第27回 幕間 対策本部のふたりの雑談
「で、その髪の毛を置いて行ったんですね、ユウタくんは」
「そうよ。まあ、なんとか上に話をつけて、しばらくは監視を強化するってことで押し込みたいんだけどね」
「でも現場の隊員たちもあれから意見を変えていましたよね。あの子を助けてあげてくれ、モンスターに連れ去れれた子供を助けるようなひとが、悪いことはしないって」
「そんなのわかっているわよ。わたしだってできるものならそれで押し込みたいけどね、それができないからあんなこと言っているわけ」
「うへえ、嫌われ役も辛いもんですね。次からの出動依頼に支障がでなければいいんですけれどねえ」
「それもあたまの痛い話よ。ほんとう、現場の窓口のあたしの苦労、あのくそ上司たちはわかっているのかしら?」
「二枚舌も大層でしたしね。ユウタくんには脅すようなこと言って、エリカちゃんでしたっけ? あの子にはユウタくんへ伝えたことを全部ばらして、しかも髪の毛だけでいいって答えまで教えちゃって。うまくそこに落ち着きましたけど、もしあのままふたりが手に手をつないで国外逃亡なんてされたらどうするつもりだったんです?」
「うっさいやつね。そうなったらそうなったよ。あたしだって佐倉ユウタに脅されて、仕方なかったって言ってあの子に悪者になってもらうつもりだったわ。それでぶつぶつ言えるやつなんているもんですか」
「そりゃあね、人類最強の英雄ですもんね。だれも逆らえない」
「でも、きっと落ち着くところに落ち着くって思っていたわ。あの子は馬鹿だけど頭がよくて、やっぱり馬鹿だから」
「せんぱい、意味分かってないのに言ってますよね?」
「あんた、ほんとう嫌なやつね。崩壊危機前はもっと素直で可愛げもあったのに」
「へっへっへ、まあ、人間変わりますよね。せんぱいだって、もっと深窓の令嬢っぽい雰囲気だったのに。すっかりかわっちゃいましたよねえ。でもまあ、度胸あるように見えて、心底びびりまくってましたしね。あのとき暴れられたりしたらどうしようって。せんぱい、あのときの脇汗やばいぐらいびしょびしょでしたし」
「なっ……! てめえ、見てやがったのか! ちょっとこっち来やがれ!」
「うひゃああ、見てない見てない! うそうそ! それに先輩、さっき前田部長が呼んでいましたよ。早く行かないと! うわ、苦しい……ギブ!ギブ!」
「前田部長が? なんの用だって?」
「な、なんか、避難キャンプ先で……モンスターの死骸が……消えたそうで……ってまじ、ギブです!」
これで「世界平和に不都合なぼくたち」の第1話はおしまいで、次は第2話です。勇者の登場です。




