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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第二話 勇者さん、お断り
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第31回 世界平和とお慰みの報酬

「ねぎ抜き頼めばよかったのに」


「忘れたのよ」


 ナナミさんは神経質にラーメンに乗ったねぎを箸でつまんでは、ぼくのどんぶりにひょいひょいと乗せていく。ずるずるとぼくが麺をすすっていてもお構いなしだ。


「だめですよ、お行儀わるいです。ねぎは体にいいんですよ。ちゃんと食べなさい」


 ぼくの隣に座ったメイがわがままな子供をしかるようにいっても、このぼくらよりもひとまわりは確実に上な復興対策本部のエリートさまは、ほおを膨らませてふてくされるだけでねぎの選別を怠らなかった。


「わかったわよ、チャーシューも少しあげる」


「そういう問題じゃないです」


「そうそう、問題はねぎとかチャーシューとかじゃなくて、キャンプ戦でのことよ」


 うわ、ごまかしたよ、このひと。


 隣からメイがぷりぷりと怒っているのがわかる。たぶん、好き嫌いのあるリンカにもこうやってこのメイドさんは注意をしているのだろうと容易に想像がついた。


※ ※ ※


 ナナミさんから招集がかかったのは今朝だ。緊急ではないけれど、ユウタくんの耳に入れておきたいことがあるから、晩御飯でも一緒にどう? そうお誘いをいただいた。具体的には避難キャンプ場で退治したモンスター4体のうち、1体が消失したという事件がおこっていたらしい。ぼくに断る理由はなかった。


 蛍さんの病院を出ると、そのまま復興対策本部のある駅へと向かった。

 さすがに取り調べを受けたビルの真下で待ち合わせるのは気が乗らないしね。


 約束の19時の少し手前で、ぼくの名前が呼ばれた。振り向くと、メイが立っていた。丸っこい顔に笑顔を浮かべて、「先ほどはどうもお騒がせしました」。


「メイ? どうしたの?」


「わたしもおふたりと晩御飯をご一緒させていただくんですよ。聞いていませんか?」


 聞いていない。だからあのとき、「またあとで」だったのか。

 ナナミさんは変なところで良い加減なんだ。

 いや、もしかして、何かの策略?

 そんなわけないか。


「わたしは相変わらずリンカ様の代理です。でも、先ほどユウタさんの学校に行ったのは、この件についてお話をするためだったのです。タイミング悪くあんな記事をお嬢様が見つけてしまったものですから」


 それはほんとうにタイミングが悪い。そして大事な要件を忘れて、ひとり火炎を吹いて立ち去るとは、リンカも大概良い加減だ。それでもあの巨大組織を率いていられるのは、このメイのおかげでもある。


 彼女のメイドという職務は、平時のときのみだ。

 アイノース航空隊の司令官補佐、実質のナンバー2がこの片倉メイになる。

 とはいっても、前線に出ることはない。戦略担当という位置付けになるのだけれど、正直ぼくは彼女がどんなことをしているか、よく知らないのです。ときどき、リンカの代理で大きな会議にも出ているところを見るばかりだった。


 それでも、ただ晩御飯に付き合わされるだけだと思っていたのに、大軍隊の司令官補佐さまが出てくるとは、ちょっとどころか、だいぶ驚きだった。


※ ※ ※


 ようやく自分の領地に敵対物質がなくなり、満足げなナナミさんは、ラーメンをすすりながら話をはじめた。


「撃退後のモンスターは、もちろん政府や自治体が処理をするわ。他にも、研究用に指定企業や機関が回収、処理することがある」


「アイノースもそのひとつです」


 メイはどうやら麺をすすることができないらしく、レンゲに麺をくるくると乗せては、口に運んでいる。「いずれにせよ、回収にも処理にも申請が必要です」


「でも、まだ混乱しているなかで、完全な管理なんてできないんじゃないですか?」


「完璧にはできないわ。けど、戦闘行為で退治したモンスターの数は相応に把握している」


 話しながら、ものすごいスピードでどんぶりの中身をお腹に収めていく。先に食べ始めたメイをとっくに追い越していた。


「それに今回は飛翔・人型。モンスターのなかでは中型の大きさよ。集団とはいえ、個体数もそこまでじゃない。だからいくつかの疑問点を排除できれば、意図的に運ばれたことがわかるわ」


 そういいながら、ラーメンのスープをごくごくと飲み干す。

 見ていて気持ちいいほどの食べっぷりだ。


「その疑問点って?」


「まず、ユウタくん、きみがキャンプ地で退治したモンスターは4体で間違いなかった?」


 なるほどね。


「間違いありません。公園の外で2体。仮設住宅のなかで2体です」


「なら、消えたのは公園の外で倒したモンスターね。1体しか見つからなかった。もうひとつ、きみはその1体を確実に倒していた?」


 ぼくはまわりを見渡した。幸い、店内にいるもう一組の客は店の端っこだ。聞いて気持ちのいい話じゃない。


「1体はほぼ袈裟懸けに。もう1体は刺し傷こそ少ないですが、頭を強く打ったせて退治しました。やつらが仮死状態だった、というのなら、確実とはいえません」


 ナナミさんはうーん、と唸って、今度はメイに質問を投げた。


「あの近辺での認可企業はアイノースのグループだけ。報告漏れの可能性はある?」


「弊社は日本政府と良好な関係を築いています。そしてそれが今後も続くことを願っています。真木村さんの質問への答えはノーです」


「オーケー、ふたりとも、疑ってごめんなさい。でも、確実にしなければいけないの」


 そういって、復興対策本部のエリートは声を低くした。


「では、違法な回収が、行われている。わたしたちはこの見解を正式とする。これは由々しき事態。新聞に小さくとも載ってしまった。解決しなければならないわ」


「でも治安維持は警察の仕事で、対策本部の業務ではないのでは?」


「あっちはあっちで人手不足。人間の犯罪だけで手一杯。だから転生とモンスターについてはしばらく私たちが捜査権をもつわ。だからさ」


 と、ぼくらの手元のラーメンを指差した。


「協力してね?」


 めちゃくちゃ高くつくラーメンになった。

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