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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第38回 世界平和と名探偵と助手の捜査手引き

 きみは慎重すぎるきらいがある、とかえでからいわれたことがある。考えてもしかたないことが世の中にはたくさんあるんだから、バカになって進んじゃえば意外に楽なんだって。


 そうかもしれない。ただ、かえではそれでずいぶんと失敗しているけれどね。

 でも今回はかえでの意見に従ってみようと思った。やってみないとわからない。


 事件現場の場所を聞くと、その足で向かうことにした。


「ま、なにか面白いネタがつかめたら教えてや」


 あけみさんは領収書の宛先を店員さんに教えながら、なげやりな口調でいった。なんだろう、なんだかちょっとムッとした。だからやめればいいのに、突っかかってしまった。


「あんまり期待していないでしょう?」


「何を期待するん?」


 あけみさんは苦笑いを浮かべた。


「あたしがきみに期待するのは、世界崩壊を食い止めた英雄たちの体験記であって事件ライターじゃない。きみが名探偵よろしく事件を解決できるならともかくね」


「やってみないとわからないじゃないですか」


「せやな。やってみないとわからん。ほんま、そのとおり。でもな、少年。これは大人のお姉さんからのアドバイスだけど、いまは何かをなそうと焦らなくていいと思うで」


「焦る?」


「うん、あんたはいま焦っている。きみは高校生なのに、もう世界を救った英雄やんか。何ものにもなれん大人がぎょうさんおるなかで、きみは世界的偉業をなした。しばらくはそれでいいんちゃうか? いいや、しばらくどころか、それで一生食っていける。世界がこんな状況じゃなきゃ、テレビにも引っ張りだこ。本でも出せば、ベストセラー間違いなし。だから、いまはそれでええやん」


「それは、褒めているんですか? それともバカにしている?」


「まさか。世界的英雄で、ベストセラー間違いなしの作家様をバカにしたりしない。でもな、少年。なんでもできると思ったらあかん。ひとには役割がある。それを見つけて責任まっとうすることも難しい。ま、これはそれができてへん、大人のひがみやと思ってな」


 正直、わからなかった。

 ぼくは名探偵になりたいわけではない。ただ、ひとりの女の子が誰かに命を奪われたのだから、できることをしたい。そう思っただけなんだから。


 でも、ぼくに投げられるこの警句は、まったくその通りになってしまうのだった。


※ ※ ※


 事件現場はすでに規制線は貼られていなかった。倒壊の恐れあり、立ち入り禁止、という看板が置かれているだけだ。ほんとうだったら施錠できるようなフェンスを張るべきなんだろうけれど、まだまだその余裕はないみたいです。


 中に入ると、多くのひとがここに出入りしていることがわかった。あちこちに食べ物のゴミなどが散乱している。まだ仮設住宅を支給されていないひともいるし、あまり素行のよくないひとたちもいる。ここはそんなひとたちが集まってくる場所だったのだろう。さすがに殺人事件があったばかりではその出入りも少なくなったようだけれど。


 建物自体も、以前はドアがあったのだろうけれど、すっかりその役目を放棄したように、蝶番から外れていたり、ガラス戸は粉々になっていたりした。だから入るのは何の障壁もない。壁に貼られたポスターなどをみると、以前は電子機器を扱う会社が入っていたようだ。


 エレベーターは使えない。ぼくは非常階段から5階まで登って行った。上にあがるにつれて、ほこりの量は多くなる。隙間から差し込む西日に、細かいほこりがひらひらと舞ってみえた。ビルのフロアはそこまで広くない。幅50メートル、奥行きも30メートルほど。壁も大抵が崩れているから、現場はすぐにわかった。


 ひどく雑然とした建物のなかで、そこだけがぽっかりと片付けられていた。


 部屋は長方形で、いくつかパーテーションで区切られていたのだけれど、ちょうど中央付近に、赤いスプレーのようなものでいびつな円が描かれてある。そこには縦やら横やら斜めやら、複雑な直線で模様が描かれていた。


 まるで魔法陣だ。

 ぼくはぞっとした。

 何かしらの儀式めいたものが執り行われていた。

 そう、あけみさんは言っていた。これがそうなんだろうか。あたりをもういちどぐるりと見渡したけれど、その円以外、それを裏付けるようなものはなかった。

 エリカや、あの魔王は詠唱で魔法を使っていた。この魔法陣はこの世界の人間が使ったものなんだろう。でも何をするもののなのかはさっぱりだ。


 密室だったわけでもない。でも、外から中が見えないようになのか、円を囲うようにパーテーションが置かれていた。外にはこの建物と同等、あるいはもっと高いビルもある。何か怪しげな行為があれば、きっと見える。少なくとも、ひとめにつかないようにしたい、と考えるだけの精神状態の犯人なんだろう。


 でも、それだけだった。あとは何もわからない。


 何時にここに来て、どれぐらいいて、何をしていたのかもわからなければ、犯人が単数なのか複数なのかすらもわからない。残念ながら霊と交信するちからもぼくにはない。ホームズだったら、ここに残されたわずかな手がかりをもとに、ばばばっと、正確無比な犯人像を描くんだろうけれど、そんなは到底無理だった。


 せめて、この魔法陣から何か手がかりが得られないだろうか。

 ぼくはモバイル端末で撮影をした後に、魔法陣をなぞってみたり、いろいろな方向から見つめ直した。

 角度も何かしら理由があるかも。

 そう思って這いつくばって、魔法陣を見てみたけれど、何にも意味がなかった。そりゃそうだよね。すると、ぼくの目線の先に、影がひょこっと伸びた。


「なにか見つかりましたか、探偵さん?」


 振り向くと、虫眼鏡を持ったメイがじっとぼくの行動を眺めていた。しゃがみこんでぼくの行動を虫眼鏡越しに見ている姿はなんとも可愛らしいけれど、ぼくの視線はそれよりも、メイド服の裾からのぞく真っ白で丸みのある太ももに吸い寄せられていた。これはやばい。


「ああ、いや、ぜんぜん何にも見つからない」


 ぼくは慌てて立ち上がった。さすがに凝視できない。すると、「あら、たいへん」とメイは全身についたほこりをぺしぺしと小さなてのひらで撫でるよに叩いてくれた。


「ちゃんと帰ったら洗濯してくださいね」


「これぐらい、適当にはたいておけば大丈夫さ」


「いいえ、ダメですよ。ちゃんと綺麗になさってください。お洋服が可哀想です」そういってメイは小さな唇をツン、と尖らせて怒って見せた、「ユウタさんも、調査ですか?」


「そっちも殺人事件の調査に?」


「えーと、調査は調査なのですが、わたしはモンスター消失事件の延長です」


 あ。そうだった。昨日の今日なのに、ぼくはすっかりと忘れていた。メイは着実に調査を進めているようだ。


「でも、それがなんでここに?」


「亡くなられた武里ケイコさんのお父様は、アイノースバイオテクノロジーといっしょに研究をなさってくださっているのですが、調べたところ、脅迫状が武里教授名義宛てで、社に届いていることがわかりました」


「それって、まさか」


「いえ、まだ確証はありません。生物をあつかっている手前、抗議やいやがらせ、脅迫めいたものが届くのは確かなのです。でもだいたいは届いて、それきり。よっぽど真に迫ったものでない限り対処はしません。ただ、気になった脅迫状は具体的な内容をでしたし、なにより……武里教授のご家族にこのようなことがありましたので、エリカ様も関連を危惧されているのです。エリカ様はそちらの団体を調べているので、まずわたしがこちらの現場の確認にきました」


「団体名が書いてあったの?」


「はい、脅迫状はたいてい匿名なのですが、それにはしっかりと。ただ、実態のない団体を偽っているという可能性もありますから。なんとも」


「へえ、ちなみにそれってなんて団体なの?」


「異世界生物との共存を考える会、という団体です」


 なんだそりゃ。聞いたことがない団体だ。それに異世界生物ってことはモンスターか。ぼくは思わず笑ってしまった。それだとすると、ぼくはその団体から嫌われるなあ。


 ん? 異世界生物との共存を考える会?


 ぼくはしばらく考え込んだ。

 いや、どこかで聞いたことのあるような。

 聞いたというよりも、目にした、というのが正しいような………。


「あ」

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