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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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50/153

第50回 世界平和と巨象への一撃

 毎週金曜日に発売がされる週刊「現世界」というのがフリージャーナリストの記事が掲載される雑誌だった。


 もともと保守的な内容がメインで、そんな雑誌があったんだ、っていうのがちょっと前までの評価だった。無名だといって間違ってない。そちら系で有力な団体の機関紙といったほうが理解しやすいかも。


 でも、この雑誌は終末戦争を境にしておおいに発行部数を伸ばした。


 保守系といっても、内容はぜんぜん「保守」じゃない。むしろとんでも記事がほとんどを占めていた。

 そんな雑誌がたくさんのひとに注目を集めたきっかけは、日本に転生してきたAという異世界人の独占連載を持ったためだ。


 もちろん、最初は見向きもされなかった。当然だよね。ちょっと頭のおかしいひとの妄言を、編集部も、はじめはおもしろおかしく取り立てようと思っていたんだろう。


 でも、そのひとはまったくもっての真実、異世界からの転生者だった。


 魔王が転生をしてきてからは、出版社に問い合わせが殺到した。


 いっとき、ニュースで当該のAが事情聴取、逮捕されたという話が流れた。そのときはバックナンバーも含めてどこにも在庫がなくなった。


 はじめは小林太郎(仮称)としていた名前はテレビニュースで流れたAに合わせて、それ以降も「現世界」での連載は続いた。びっくりすることに、終末戦争のあいだも、ずうっと発刊していたらしい。


 したたかなのは、編集部は日本における異世界人のコミュニティをしっかりと押さえ、情報を独占的に吸い上げていたことだ。そんなため、雑誌の情報源は正確なんだってとても信頼が厚い。


 もっとも、魔王の登場にあわてた警察や政府が、証人喚問や事情聴取をするというおおやけのお墨付を雑誌にあたえてしまった、というのもあるけどね。

 結果的に、はちくの勢い、売上はぐんぐんと伸び上がった。


 転生者を、政府が意図的にかくしていたというまことしやかなウワサが流れていた時期でもあって「現世界」は正義の味方のようにもてはやされた。


 終末戦争のさなか、創刊者がモンスターにおそわれて逝去することとなったけれど、あとを継いだジュニアはいっそうの過激な思想をいだいていた。

 それはどうやら世間の動向に寄り添っていたみたいだ。

 誰もが暴力にたよって暴力をおさめよう、世界平和を求めようとしていたとっても悲しい時代に「現世界」はつねにひとびとの耳目をあつめた。


 でも、崩壊回避のいまでも変わっていない。

 いろんなマスコミがこの週刊誌の記事を追っかけてさえいるのだから、ニュースは彼らが作っているってそんな声もある。


 ぼくもときどき読んでいる。へんてこな実話体験記のマンガが好きだから。たまにぼくらについての記事も載っているけれど、そこは読まない。やっぱり気持ちのいいものではないしね。


 そんな紙の砲弾に、アイノースの疑惑のスキャンダルは載せられたのだ。


※ ※ ※


 出版流通はまだ完全な復興をしていない。

 だけど、マスコミ各社間のコミュニケーションはとっても強い。

 特に「おれがすっぱ抜いてやったぜ!」というマウンティングはいうまでもないよね。きっとそれをいうのはものすごく気持ちのいいものなんだろう。

 やり玉にあげられるほうからしたら、いい迷惑だけど。


 フリージャーナリストが高らかに勝利の笑い声を残していった木曜日の夜には、アイノース日本本社前に、たくさんの記者とカメラが並んでいた。


 英雄教のデモがあったのは、その前の晩だ。

 そのときに向いていたのは教徒たちに対してだった。

 しかし、いまレンズがとらえているのは、暗く沈黙を続ける巨大なコンクリートの建物だ。

 昨晩の喧騒はどこへやら、聞こえるのはレポートを続ける声だけだった。


「疑念に包まれたアイノースの日本本社では、記者会見を明日の金曜日の朝に行うと発表をしていますが、いまはまだなにも声明を出していません。週刊現世界で取り上げられた事件はほんとうなのでしょうか?」


 ぼくはあけみさんの車に乗せてもらい、アイノース日本本社から50メートルくらい離れたところからその様子をみていた。ラジオからは抑えた興奮を言葉ににじませるニュースが流れてきていた。


 あけみさんはモバイル端末に届いたメールを目で追いながら、大きくため息をついた。


「せやから、いうたやろ」


「ごめんなさい」


「別にうちに謝ることやない」


「でも忠告を役立てられなかった」


「そんなことはどーでもええわ。厄介なんは、その男や。フリーなんかやない。現世界のオーナー兼編集長、長浜らしいで」


 やっぱり。なんとなく予想はしていた。

 むかし何かの記事に写真が載っていたからだ。

 あれが紙の砲弾の持ち主、長浜編集長なのか。浮浪者の一歩手前にしか思えなかった。記憶の一片をたどっても、ぼくのみた写真ではすぐにはぴんとこない。


「あいつはやばい。嘘とはったりで情報源をだまくらかして来たやつやけど、裏どりはほとんど完ぺき。だから、アイノースなんてばけものあいてでも、記者連中は強気の取材ができるんや」


 ほとんど完ぺき。でもぼくのニュースはでまかせばっかりだったけどなあ。


 ただ、それは他のライターが書いたものなんだろうという。

 長浜編集長の記事は数がすくないらしい。その代わり、長い時間をかけて対象をねらい撃つ/たたみかける/陥落させる。記事が出る前にターゲットが悲鳴をあげて告白することもあったらしい。まるで戦争をふっかけるように宣戦して取材をつづけるのだから、ねらわれたひとはたまったもんじゃない。


 リンカもそんな彼一流の流儀で取材を告げられたのだろう。

 それでも、女王様も負けてはいないはずだ。メイにモンスター消失事件を追わせていたのはそのためだろう。


 そう。長浜編集長は今週の「現世界」でアイノースによるモンスター不正売買をすっぱ抜いた。


 でも、ぼくにはすっぱ抜いたとはとても思えない。記事はやけに持って回った文章で、ものすごく読みにくかったし、その証拠も浅い。


 記事はこんな感じだ。


 諸君!

 歴史に名を残す事、刻む事は決して容易ならざる事でありますが容易なる事の代表として世界同人類を裏切る事こそ真にその方でありまして法を捻じ曲げ善き人の行く道を違えること。即ち犯罪である。

 魔王に依る人類の生存と尊厳を賭けた終末的闘いの最中で其れ迄世界の紛争、テロ、暴動の一翼を担い死の商人として歴史に悪名を轟かせ刻んだアイノースは、世界の盾、人類の剣等と衆目を欺きながらも真実は果たして賢明なる人々の研ぎ澄まされた眼差しからは逃れられぬのが定めと言えよう。

 アイノースは異世界生物たる人型、鳥獣型、四足歩行型を数千から数万ドルで闇市場と言う浅ましき人類の叡智たる道徳的行動規範から外れた犯罪集団からの購買を促して其の市場の活性化を手助けする愚行を進めているのでございます。それにより獲得した異世界生物から抽出可能な各種の特異的成分をもとに違法薬品や根拠薄弱な霊薬じみた物の開発にて数十億と言う巨利を得てまた其れを用いて兵器開発を推し進める事の危機的な根拠はまた全世界的な混乱をせんと画策せんが為と言える。

 それは次の写真が真実を我々に告げていると言って過言では御座いません。


 モノクロ写真からは、ふたりの男が、台車に乗せた巨大ななにかをはさんで交渉しているのがわかる。

 片方の男には目隠しがされ、もう片方の男は伏し目がちだけれど、顔はわかる構図だった。そのかたわらにはジェラルミンケースがぽつんとおいてある。

 次の写真ではケースが片方へわたされて、次の写真では台車を転がす男の後ろすがたがとらえられていた。


 正直にいっちゃえば、たったそれだけの記事だ。

 なにを写しているか、なにを話したのかは、ぜんぜんわからない。記事の内容もあやふやだ。なのに、なんでそんなにマスコミがてんやわんやでこの記事を追いかけているのか。


 長浜編集長の記事は続きがある。

 それがほんとうなら、目隠しのされているほうは、モンスターの仲介業者らしい。それもアジア近隣ではかなりの大物ブローカーだという。

 そして、もう片方はアイノースの関連社員であり、もっともそこに映ってはいけないひとだった。


 アイノースバイオテクノロジー主任研究員、日本で異世界生物研究の第一人者でもある、武里哲郎教授だった。


 記事はこう締めくくっている。

 アイノースの悪行は此れに留まらず次号には新事実を読者の前に開陳しよう、って。

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