第24回 世界平和と欠席魔女裁判 たったふたりの公判と判決
「それで、ユウタはどうしたの?」
エリカは散々駄々をこねててねだったソフトクリームを美味しそうに舐めながら、まるでずっと同じ話を続けているようにたずねた。待ち合わせの前にあんなに食べて、おなかを壊さないのか、とぼくが呆れて聞いたあとに。
「どうしたって?」
「取調室でのことだよ。わたし、その話は聞いてないんだ。教えて欲しいよ」
エリカはちらりと、横に座った僕に視線を向けた。
「わたしがいまここでこうしてきみとアイスを食べられている、その理由を、さ」
※ ※ ※
ナナミさんはぼくが話をしている最中、ひとことも口を挟まなかった。
ぼくは経緯を伝えた。
エリカは世界崩壊の危機を救ったうちのひとりであること、その方法は彼女が異世界の魔法の力であること、ぼくがそれを知りながら秘密にしていたのはこうなる恐れがあることを話した。
ただし、ぜんぶじゃない。エリカが魔王と呼ばれていた存在だったことは黙っていた。それは問題の根幹じゃない。大事な事は、彼女が異世界からこの世界に転生してきて何をしてくれたかだった。
じっと黙っていたナナミさんはぼくがひととおり話をし終わったと思うと、いくつかの質問がある、と言った。
「きみは彼女……エリカさんがこの世界の脅威になる可能性はあると思う?」
「否定はしません。そのちからがあることは、ナナミさんも聞いていると思います。でも、そんなことをさせないと、ぼくは誓います」
「そんなことができる?」
「はい」
「どうやって?」
ぼくは右手を前に突き出し、てのひらを開いて、そして力いっぱい握って見せた。
ナナミさんはそれを見て小さく頷いた。
「ちからで、ってことね。いいわ。愛だの友情だの精神論を言われるより、はるかに飲み込みやすいわ。でも、声に出して言って欲しい」
うしろで若い男のひとがノートにペンを走らせている。ここでのコメントはすべて正式な記録として残るのだ。
「最悪、ちからづくで彼女を押さえ込みます」
「最悪になる前にそうしなければいけないんだ。分かるよね?」
「はい」
「いいわ、次の質問。その言葉を信じられる根拠は? きみはわたしたちにうそをついていた。だからいまの発言もほんとうだとは納得できない」
「それは彼女がこの世界に危害を与えるのを、ぼくが見過ごすということですか?」
何も答えなかった。ただ、目をつむって、回答の続きを待っていた。
おちつけ、ぼく。そうじゃない。いまの質問は、そんなことを聞いているんじゃない。ナナミさんはぼくの信頼について、担保について聞いているんだ。契約書や念書ではないところでの根拠を聞いているんだ。
しかし、なにができる。
エリカに鈴の首輪でもつけておけってことだろうか。
ぼくは考えた。
考えて、考えて、考えて、そしてたどり着いたのはめまいがするような、答えだった。
ナナミさんは読心術でも心得ているんじゃないかって思うほど、ぼくの考えを見透かしたようにおもむろに口を開いた。
「エリカさんの身体のいちぶを壊して見せて。そうしたらあなたの言葉を、たぶん政府は信じられる」
期限は18時間後の、午後6時。
残念ながら、ぼくにはそれ以外の答えが見つからなかった。




