったようで、テレビやマスコミを使った恐怖のプロパガンダを多用していた。
その一環のインタビューで魔王は答えた。
「この世界に転生する時だ、女神が現れたのさ。胸糞悪いことに、前の世界で祀られていた女神だが、そいつが言ったんだ。『あなたは長い時間をかけて再生するでしょう。そうすれば再び混沌に陥る。でも、もしあなたの魂ごとどこか別の世界に転生するのであれば、肉体の再生と新たな力を授けましょう』とな」
その能力が召喚の力だった。
「その転生先がこの世界だったのさ」
そこで魔王はインタビュアーににやりと笑って見せた。
「不運だったな」
女神さま、なんてことしてくれたんだ。
その女神がこの世界では「悪魔の聖母」として、忌み嫌われているのは当たり前の結果だろう。
魔法だけでもとんでもないのに、モンスターたちの暴れようはとかくひどかった。おまけに魔王が倒されても、世界にはたくさんのモンスターが巣食っている。いくつかの種族はうまく適合して繁殖もしているようで、かえではその後始末にいま世界中を飛び回っている最中だ。
さて、メッセージは届いているだろうけれど、こっちに帰ってくるのはいつになるのだろう。