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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第48回 世界平和と投函者を探せ!

「何しに来たんですの、佐倉ユウタ?」


 おい、こら、メイ。聞いていた話と違うぞ。


 リンカはぼくの顔を認めると、いっしゅん目を丸くした後、隣のメイをぎろりと睨みつけた。メイは素知らぬふりで、視線をリンカの足元あたりに投げかけている。


 何しに来たといわれても、招待されてやってきたんだけどな、とぼくもメイに視線を向けるけど、こちらにも素知らぬふりである。どうしろっていうんだろう。


「わたくしの屋敷に厚かましくもその顔を見せるとは、良い度胸です。度胸に免じて、不敬は許すとしても、わたくしは時間がありません。手短に用件をおっしゃってください」


「あのう、ええと……」


「お嬢様。佐倉ユウタはモンスター消失事件を復興対策本部の依頼にて調査している様子でございます」


「あなたが?」


 リンカが信じられない、という面持ちでぼくを見やる。事実だ。ぼくはちいさくうなづいてみせた。リンカはまるで今世紀最大のとんまを見たかのようにため息をついた。


「これまでの私の調査においても、随所で鉢合わせています。あながち、全くの見当はずれとはいえません。佐倉ユウタの意見を俎上にあげても良いかと思い、連れ参った次第です」


「復興対策本部は、ついに思考停止まで至ったのかしら? これは由々しき事態ね」


 もう帰っていいかな? いいよね?


 ぼくがもう一度メイに視線を向けると、彼女はこっそりとぼくを見やり、口もとで微かに笑みを浮かべていた。


 ああ、こんな表情、かえでがよくしている。

 悪いこと思いついているときのやつだ。


「ま、まあ、あなたが重要な情報を持っているとメイが判断をしたのなら、話を聞く時間をさくのはやぶさかではありませんわ。メイ、いちおう客人です。お茶を淹れて差し上げなさい」


「はい、お嬢様」


 メイは一礼し、ぼくの側を通り過ぎようとしたとき、「お嬢様を、よろしくお願いしますね」と今にも笑い出しそうなのを堪えていった。そんなにぼくがリンカにやりこまれるのが楽しみなのかな。ぼく、メイに何かしたっけ?


 屋敷はとてつもなく大きい。ぼくのボキャブラリーでは、うまく説明ができないくらいに。決して面倒くさいわけじゃないです。いま、頭のなかで、豪奢なお屋敷のイメージをしてみてください。はい、それにたぶん近いです。絵に描いたようなお屋敷です。


 リンカはぼくを客間に案内すると、窓際のソファーに腰掛けるように促した。柔らかすぎず、硬すぎず、まさに理想的なソファーだった。ぼくが普段使っているベッドよりよっぽど上等だ。


「それでは、あなたの意見を聞かせてもらいましょうか」


 リンカはぼくの斜め前に腰を下ろすと、さっそくと質問を投げかけた。

 とはいっても、モンスター消失事件の考察なんて特に持ち合わせていない。ただ、いくつかのパズルのピースは持ち合わせていた。ぼくはメイにも伝えたこれまでの出来事を簡単に話した。だいたいは武里ケイコの事件についての話だ。ぼくには、どうしても消失事件と武里ケイコ事件を切り離せずにいられなかった。


 意外にもリンカはぼくの話を途中で区切ることなく、じっと聞いていた。いつもの彼女の調子ならば、説明のつまずきや、矛盾があれば意気揚々と食ってかかるものだと思っていたのに。だからちょっと拍子抜けだった。


 経緯をいっきに話をし終える。いつの間にかぼくとリンカの目の前には紅茶が置かれていた。お嬢様の後ろにはメイがかんばせを俯かせながら控えていた。どうやらステルス機能も搭載しているらしい。探偵というよりも忍者さながらだ。


 リンカは話がひと段落したの確認して、メイに何かをつぶやき、もう一度ぼくに顔を向けた。


「努力は認めます。でも、あなたの考えは支離滅裂ですわ。正しくないピースを無理に繋いでも、いびつな絵を描くだけで、何も作りません。あなたはたぶん、ふたつのパズルをごちゃ混ぜに解いているのです」


「ふたつのパズル?」


「モンスター消失と、武里教授のお嬢さんの事件です。わたしにはどうしても、このふたつが重なるとは思えません」


「そんなことわからないじゃないか。現に、つながりがある」


「同じモチーフがパズルに描かれているだけのことです。わかっていると思いますが、同じモチーフがひとつの絵のなかに二重で存在することはほとんどありえません。武里教授への脅迫状と、お嬢さんの事件があなたをミスリードしていると私は考えています」


「だけど……」


「あなたの気持ちはわかります。ですが、推理は飛躍すれば良いものではありません。論拠に基づかないものは、推理ではなく、妄想です」


 それはわかる。いまのぼくの考えには何も根拠がない。でも、何かが引っかかっていた。それは表向きの部分じゃない、何か根っこの部分で結びついている、そんなぞわぞわっとする感覚なんだ。でも、それがなんなのかの正体もわからないし、それを言葉にするぐらいのちからがぼくにはなかった。


 それでもリンカはぼくの次の言葉を待っていたようだ。でも申し訳ないけれど、いまぼくがふたりを納得させることはできない。


 リンカはしばらく待った後に、ひとつため息をついて、にっこりと笑みを浮かべた。


「いまわたくしたちが追っています、投函者が事件の鍵を握ります。佐倉ユウタ、あなたの居住地も投函の対象になったのです。なにか気づくことがあるかもしれません……メイ」


 はい、とメイは手元に携えたタブレット端末をテーブルの上においた。


 そこにはビラの投函が確認されたマンションや家にチェックがされたマップが記されていた。50件ぐらいあるだろうか。密集している点もあれば、かたわら、やたら離れているところもある。無作為ともいえれば、何か作為的にばらまかれたものともいえる。


「密集しているところは同日に投函がされたようです。3つのグループに分かれています。聞き込みの情報によれば、投函者は南下しつつ投函をしています。佐倉ユウタのマンションは3日目のエリアに該当しています」


 メイは地図の南にある地域を指した。


 そのエリアは、ほかの2つのグループのように密接したエリアでの投函ではなく、一本の筋のようにマンションや戸建への投函が見られた。投函者が南下をしていくのであれば、北の位置にあるマンションから、ぐねぐねとしながらも一本の線が引ける。メイはそれを指でなぞりながら説明をした。


「そうなると、あなたのマンションは3日目、わかっている範囲で6番目に投函されたようです」


 メイの指した道筋はいちばん合理的だった。ぼくも無作為に歩いていれば、その道をたどると思う。


 でもなんだか違和感があった。ぼくはタブレット端末をすこし近くに寄せてじっと見下ろした。1日目と2日目はかなり密集をしている。ただ、たしかこのあたりは建物はのこってはいるけれど、ひとはあまり住んでいない。目撃情報はたぶんすくないだろう。いっぽう、ぼくのマンションがふくまれる3日目は、ひとも多く住んでいるし、昼日中ならどこかに目撃情報があってもおかしくない。道順がわかれば、その可能性もぐんとあがる。


 でも、なんでこの3日目だけ直線的な動きなんだろう?


 その理由に違和感を覚えた、というのともちょっとちがう。


 タブレットの地図は、フリーライティングで線をひくことができた。

 メイの道筋をもういちどたどってみる。そのすがら、ぼくは思い出せる範囲で頭のなかで風景をたどった。えーと、このマンションからスタートをしたとして、2番目のマンションまでは、大通りに出て次の道を左に……とそんな感じで思い出していた。


 ぼくが感じていた違和感の正体には意外にすぐたどり着いた。


「リンカ、メイ、この道順はおかしい」


 ぼくがそれを口にすると、リンカは首をかしげた。


「メイの道順は最適だと思いますわ。相当数を撒いたのでしょう。極力効率的に動いたと思います」


「だとすると、余計、この道順はないと思うよ」


「根拠は? あなたが投函者でない限り、想像であり、想像は根拠になりません」


 リンカは同じことを繰り返して指摘していることに、ちょっとだけイライラしているようだ。でも、今回はちゃんと根拠がある。だって、じぶんで住んでいる地域のことだもの。


「いまは通れないんだ、この道」


 えっ、とリンカは驚いたように目を丸くした。


 メイはしまった、というように顔をしかめた。


 そう、この道は通れない、いまは。


 ぼくはいちばん最初に浮き出した通れない道にバッテンをつけた。


 ぼくの住んでいる地域は復興が進んでいる地域ではある。でも、まだ戦争の影響が残っている。それはもちろん、どこでもおんなじだけどね。あちらこちらで倒壊した建物や、陥没した道などが点在している。だから、過去の地図の道と、実際の道はだいぶ異なる。


 メイド探偵が指し示した道筋は、つくえの上で描いたものでしかなかったんだ。


 地域の調査は他のメンバーに依頼をしたのだろう。投函先は判明した。でも、周辺状況を見ることはなかった。メイが自分で見ていれば、想定を違えるをなんてなかったと思う。


 メイはすぐさま電話で指示をだした。投函エリアの地形の調査を求めたのだろう。ぼくはタブレット端末の地図に実際に通れない道の記しを落としこむ。そうして、もういちど地図を俯瞰してみた。


 スタートを同じにおいても、ルートは大きく変わる。ぼくのマンションは9件中の4番目、そして5番目はだいぶ離れたアパートになる。本来ならアパートとぼくのマンションは直接結びつかない。もっと近くに別の投函先があるからだ。しかし、通れない道を省くと、それが一番効率的な道筋だった。


 そしてそれは、1日目や2日目と同じように、直線的ではなくて、かなりぐちゃぐちゃとした道順だった。


 道順をたどっていくなかで、ぱちりというピースのはまる音が聞こえた気がした。


 その音がどうして鳴ったのかが、ぼくはすぐに気づいた。


 4番目のぼくのマンションと、5番目のアパートの道筋にあるのは、エリカがよく通うコンビニだった。コンビニで起きた事件と、エリカがいっていたことがぱちり、ぱちりと地図の上で一枚の絵を描き始めていた。


 ぱちり、ってね。

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