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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第37回 世界平和と疑念の取材メモ

「それでウチに連絡したってわけなん、ユータ?」


 あけみさんはつまらなそうにモバイル端末をいじりながら、やる気を削がれました、という雰囲気をいっさい隠さずにため息をついた。


 ぼくはこっそりと学校を抜け出し、あけみさんに連絡を取った。出版社の編集というお仕事、つまり、ぼくとかえでの本を出そうと提案してきたひとだ。

 話がしたいというと、まるで待ってました、とばかりに編集部近くの喫茶店でのアポイントが取れた。

 たぶん、ぼくらの体験記の件だと期待していたんだろう。でも残念ながら違う。武里ケイコの事件について聞きたいとぼくがいうと、あからさまに崩れ落ちた。どうやら、ここ2、3日ろくに眠らずに仕事をしていたらしい。


「いっておくけど、ウチは書籍編集であって、週刊誌の記者ちがうんよ。作家さんの原稿をよりよくするための手助けはするけど、事件とか言われても困るわ」


「でもノンフィクションとか扱っているじゃないですか」


「あんな、専門がちゃうんよ。ウチは基本、文芸担当」


「ぼくらの体験記はノンフィクションなんでは?」


「そら、こんなどでかいネタに直接接触できるんやったら、垣根ぐらい飛び越えるわ。この業界、取った取られた、殺るか殺られるかなんやで」


 おっかない。ものすごく厳しい世界にあけみさんは身を置いているらしい。


 それでも引き下がるわけにはいかなかった。

 復興対策本部のナナミさんはひとが関わる事件のことはわからない。かといって、ぼくには警察のつてもなかった。だから、少しでも近いと思ったのがあけみさんなのだ。


「お願いします、あけみさんの出版社には週刊誌もあるんでしょう? そこの記者さんを紹介していただくでもいいんです。その代わりに、ぼくらの……」


「はい、ストップ。ぼくらの、なに? 体験記? あかん。何回その条件でウチがタダ働きしたと思う? 連載の5回分だけ先にもらって、軌道に乗りそうだからって枠も確保したのに、それからはぴたっと原稿がとまったやん。月刊誌でも、編集スケジュールはめっちゃ大変なんです。きみらの空けた原稿、ポッと出の新人の短編でなんとか埋めたけど、くそメタに編集長に怒られたのウチなんやで。そこんとこわかっとる?」


 ぐうのねもでないとはこのことだ。


 体験記は基本ぼくとかえでで交互に書いていた。とはいえ、かえでは文章を書くのが苦手で、ライターさんが代筆をした。

 ところが、6回目分の取材のとき、かえでは海外でのモンスター対応に飛び出し、そのまま帰ってこなかったのだ。

 いちおういっておくけど、代わりに僕が6、7回を提出した。あけみさんの言っていることは間違っている。でも、8回目以降用の資料もかえでが捨ててしまって、途中で放り投げたのは確かだ。なんにもいえない。


 ぼくがどう返そうかと逡巡していると、あけみさんのモバイル端末が、ぴこん、と音を立てた。「あ、きた」と彼女はつぶやくと、しばらく画面を凝視していた。


 ややあって、はあ、と深くため息をつくと、座椅子に座り直した。


「せやけど、体験記をほかに持ってかれてもかなわん。せやから、これはまた貸し。絶対にかえしてな」


 そう言って、モバイル画面のコメントを読み始めた。


「武里ケイコ、15歳。父親は武里哲郎。関北大学で生物学の教授をしているようね。で、アイノースバイオテクノロジーと共同研究所の所長、現在53歳。奥さんは優子。彼女は現在行方不明、か。まあ、めずらしい話じゃないわね。いまから5日前、武里教授から警察に通報があった。ケイコさんが家に帰っていない、ということらしい。で、その日のうちに捜索願がだされている。まあ、奥さんが行方不明になっているんだから、武里教授が焦る気持ちもわかるよ。ただ、残念ながら、翌日、ケイコさんの遺体が発見される。通報したのは建設会社の社員。戦乱で倒壊寸前の自社ビルを解体するために視察に訪れたところ、同ビルの5階で武里ケイコを発見した。……うーん」


 そこであけみさんは口を閉じた。しばらく画面と、ぼくの顔を交互に見比べていた。


「ユータ、ここから先はこの記者の憶測込みやから、真実じゃない。そこんとこよくわかって聞いとって」


「はい」


「ケイコの発見状況は何かしらの儀式めいたものが執り行われていた。武里優子、ケイコ親娘は厄災の最中、英雄教に入信していた。その英雄教は、厄災のち、複数の派閥に分裂。うちいちぶの派閥は過激かつ、呪術的、または”魔法的”な儀式を執りおこなうことも確認されている」


 英雄教。葬儀のときのひと幕が頭をよぎった。


 まさか、真壁先生が事件に関わっている?

 まさか、まさか、まさか。


 あけみさんはモバイル端末をしまい、何も言わず、ぼくの顔を見つめていた。

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