第5回 世界平和とちょっとした出来事
大泣きのホームルームが、どうにかこうにか収拾がついたのは、12時も直前という時間だった。
まずは登校している生徒の人数と顔を把握するために開かれたものだったようで、いったん先生たちはその状況を取りまとめるための会議を行うらしい。
「午後から全校集会があるから、みんな帰っちゃだめだよ!」
まゆちゃんは真っ赤になった目を濡らしたハンカチで冷やしながら教室を出て行くと、何人かは手洗いに顔を洗いに出て行った。
「つーか、今日はもう授業もないんじゃね? さっさと終わるかもな。なあ、終わったら飯でも食いにいかね? どうせ購買もやってないんだろうし」
「それいいね、あたしもいくよ」
「お、ほのかも行く? やったね、行こう行こう。なあ、みんなも行かね?」
と藤村はクラスメイトに声をかけたけれど、どうも都合が悪いらしい。まだ落ち着いて遊びにいけるようなひとも少ないようだ。こっちに戻ってきてそんなに経っていない家もあるだろうし。
「つっても、店なんてほとんどやってないよな。おれ、先週こっち帰ってきたばっかだし、ここら辺の最近を知らないんだ。ほのか、わかる?」
「あたしもこの前秋田から戻ってきたばっかだからわかんないな。ユウタは……わかんないよね」
たぶんぼくが一番長くこの街にはいるけれど、危機終了後こそ方々に呼び出されていたから、街の様子はわからなかった。
「そうだなあ。少し遠いけど、復興対策本部の辺りだったらやっている店もあったよ」
「復興対策本部……ああ、転特のこと?」
ほのかがぐるりと目を回してみせた。
「確かにね。秋田支部の周りは店がたくさん出てた」
「なに、いまはそんな名前になっているの? つーか物騒じゃね? 大丈夫なん、転特の近くなんて」
藤村が大げさに顔をしかめて見せた。
「あの辺りでなんかあったとは聞いたことがないし、大丈夫なんじゃない?」
「まじかよ」
「それに」
ほのかは大きな口元を弓なりに持ち上げてぼくに笑いかけた。
「いざとなったら英雄がここにいるんだもん。これほど安全な場所もなくない?」
そりゃそうか、と今度は大げさに笑って見せた。
まあ、あんまりぼくのちからは友達の前で見せたいものじゃないけどね。でも、たぶん大丈夫だろう。復興対策本部こと転特の組織機能は、全世界でまっさきにまとめられて、強固に築き上げられている。そして少なくとも、ぼくが知る限りはきちんと機能しているし、十分な成果を上げていると思う。
知る限りは、ね。
「つーか、秋田へ疎開していたひとって結構多いらしいな」
「うちの学校からも結構来てたよ。あたしはおばあちゃんの家があっちだからだけど。逆に藤村が行ってた沖縄はあんまりいないんじゃない?」
「そうでもねえよ、結構いた。まあ、確かにどんぱちはあったけど、街中で襲われることはあんま聞かなかったな」
「へえ、意外」
「ま、東京がやっぱり一番被害が出ていたんじゃね? 他の国でも主要な都市がやられていたっていうし。そこんとこどうなんだよ、ユウタ」
「そうだね、都市部はけっこう戦闘も激しかったかな。それに密集しているから、どうしても戦いの中で壊れちゃうらしいし。やむをえないかなあ」
「まあ、そうだよな。やっぱりトシキノウのチュウスウを狙うのがセオリーだよな。その点ほのかの疎開先は安全だったかもな」
藤村がにやりと笑ってほのかに話しを投げた。でも、ほのかは反応しなかった。
大きな瞳を僕の肩越し、窓の外に投げていた。
「ねえ」
「ん?」
「あのひと、突然現れたんだけど」
ほのかが恐々と指を指した。
そこには風変わりな格好をした男の子が、不安そうな眼差しであたりをきょろきょろと見回していた。
ローブらしい服を羽織って、赤い髪の毛をした、明らかに日本人とは思えない男の子をさして、ほのかは悲鳴に近い声で言った。
「あれって、転生じゃない?」