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世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第一話 魔王さん、お断り
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第26回 世界平和に不都合なエリカ

 いいよ、と答えてから、エリカはすとん、とベンチに腰を下ろした。下ろして、ぼくのてをぐいぐい引っ張って、座るように促した。いやいや、なにいっているのさ、すぐに行動しないと。復興対策本部だって、悠長なことはやっていないんだから。


「まず、座って、ユウタ」


 そういって、晴れやかしい笑顔をぼくに向けた。毎回思うけれど、この笑顔こそエリカの幻覚魔法の真骨頂なんじゃないかな。ぼくはエリカに促されるようにして、座った。


 時間は5時をすぎていた。夕日がゆっくりと山の影に沈みかけ、あたりはたそがれの色に包まれていた。エリカはまぶしそうに太陽の沈むのをみながら、くちもとには笑みを含ませていた。


「時間はまだある。だから、わたしの話を聞いて」


 ぼくはうなずいた。


「ありがとう。まずはさ、きょうはありがとう。すごく楽しかった。たぶん今までで生きてきたなかでいちばん」


 そういってから首をかしげて見せた。


「あれ、でも転生したってことは、前の世界のことも含めていいものかな? ま、いいや。そこらへんはざっくりね。でもほんとう、いちばんだったよ。世界崩壊を防いで、みんなでわいわいお祭りした時も楽しかったけれど、あれって戦争終結のときと同じだった。嬉しさもあるけれど、かならず悲しみが含まれているよね。でもきょうは違う。どこもかしこも活気があって、みんな生きていて、みんなこれから生きていこうって思っててさ。そんな街にきたのは初めてだった」


 エリカはもう片方のてのひらを見た。


「だって、あたし魔王だったもの。王様だったの。なかなかさ、街なんか行けないし、そもそもずーっと戦争戦争、また戦争って世界だったし。こんな世界があるんだなって、思ったよ。もう遅いけど、前の世界でも、頑張ってたらこんな街をつくることができたのかなとか思っちゃったよ」


 そして、照れくさそうにぼくの顔を見た。


「ユウタのおかげでいまはあのマンションに暮らしていて、嬉しいよ。でもさ、やっぱりわたしはまだこの世界に受け入れらえていないってどこかで思っていた。ユウタもかえでもわたしのことを秘密にしていてくれたけれど、なんか、それも嫌だった。ごめんね。でも本心だよ。だから昨日、モンスターがたくさん現れたとき、あの子どもが連れ去れれたとき、頭使えば、混乱とか幻覚の魔法で撃退することもできたわけ。対策本部のひとたちからだって逃げ出せたわけ。だって、わたし、大魔王様だから。すごいんだから。でも、これからも、ずっとこのままは嫌なの。だから、受け入れて欲しかった。でもやっぱりだめだったね」


「エリカ、そんなことはない! だって、きみは……」


「ううん、いいの。仕方ないよ。わたし、強欲な魔王様だからいっきに全部がほしくなったんだ。でもいい。ほんとうに欲しかったものはわたしの近くにあることがわかったし」


「欲しかったもの?」


 エリカは「うーん」と唸ってから、首をかしげながらいった。


「もう、ばらしちゃってもいいかな。ほんとうのこというと、真木村さんから、条件を聞いていたの。ユウタが政府から信用を受けるための条件」


 たぶんぼくの顔には驚きが浮かんでいたんだろう。条件を聞いていた? エリカはあの条件を聞いていたっていうのか? それじゃあ、この子は、このデートの間、ずっと意識していたっていうのか。ぼくの懐に彼女を傷つけるための刃があるのか、ないのか、と。


 なんて残酷なことをするんだ。


 ぼくは目の前がくらくらと怒りに揺れた。


「まあ、人類最強のユウタだったら、わたしの抵抗虚しくやられちゃうかもーぐらいは思っていたけれど。でもさ、でも、きみはやらなかった。わたしの手を引っ張って、逃げようっていってくれた。友達とか家族とかがいる日本じゃなくて、わたしを……」


 それからぷいっと顔を背けて何かをごにょごにょいっていたけれど、またぼくのほうを向いたとき、夕焼けに、エリカの顔は真っ赤に染まっていた。


「だからさ、いまは世界のひとからいらない子だと思われていてもいい。仕方ないもん。魔法を怖がらなくなるまで、時間はかかる。受け入れてくれるまで時間はかかる。でも、ユウタがいる」


 そういってエリカは急に立ち上がると、長い髪の毛を束ね始めた。そしてそれを左手でつかむと、右手がみるみるうちに氷でできた刃に変わった。


 あっという間だった。


 彼女は氷の刃で髪の毛をばっさりと切り落とした。


 左手に髪の毛の束をもち、ふぞろいに短くなった髪の毛を右手で整えながら、それでもエリカは満面の笑みを浮かべていた。


「さすがに腕とか足とか切るのは嫌だけど、真木村さんは言ったよね、体のいちぶって。髪の毛だって体のいちぶだ。彼女はこの可能性を残しておいてくれたんだと思う。きみが思うほどにあのひとは冷徹じゃない。これで、納得してくれると思うよ」


 ぼくはエリカを見ていた。髪を切らざるを得ない出来ごとがあったんだ、と誰かに対して思ったのはたしか最近だったような気がする。その左手に持ったものは、そう、ぼくへの信頼の証なんだ。


「わたしもさ、転生の時に特典をひとつつけるよ、って言われたんだ。なんでものぞみのものをやるって。だからわたしはお願いしたの」


 水と氷の魔女、以前の世界では魔王と恐れられ、街を歩くことも、隣にいてくれるひともなく、同じ血族によって裏切られ、この世界では平和を脅かすかもしれないとレッテルを貼られてしまったこの小さな女の子は、ぼくの顔をみつめ、ほんとうに嬉しそうに言った。


「わたしは友達がほしいって」

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