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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第36回 世界平和とムッシュ・ヴェルドー

ユウタ:かえで、武里ケイコさんが亡くなったって

ユウタ:きょう葬儀が執り行われたよ

ユウタ:いつ、帰ってくる?


 書類が確認されている間に、かえでにメッセージを送った。前のメッセージも既読にならない。どこか秘境にでも籠っているのだろうか。


 最後の書類まで、まゆちゃんはひとつひとつ項目を目で追っていた。まゆちゃんの仕事はとにかくまめだ。提出物にはいつもとても細かく、しっかりとコメントが書かれていた。昨日確認したはずの資料も含めて、ずり落ちそうなメガネを何度も押し上げながら、末尾まで念入りにチェックが終わると、ちいさくうなずいた。


「だいじょうぶね。手続きはこれで完了です。お疲れさまでした。校長先生には私から届けておくわ。佐倉くんは明日鈴本エリカさんを学校に連れてきてね」


「わかりました」


「あ、でも、鈴本さんと少しお話もしたいから、いつもより早めに来てね。君の登校時間だと駆け込みになっちゃうからね」


「……気をつけます」


「はい」


 まゆちゃん先生はうっすらと紅を引いた口を弓なりに形を変え、その後、ぼくの顔を覗き込むようにみた。


「ユウタ……佐倉くんはちゃんとご飯、食べている? 疲れているようだけど、ひとり暮らしだからって炭水化物とたんぱく質ばかりはだめよ。バランスよく食べないと」


 そんなに疲れているのかな。

 つるりとほおを撫でてみたけれど、自分ではわからない。

 確かにバタバタはしている。やらくちゃいけないこともたくさんあるけれど、以前のように命をかけるようなことはなくなった。その代わり、ちからでなんとかなることではなく、精神的に疲れる出来ごとが増えているのかもしれない。


「あ、あの、さ、もしちゃんと食べてないなら、うちに、そのお……」


「え?」


「あ、ううん、なんでもない! と、とにかく疲れていても、遅刻はだめよ。きょうだって市役所に寄ってきたとはいえ、だいぶ遅いじゃない。授業はちゃんと出ないとね」


 ごまかす様子がまるわかりだ。


 でも、まあ、遅刻したのはまったくの事実だ。さぼっていたのも少しぐらいはほんとうだしね。ただ、それがぜんぶじゃない。


 ぼくは武里ケイコのことを聞いてみた。とたんにまゆちゃんの顔にうっすら影が落ちた。


「学校側も今日聞いたの。お父様から連絡を頂いたわ。とても残念なことです。詳しくはまだ聞いていないけれど、夕方、先生たちで武里さんのお宅を訪ねて、お話をしてくる。あした、全校集会を開いてみんなに伝えますね」


 全校集会?

 ぼくは首を傾げた。学友が他界したことは重い話だけれど、全校集会を開いて伝えることではないと思ったからだ。なんで? でも、その答えはすぐに明らかとなった。


「犯人、早く見つかるといいわね」


※ ※ ※


 魔王との戦いで、ぼくらの世界ではたくさんのひとが命を落とした。その人数はわからない。きっとこれから「歴史」という本に取りまとめるために、偉い人がいろいろな計算方式や推定で数字を示すんだろう。


 そうして示された数字は、きっとこうやって書かれる。


「魔王との戦いで世界では何十万人が犠牲となり、日本では何万人を数えた」


 ね。一行でまとめられる。魔王というひとりを伝えるのに2文字も使うのに、何万人、何十万人という犠牲者はたった3文字、4文字でひとくくりになってしまう。魔王はきっと未来永劫でひとの口端に名前がのぼるけれど、犠牲者は数字で呼ばれる。


 ムッシュ・ヴェルドーはこういったんだって。


「一人殺せば悪党で、100万人だと英雄です。数が殺人を神聖にする」


 そんなばかな話は、ないよ。


 だいじなひとの命が奪われる。


 その奪った相手が100万人を殺した英雄であろうとも、ひとりだけを殺した悪党であろうとも、戦争によってだろうとも、殺人によってだろうとも、同じだ。


 だからどうするって?

 ぼくは、ぼくのできることをする。

 たとえ、それが授業をサボることになってもね。

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