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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第47回 世界平和と英雄教対談その2

「内部告発って。いいがかりはやめてください」


「そうでしょうか? 仮に会の記述が正しければモンスターの違法売買が行われている。それは個人でできるようなものではありません」


「英雄教が関わっていると? 馬鹿馬鹿しい。内部告発なら、アイノースに限らず、我々の名前も記載がされるべきでしょう?」


「弊社宛ての脅迫状には弊社の問題しか書いてありません。ですがもう一通、脅迫状があったとしたらどうでしょう」


 もう一通。

 つまり。


「みなさまにも、共存を考える会からの脅迫状があったのではないでしょうか?」


「でたらめだ! ぜんぶ妄想の推理でしかない! 我々を侮辱するのも大概にしろ!」


 メイはそこで突然、くるりと表情を変えた。

 普段のように柔和な笑顔を浮かべ、腰をかけたまま深々と頭を下げた。


「大変失礼をいたしました。探偵の真似ごとにうつつを抜かしておりました。バカな子供の戯言とご放念ください。お詫びを申し上げます」


 貴様、ふざけているのか! と英雄教のひとが立ち上がろうとするのを、古川さんが押しとどめた。今度はざわつくメンバーを制し、黒縁のメガネの奥の瞳で、メイをじっと見据えた。

 何かを推し量ろうとしているようだ。アイノースという大企業の看板を掲げてやってきたこのメイド姿の女の子の真意がどこにあるのか。そして、これ以上の感情的な発言が、どんな影響を及ぼすのかまで、冷静に見抜いているようにも思えた。


 いいでしょう、と古川さんはいった。


「今回のことは不問としましょう。しかし、いくらあなたのような歳の方とはいえ、いっていいことと悪いことがあります。そして、次はありません」


「心してございます」

 メイは再び頭を下げた後、「もうひとつ、お伺いしたいことがあります」と続けた。


「なんでしょう?」


「藤村という男の子をご存知でしょうか?」


「聞いたことがありません。藤村さんですか、みなさんはいかです?」


 古川さんが周りのひとに話を振るが、いちように、首をかしげて見せた。


 ぼくには読心術はないけれど、その口調や態度には、ごまかしはないように思えた。もしかしたら、メイと英雄教のやり取りにすっかり気取られてしまって、そんな気がしていただけかもしれない。

 それでも、藤村を知らないという情報だけでも収穫だ。英雄教に直接的には関わっていない。それならば、テレビ画面に映ったのは、何か他の理由があったということだ。


 藤村、ぼくはこころのなかで、あいつに毒づいた。いったいお前、何してんだよ。


※ ※ ※


「ごめんなさい、ユウタさん」


 英雄教の施設を出て、しばらく道なりに歩く最中で、メイは立ち止まり、ぺこりと頭をさげた。


「どうしたのさ、急に」


「わたしはユウタさんを利用してしまいました。ほんとうにごめんなさい」


 そんなことは気にしなくていい。それに、ぼくはどう利用されたっていうのだろう? 考えてみたけれど、あまりぴんと来ていない。


 英雄教との話は、もちろん、あんまり友好的な終わりではなかった。

 関係はより悪化したともいえる。

 ぼくは藤村の情報がわずかでも聞けたから良かった。

 でも正直、メイがあの会合をセッティングした目的がよくわからなかった。はっきりいえば、メイらしくもないとも思った。このメイド探偵さんは、終末戦争のときには確信をもとに行動をしていた。なんどもなんども検討をして、ああでもない、こうでもないと喧々諤々の末に決定打を打ち込むタイプだ。だから、敵の本拠地に押し入って、証拠もない空想推理ばなしをぶちまけて、それでおしまいにする子ではなかった。


 英雄教に行くというから、なにか確信めいたものがあると思っていた。サスペンスドラマでいえば、波頭寄せる岩礁で、犯人を追いつめるようなシーンが展開されるものだと思っていた。


 だから真実、拍子抜けだったといってもいい。真剣にそっくりな紙の剣を掲げてみせて、これは模造刀なんです、脅してごめんなさい、としまってみせただけだった。


 ただ、メイのみせた模造刀は、意外に的を得ているとぼくは思っていた。


 異世界生物との共存を考える会の正体はいまだにわからない。けれど、彼らがアイノースとぼくのマンション近郊だけに怪文書や脅迫状を送ったとは思えない。


 だから、真実ならば、きちんと裏を取ることもメイならできたはずだ。それなのに、なぜ?


 メイはぼくにごめんなさいと謝った以外はすっかりと表情をもとの完ぺきなメイドさんに整えなおし、ひょう然とまっすぐを見つめたまま、コトコトと足音を立てて歩いていく。


 ぼくは渦中にあるはずなのに、すっかりとメイに置いていかれているような気がして仕方なかった。メイだけじゃない。たぶんあの子のうしろには、きっとリンカがいるはずだ。あの女帝が何でメイをここまで動かして、モンスター消失事件を追っているのか、ぼくにはさっぱり分からないんだ。取り残されるのは、あんまり気分のいいものではないよね。


 ただ、世界はまわる、真実を隠して。


 ぼくのポケットが微かに振動し、新しい報せをぼくに伝えようとしていた。あけみさんだ。ぼくは、モバイル端末を引っ張り出して、メイに断ってから応答を押した。


「ユータ、いま、ええか?」


「どうぞ」


「あんた、もしかしてモンスター消失事件を探ってたりするん?」


 なんでそれを? と聞くと、あけみさんはため息をついた。


「ホンマ、あんた何やってん。探偵にでも職業替えか? 悪いこといわへん、手ェ引きな。巻き込まれるで」


「巻き込まれる? いったい何の話ですか?」


「めっちゃ優しいウチでも、これ以上はいえへん。手ェ引きな。それができないなら、全力であんたが信じているやつらを守りな、少年」


 ほなな、とあけみさんは一方的に通話を切ってしまった。通話時間2分で、敏腕編集者さんはぼくに大きなひっかかりを残していった。


 巻き込まれるで。何に巻き込まれるというのだろう。ぼくはちょっと前からモンスター消失事件には関わっている。それでいえば、もう巻き込まれれているんだ。いまさらどうともいえない。でも、自称「くそ忙しい」あけみさんがわざわざ電話をしてくるのだから、きっと何かがあるんだろう。それが何かを教えてくれれば、もっときちんと、回避ができるのにずいぶんと意地の悪い話だ。


 ぼくがじっと手元のモバイル端末の画面を見つめながら、歩いていると、メイがぼくを見つめ、にっこりとほほ笑んで見せた。


「ユウタさん、お時間がありましたら、わたくしどもの屋敷にいらしていただけませんか?」


「リンカの屋敷に? あまりぞっとしないお誘いだなあ」


「そんなこと仰らないでください。リンカ様はいつでもあなたに会いたがっておいでです」


 リンカが?

 にわかには信じがたい話だ。

 それでもメイはにこやかに、ぼくが「うん」というまで譲らない様子だった。


 だって、ぎゅうっとぼくの手首を掴んで離さないのだから、どうしようもないじゃない?

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