表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界平和に不都合なぼくたち  作者: さんかく
第一話 魔王さん、お断り
25/153

第25回 世界平和とデートとぼくの決断

 エリカはソフトクリームのコーンもさくさくと口のなかに放り込んで、大きく背伸びをした。


 ベンチの脇にはきょう買った新しい服が、いくつもの紙袋に入っている。さすが前の世界では魔王とはいえ、王様だっただけはある。ぼくの財布事情なんか御構いなしに、あれがほしいこれがほしいとわがままをいっては、ふいっと次の店に入っていく。

 もちろんまるまる買うわけにはいかないから、店員さんに事情を話して、都合のつくだけ、エリカの好むものを買った。おかげでぼくは今月の残りの生活に、そうとう頭を悩ますことになる。あのお蕎麦屋さんでバイトでもさせてもらおうかな。


 3時間、エリカは楽しそうに街のなかを散策した。

 復興途中とはいえ、いろいろな店が出ている。街は少しずつだけれども、確実に着実に、活気を取り戻していた。エリカはそんな街を楽しそうに見回していた。


「あたしの世界にも、こんな街はたくさんあったよ。元気な街は見ていて楽しいものだよ」


 そういえば、エリカはあんまり前の世界のことを話さない。そんな話を聞いている余裕もなかったのかも知れないけれど、この表情豊かな大魔王様のことをぼくは知らないのだ。


 彼女が意外に淡いブルーやピンクの服が好みだったり、アイスばっかり食べていたり、歩く速度がぼくよりも早くて、時々不安そうに振り向いて、ぼくがついてきていることを確認するとにっこり笑って見せたり、街のひとに興味を持っているのに、人見知りで、あわててぼくの手を引っ張って代わりに話させたりと、ふつうの女の子の面をぼくは知らなかった。


 だから雑談のように、ナナミさんとの話のことを聞かれ、ぼくは情けないことに口ごもっていた。世界を崩壊から救ったっていうのに、世界はぼくらに対して、けっしてあまいものではない。冷徹なシステムを受け入れるべきだと思っていたけれど、いざシステムの分厚いかべの前に立たされると、ぼくは惑いに蝕まれていた。


 エリカの体のいちぶを壊して見せて。


 なにそのスプラッター映画的要素。そんな映画、ぼくの好みじゃない。ぼくはコメディや嬉し恥ずかしの恋愛映画が好みなんだ。

 だって、これってデートじゃない? デートの後にあいての女の子をぼこぼこにするような映画なんて、そんなの、いやだ。


 エリカは自分で逃げなかった。それはきっとこの世界のひとを信じて、そしてぼくを信じてくれたからだ。彼女は転生してきて、前の世界から世界最強クラスの魔法のちからをもってきたけれど、この世界で、受け入れてほしいと思ったんじゃないだろうか。だから逃げなかった。自分からぶつかっていった。そしてぼくに託した。


 でも、彼女の思いはかたちにできなかった。


 この世界にとってやっぱりエリカの存在は不都合で、少なくともなにか他の抑止力がないと存在することも許されなかった。


 そしてぼくはエリカをかばうことも、この世界との架け橋になってあげることも、できないのだ。


 ナナミさんはぼくのことを信頼していると言ってくれた。


 でも、エリカは逃げないこと、抵抗しないことでぼくのことを信頼していると示していたんだ。


 ぼくには両立できない。片方を選ぶしかない。だったら、ぼくはナナミさんから提示された方法ではない、もうひとつの方法を取る。


 ここから逃げる。


 ふたりで逃げる。


 やっぱりかと思われるかもしれない。でも、あの世界を崩壊へと導いた最強最悪の魔王との戦いでエリカは何度も死にかけた。それでもたまたま転生をしてきたこの世界のために彼女は戦ってくれた。そんな子に、報いることができない国なら、捨ててやる。


「エリカ」


「は、はい!」


 とつぜん強い口調で名前を呼んだから、エリカはびくっと肩を震わせた。


 ぼくはエリカの手を握ると、立ち上がった。すこし乱暴だったかもしれないけれど、彼女の体をぐいっと引き上げた。


「逃げよう。この国から、ふたりで逃げるんだ」


 何言い出してんだ、こいつ、と思われるかもしれない。でも、ぼくは真剣だった。


 目をしろくろさせていたエリカは、しばらくして、ぼくの顔をじっと見てから言った。


「それがきみの答えなんだね」


 そうだ。そう、ぼくにこの答え以外は、ない。


 エリカは言った。


「いいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ