第33回 世界平和と失われた魔女の花園の鍵
郵便受けにビラが突っ込まれていた。
”復興対策本部はモンスターを違法に略取し、とある企業を経由する闇ルートで諸外国と売買をしている。”
どうやらマンション全部に投函されているようだ。
片面刷りのシンプルなビラには、「異世界生物との共存を考える会」という聞いたことのない政治団体の名前が書いてあった。こんなものでもなにかの役に立つかとかばんに入れ、階段を登って行った。
部屋は7階にある。704号室。その隣の705がエリカの部屋だ。エレベーターはあるけれど、入居したときにはすでに壊れていて、修理の目処はたっていない。だから高層階は意外と敬遠されていて、ぼくらのような高校生に提供がされたのだろう。そこそこ眺めもあるし、すごく気に入っている。自由ばんざい。
ぼくが鍵穴に鍵をいれてがちゃがちゃやっていると、隣のドアが勢いよく開いた。
「ユウタ!」
エリカはぼくの腕を掴むとぐいぐいと自分の部屋へと引っ張った。
「ちょ、ちょっと、どうしたのさ、エリカ。痛い痛い!」
ちなみにエリカは見た目と違い、とてもちからがある。僕を玄関先に連れ込むと、鍵とチェーンをかけ、ばっとぼくにしがみついた。
え、なに、このシチュエーションは。なんかのご褒美タイム? もしかして、動揺している場合じゃないってやつ? 腕とか腰に回さないといけないやつ?
最近のぼくの脳みそはずいぶんとポンコツになっているようだ。
もしかしたら、それも正解だったのかもしれない。
けれど、タイミングを逸した。
「だ、誰かが家ん中に入ったみたいなの!」
「え?」
「だから、誰かがあたしの家に侵入したみたいなの!」
ぼくはエリカの顔をみて、部屋のなかに視線を移した。
正直、見られたものじゃない。ぐっちゃぐちゃ。この魔王様は片付けというものがことの他苦手な様子で、あちらこちらに荷物が散乱している。ただ、洗濯だけは好きなようで、ベランダにはまだ洋服が干してある。あんまり見ちゃいけないやつだよね。セクシーなやつもあるし。
それでも、この状況で侵入って。
「勘違いじゃないの? こんな荒れてて侵入なんてわかったもんじゃ……痛い痛い痛いです」
エリカはぼくのほおをぎゅっとつねった。
「荒れてない! 完璧な布陣なの! だからあたしにはわかる、絶対誰か侵入していた!」
わかったから、手を離してください。しゃべれない。
ぼくはじんじんするほおを撫でながら、部屋を慎重に、完璧な布陣を崩さないようにあるいた。そもそもものをそれほど買う余裕がないはずなのに、これだけものが散乱しているのにはそもそも疑問があるけれど、はっきりいって何度見てもわからない。
「エリカ、何か取られたものとかある? お金とか、そのお、下着とか」
エリカは首を振った。
「お金は電子マネーだし、下着とかはぜんぶある。というか盗られたらあたしは隔日で下着なしで生活することになっちゃう」
よし、まずはこいつに下着をたくさん買わせよう。
メイならまだ面識があるか。たぶん、付き合ってやってくれるだろう。
お金も工面しよう。かえでも納得してくれるはずだ。
エリカの下着問題が、ぼくの優先事項の筆頭に躍り出た。
ぼくはつとめて冷静にその話を聞き流し、もういちどぐるりと部屋を見渡した。
もしかしたら、逆に何かを設置されたのかもしれない。盗聴器、盗撮器なんか。でも、それを調べるには専門チームにお願いをするしかない。
「侵入経路は?」
「たぶん、ドア。この前、鍵をなくしたっていったじゃない。たぶんあれで」
なるほど。犯人はエリカの不在時に堂々と正面から入ってきたわけか。そうなると、鍵を取り替える必要がある。
ぼくは先日の鍵業者に電話をかけた。鍵の取り替え自体は30分もかからないらしいけれど、いまは予約で立て込んでいて、1週間程度、時間がかかるらしい。
「急ぎでしたら、知り合いにも連絡をして、いちばん早く都合がつくひとを紹介します。それでも時間がかかるかもしれません」
「おねがいします」
そういって電話を切った。
「一週間」
エリカは不安そうな顔を浮かべた。「べつに盗られるものがたくさんあるわけでもないけれど、いちばん心配なのは、いるときに入られることだよね」
「女の子だしなあ」
「ん。まあ、そうなんだけど、寝込み襲われたら、魔法で氷漬けにしちゃうかも」
犯人の命があぶないわ。
「だれかの家にしても、頼れるところはないし。かえでの家の鍵もないし」
そういうと、エリカはぼくの顔をじっと見た。
「やむをえない、的な?」
「は?」




